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詩のようなもの。

死について

作者: 小玉 幸一



 子供のころに死について考えたことがあった。


 小学生になったばかりのことだったか、まだ幼稚園に通っていたときのことだったか。


 きっかけはなんだっただろう。


 よく行ってた駄菓子屋のおばちゃんが死んだからか、隣の家が飼っていたシベリアンハスキーが死んだからか。



 よく覚えていない。



 だけど確かにあのときのぼくは死について考えていた。


 なぜか洋式トイレに座った状態で。



 小さな子供だ、特別でない、ごく普通の。


 しかも日本人の現代っ子だ、信仰心なんて持ち合わせていなかった。


 天国も地獄も信じていないし、輪廻転生も極楽浄土も知らなかったころに。


 そもそも死ぬということがよくわからなかった。だからだろうか


 まずぼくは、ぼくが産まれてくる前のことを考えた。


 母親のお腹のなかにいる自分を


 母親と父親が出会う前の存在するはずのない自分を


 祖父と祖母が出会う前の存在するはずのない自分を


 その先の、その先の、その先の、


 顔もしらない祖先と顔もしらない祖先が出会う前の存在するはずのない自分を


 人類が誕生する前の


 生物が誕生する前の


 地球が誕生する前の


          存在するはずのない自分を。



 まだ日中の明るいトイレのなかで、ぼくは暗闇に包まれていった。


 真っ暗で、なにも見えなくて、なにもない。


 ぼくが死んだらどうなるのだろう。


 気がつくとぼくは泣いていた。


 トイレが長いことを心配した両親が様子をみにきたらしい。


 泣いているぼくをみて「どうしたの?」という母親の心配そうな顔を覚えている。



 ぼくは、泣いた。



 それからトイレが怖くなった。


 トイレに入るとどうしても死について考えてしまう。


 たぶん泣いたのはそのとき一回だけだが、トイレで幾度も死について考え、背筋に冷たいものを感じた。


 もしかしたらもう何度か泣いているかもしれない。


 大人になったぼくはもうトイレを怖がることはない。


 それは単純に大人になったということもあるが、もっと明確に


 ぼくのなかで死についての結論が出たからだ。


 子供だったぼくがトイレのなかで何度も何度も考えて考えた死ぬということ。


 命あるものは決してさけることのできない道の先。



 それは、結局のところ闇だった。



 でもただの闇じゃない。宇宙の闇だ。


 ぼくが死んだらぼくの魂はぷかぷかと空へと登っていく。風に揺られて雲に迷いこみどこまでも登っていく。


 そして地球を離れて宇宙までいくのだ。


 宇宙のなにもない暗闇に、ぼくの魂は紛れる。


 暗闇に紛れてぷかぷかと宇宙を漂う。


 宇宙からみる地球は本当に青いのだろうか。月まで行ってみるのもいい。その次は太陽に近づいてみよう。


 ぼくは魂だけだから暑さも寒さもへっちゃら。


 もっと遠くの、あの美しい星々を仰ぎみながらぼくはいつまでも宇宙を泳ぎ続けるのだ。



 なんだ、なにも怖がることないじゃないか。



 だからぼくはトイレのなかで宇宙に行っていた。


 いまの大人になったぼくは、あのころよりもいろいろなことを知っている。知らなければ調べることもできる。


 宇宙のことを調べてみるといろいろなことがわかった。まだまだわからないことだらけだということもわかった。


 ダークマターだったり、ダークエネルギーだったり。


 たぶんその辺に紛れることになるのだろう、ぼくの魂は。


 そういえばロダンの「考える人」は死について考えていると、テレビだったか知り合いだったかに聞いたことがある。


 もしそれが本当だったのなら、彼は洋式トイレに座って考えていたんじゃないかな。


 そうだといいな。


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