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声優・清水セイラの大冒険 ミステリー短編集  作者: 灰庭論
CASE.2 キャラクターショー殺人事件
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キャラクターショー殺人事件 解答編

 青髪のカツラとドレスを着たラビット姫、ではなく、セイラお嬢様による推理が始まろうとしていた。滝上警部には前もって許可を取ってあるので、会議室では刑事さんたちも手を休めて注目している状態だ。


「始めに、先ほど披露した誤った推理を訂正させていただきます。わたしの推理によって白山さんが疑われてしまい、ご迷惑をお掛けしました。本当にすみませんでした」


 死神教授が問う。


「白山君が犯人じゃないなら、君が犯人ということになるんだよ?」

「いいえ、そうはなりません。なぜなら真犯人の名を知っているからです」


 そこで青ラビットが訴える。

「オレじゃねぇぞ」


「はい。青ラビットさんではありません。なぜなら、カメラに映っていた犯人と身長が大きく違いますからね。今は映像を解析すればおおよその身長を割り出せる時代です。それで警部さんもみなさんを立たせて調べたわけですが、青ラビットさんだけ頭一つ分だけ高かったですからね。身長を高く見せ掛けることはできても、低くさせることはできないので、本件とは無関係と断言できます」


 死神教授が再び問う。


「じゃあ、私か、緑川君か、桃井君が犯人だっていうの?」

「はい。ポイントは、わたしが着ている、この衣装ですから」

「待ってよ、いくら細身だからって、オジサンには無理だって」


 そこで女性のような見た目をしている緑ラビットに視線が集まる。

「え? ボク? 一度着ようと思って試したけど、ダメだったよ」


 ラビッタンも追従する。

「ワタシも絶対にムリだから」


 いよいよ核心をつく時がきた。


「三人とも、今わたしが着ているこの衣装を着ることはできないと思います。でも、それでも構わないのです。なぜなら、この衣装と同じデザインで、サイズ違いのドレスを、もう一着用意すればいいだけなのですからね。これは一着しかないという思い込みを逆手に取って利用した犯行というわけです」


 僕だけがセイラさんの無実を疑わなかったからこそ導き出せた答えだ。


「赤ラビットさんのスマートフォンを盗んで、衣装を着せてから個別に待ち合わせをしたのは、衣裳部屋への出入りをコントロールするためですね。犯行時刻にドレスの所在が確認されてしまうと、二着あることが早々にバレてしまうからです」


 本当は白山さんに罪を着せるつもりだったのだろう。


「犯人は内部事情に精通していて、赤ラビットさんと二人きりなら応じない約束でも、死神教授を交えた約束ならば素直に従うことを知っていたんです。さらにわたしの着替える時間に関しても、死神教授が『あまり早く着替えないように』と忠告することも知っていました。ギャンブルではありますが、犯行時刻を本番前の三十分に設定して、実際に疑問を持たれず殺害を行えたのは、関係者の行動パターンを知り抜いていたからですね」


 ここの人たちは自己紹介の時から規律正しい行動をしていた。


「犯人が誰であるかを特定するには、二着目の衣装を見つけ出せばいいわけです。死神教授が仰っていましたが、ひも状の凶器を処分するだけならば燃やせばいいだけですが、ドレスは簡単に処分できません。ですから、今もどこかに必ずあるはずです」


 あと一息だ。


「隠せる範囲が狭いので、建物のどこかに隠しても、警察が総力を上げて探せば必ず見つかると考えたに違いありません。また、仮に見つかったとしてもドレスだけならば言い逃れすることができても、カツラの方は入手経路を特定されると考えた。だから犯人は絶対に見つからない場所に隠すことにしたのです」


 いよいよ犯人を名指しする時がきた。


「三人の容疑者の中で、二着目のドレスを絶対に見つからない場所に隠すことができた人物は一人しかいません。それはウサギの頭の中、つまりラビッタン、あなたが犯人ですね」


 桃井さんは既に観念した様子だった。

 滝上警部が部下に指示を出す。

 松本刑事がウサギの頭部をこじ開ける。


「ありました。凶器と見られるぶつも一緒です」


 セイラさんが桃井さんに歩み寄る。

 何をするというのだろう?

 もう、すべて終わったはずだ。


「桃井さん、どうして人殺しなんかしたんですか?」

「彼が浮気性なのは知っていました。だけど、『結婚を考えている』っていうから、お付き合いすることにしたんです――」


 痴情のもつれというやつだ。


「でも、『結婚を考えている』っていうのが、浮気する時の口説き文句だったんです。それでバカにされたのが許せなくて、いや、信じた自分がバカみたいで、後悔させたくて、殺そうと思いました」


 僕だったら踏み込まない領域だ。

 でも、セイラさんは違った。


「殺したいほど憎んでしまったのですね」

「はい。どうしようもないほど憎かったです」


 その言葉に、セイラさんは心を痛めたかのような顔をするのだった。


「殺したいほど憎たらしいということは、あなたにとって価値のない人なわけで、そんな人のせいで、あなたの大切な人生が損なわれてしまったというのが、悔しくてなりません」


 そこで桃井さんが大きな溜息をつくのだった。


「殺してしまったことで、一生ついて回ることになったんですね」


 そう呟いて、静かに涙を流すのだった。


 もう少し早くセイラさんと出会わせてあげたかった。



 警察への捜査協力を終えて、セイラお嬢様が社用車の後部シートに乗るのをエスコートしてから、運転席に回り込んだのだが、シートベルトを締めずに考え事をしていたので、発車させることができなかった。


「セイラお嬢様、どうかされましたか?」


 バックミラーを通して尋ねてみた。

 セイラさんが隣に座らせている大きなクマのぬいぐるみを見ている。


「本当はね、最後に一言だけ、決めゼリフのように、『殺人を隠蔽するために、ぬいぐるみを利用してはいけません』って言おうとしたの。でも、言わなくて良かった」


 セイラさんにも迷いがあったようだ。


「どうして言わなくて良かったと?」

「だって、それは裁判だと『本件とは関係ありません』って異議申し立てがあり、おそらくだけど、それを裁判長だって認めるでしょう? 警察官や法律家ではないのだから、差し出がましいことを言わないのも大事なのかなって」


 これだから探偵は難しい。


「そうですね、特にセイラお嬢様は人のことが言えませんものね?」

「あら? それはどういう意味ですの?」

「つまり、その、ぬいぐるみを大切にされているようには見えませんから」

「どうして? こんなに大事にしてるのに」


 と言って、クマをギュッと抱きしめるのだった。


「ああ、いや、クマちゃんにしてみればヨダレ掛けにされていい迷惑かと」

「酷いっ! ヨダレなんか垂らさないもんっ! ほんと、先生なんか大っ嫌いっ!」


 事実を伝えると、褒められることもあれば、怒られることもある。今日はたまたま後者だったというわけだ。


 それでも帰宅途中にクリーニング店に寄って、洗ってあげるのが彼女の優しさだ。本人は『お風呂に入れてあげるだけ』と言い張っていたけど。


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