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声優・清水セイラの大冒険 ミステリー短編集  作者: 灰庭論
CASE.2 キャラクターショー殺人事件
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キャラクターショー殺人事件 問題編 2

 店長さんに連れられて、キャラクターショーのリハーサルを行う会議室に行くと、十名のキャストから歓迎を受けた。といっても、喜ばれたのは僕ではなく、セイラさんだけだけど。


「それじゃあ、クロさん、後はよろしくね」

「あいよ」


 僕たちの紹介を終えると、店長さんは座長に仕切りを任せて通常業務に戻って行った。


 座長の黒石さんは四十代の男性で、床に座っているキャストは全員若いので、上司と部下というよりも、先生と生徒の関係に見えた。


「いやぁ、今日は助かりました。持つべきものは友というヤツですね」


 黒石さんは若い時に市民劇団を旗揚げして、芸能関係の知り合いが多いということもあり、それで彼の友人から僕のところに仕事の話が回ってきたというわけだ。


「それじゃあ、一人ずつ簡単な自己紹介から始めましょうか。まずは私から。脚本演出の黒石です。『ラビットレンジャーズ』では死神教授役を演じています。みんなから『悪役に見えない』って言われていますが、ステージではちゃんと怖がってくださいね」


 痩せぎすの優男といった風貌だ。


「じゃあ、順番に挨拶してもらおうか。はい、みんな立って」


 全員がサッと立ち上がったので、演出家としては一目置かれているようだ。


「赤ラビット役の赤松です。何か分からないことがあったら、なんでも訊いてください。俳優志望ですが、声優のオーディションも受けていますので、相談に乗ることはできると思うので」


 背は高くないけれど、主役が似合いそうな顔をした男だ。

 次に隣に立つ長身の男が自己紹介をする。


「青ラビット役の青木です。気をつけてくださいね、コイツは『相談に乗る』って言ってますが、本当は口説きたいだけですから」


 すかさず赤松が反応する。


「あん? なに言ってんだよ」

「本当のことだろう?」

「本当って?」

「お前のせいで何人辞めたと思ってんだ」

「それが全部オレのせいだっていうのか?」


 そこで座長が止めに入る。


「まぁまぁ、ケンカは止めましょう」


 悪役がヒーロー二人の喧嘩を止めに入るという、シュールな絵面だ。

 二人とも注意されるとすぐに口を閉じたので、いつものことなのだろう。

 次に隣の女性が自己紹介をする。


「緑ラビット役の緑川純です。見た目は女の子の格好をしていますけど、中身は男の子です。うん? 違う。中身も女の子で、性別だけが男の子でした。えへっ。そんなボクですが、よろしくお願いします」


 なぜか彼だけセイラさんではなく、僕の目を見ながら挨拶するのだった。

 次に隣の女性、と思われる人が自己紹介をする。


「ラビッタン役、いや、役じゃないか、この店のマスコットキャラ、ああ、着ぐるみね、その中の人をしている桃井です――」


 そこで桃井さんがセイラさんから座長さんの方に視線を移す。


「っていうかさ、優子ちゃんが怪我をしたなら、ヒロイン役はワタシで良くないですか? なんでわざわざ代役を立てなきゃいけなかったんですか?」


 それに答えたのは座長ではなく青ラビットだ。


「お前の体型だと衣装が破れちまうからだろう」

「ハァ?」


 桃井さんは決して太っているわけではない。


「腹回りの肉が邪魔だって言ってんの」

「見たことあんのかよ?」

「そこまで趣味は悪くないんでね」

「団員が辞めてるのは、お前の口の悪さが原因だろうが」


 そこで、またしても死神教授が止めに入る。


「まぁまぁ、客演の方がいらしてるんですから、仲良くしましょう」


 それから死神教授の手下を演じる五人の大学生が自己紹介を行った。同じ演劇サークルで、ボランティアで参加しているようだ。お店で余った食糧廃棄物を現物支給として貰えるそうで、それで男手には困らないとのことだ。


 怪我をした白石さんを含むメインキャストの六人も平日は仕事があり、残りの時間を演劇活動に充てているわけで、そういう人たちによって演劇文化が支えられているという事実を、忘れてはいけないと思った。



 自己紹介が終わるとリハーサルが始まったけど、演出の黒石さんが行ったのは演技指導ではなくて、客席から撮影した本番の録画映像を確認させることだった。それでセイラさんも一発で理解できるのだから流石である。


 それから休憩していた他のキャストと一緒に客入り前のステージに行って、通し稽古を行うのだった。それも途中で止まることなく一回で終わったので、本番十五分前まで自由時間が与えられた。



 その間に僕とセイラさんは、黒石さんに先導されて小道具が置いてある倉庫へと案内された。そこは物置ではなくて、お店で売られている商品の在庫が保管されてある本当の倉庫だった。


 在庫品が置かれている棚があって、それとは別に、壁際に芝居用の小道具を保管する棚もあって、そこに『ラビットレンジャーズ』の三人が被る装飾を施したヘルメットなどが置いてあった。


「そういえば、ラビット姫が使う小道具はカツラだけだから、ここにはないんでしたね。衣裳部屋の方に置いてあるんだった。いやぁ、申し訳ない」


 そこで天井に防犯カメラが取り付けてあるのを見つけた。


「こんなところにもカメラがあるんですね」

「はい。小売業は万引きだけではなく、従業員の犯罪も多いって言いますからね、それで倉庫も監視しているというわけです」


 それから隣の衣裳部屋へ向かった。



 衣裳部屋へ行くと、キャスト全員分の衣装がオープンクローゼットに掛けられてあった。マスコットキャラであるウサギの着ぐるみもあり、大きな頭部が潰れた状態で段ボールの中に雑に放り込まれてあるのだった。


「ここに『ラビット姫』の衣装もありますから、本番の十五分前までに取りに来て着替えて下さい。着替えてからの飲食は禁止です。ですから、あまり早く着替えないようにしていただきたい。飲み物も色のついたコーヒーなんかは厳禁で、できれば水でお願いしますね。それとみんなが出入りしますので、ここで着替えずに、トイレの方で着替えてください――」

 と言いつつ、死神教授の衣装を取る。

「私は裏方の仕事があるので先に着替えさせてもらいますけどね」


 そこで一通りの説明が終わったらしく、三十分の休憩が与えられた。



 衣裳部屋を出たところで、赤ラビットが死神教授の元へ駆けつけてきた。


「座長、オレのスマホをどこかで見ませんでしたか?」

「呼び出してみました?」

「オレ、バイブにしてるから」

「ああ、そうでしたね」

「赤いスマホ見ませんでしたか?」


 尋ねられたけど、心当たりはなかった。


「見てませんね」


 セイラさんも同様に答えた。


「そうですか。じゃあ、他の人にも当たってみます」

 と言って、去って行った。



 それからセイラさんを会議室に送り届けて、本番前には客席がいっぱいになるというので、特等席を確保するためにステージのある屋上の子ども広場へ行くことにした。


 そこで本番が始まるのを待っていたのだが、その直前になってスマホに着信が入り、見てみるとセイラお嬢様からだったので、急いで電話に出た。


「リョウ君、どうしよう? わたし、また容疑者になっちゃいました」


 僕が目を離した間に、またしても事件に巻き込まれてしまったようだ。


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