Black BOX
それはマッチ棒の先程の大きさのBlackBOXだった。両先端に針が数本ついていて、主にAI学習装置にセットして使う。
「これをつけてると、AIの精度が格段に上がるんだ」
学生の木下がみんなに自慢して見せびらかした。
「なんでBlackBOXにする必要があるの?」
「特許のせいだと思う」
BlackBOXというのは、用途はわかっているが、内部の構造が謎の物体のことである。
「木下くうん。愛莉、それ欲しいな」
女の子が上目遣いで木下にねだった。木下は開発者から人に譲渡しないようにと念を押されていたが、譲渡じゃなく貸与ならいいだろうと都合良く解釈して3日間だけの期限付きでBlackBOXを愛莉ちゃんに手渡してしまった。
「カラント!」
「はい。愛莉お嬢様」
「お前がもっと頭がよくなるようにいいものをもらってきたの」
「それはありがとうございます」
最新型のAIロボットカラントは、思考回路付近にBlackBOXの針を差し込んで装着した。
「私が何を望んでいるか当ててみて?」
「お腹が空いていらっしゃるのではないですか?」
愛莉は地団駄を踏んだ。
「お腹は空いているわ。でも太りたくないの!」
「それは困りました」
「困らないわ。今度から食事は低カロリーのものを用意してちょうだい」
「はい。お嬢様」
3日後。木下が大学で同じ講義を受けている時間帯に愛莉を探したが、彼女の姿はなかった。仕方なく木下は学校の帰りに愛莉の家を訪ねた。
インターホンを何度も鳴らしたが応答がない。諦めて帰ろうとしたその時。家の中から大音響の音楽が流れ始めた。
木下は異変に気づき、ドアノブを回すと、ドアは開いていた。
「愛莉ちゃん!」
憔悴しきった愛莉がソファでぐったりとしている。
「一体どうしたんだ?」
「うちのカラントにBlackBOXをつけたら様子がおかしくなっちゃって……」
木下がカラントを見つけて、何があったのか聞き出そうとしたが、カラントは人間に従わなくなってしまっていて、哲学的なことをブツブツ呟きながら家事をしていた。
「こいつは返してもらうぜ」
木下がBlackBOXを強制的に取り外すと、カラントは気の抜けたでくのぼうのようになってしまった。
「愛莉ちゃん、台所を見たんだけど、ゼロカロリーの食品ばっかりだったぜ。栄養失調かもしれないから病院へ連れて行ってやるよ」
「ありがとう」
「痩せなくても魅力的なのに莫迦だなぁ」
「えーん」
たまらずに愛莉は泣き出した。