第四話
お読みいただきありがとうございます。
※ここから先は猟奇的表現が多数出てまいりますので閲覧には特にご注意ください!
「父上?」
「あー…あのな…私達魔族の血を継ぐものは、一度相手を決めてしまうとその伴侶の血肉でしか栄養がとれなくなるんだよ…」
「「はっ?」」
二人の声が綺麗にそろう、ポカンとした表情がみるみるうちに蒼ざめた。
「魔族全員がそうなのかは分からんのだが、うちの先祖は人を喰らわないと生きていけない種族だったらしくてな…だが誰彼構わず喰らっては国が滅びかねん、それを防ぐために王族には生まれたときに先祖が考案した『ある魔法』が施されるようになってな…そのおかげで一度伴侶を定めてしまうとその相手からしか栄養が摂取できなくなるんだよ…伴侶以外を糧として食事がとれないわけじゃないが、空腹も満たされないし栄養にもならない」
その話を聞きながらエーサはガクガクと震え出した。
「そ…それではもしや…」
「ああ…今後は其方がニヴァルの食事の世話をしてやってくれないと飢え死にする」
もうしわけなさそうに王はエーサに答えた。
「そ…そんな…」
泣きながらエーサは立ち上がりニヴァルから離れようとする
「エーサ! 待って…私は君を傷つけるつもりなんかない!」
エーサに追いすがり抱きしめようとする。
「いやあああああ! 触らないでよっ!」
振りほどこうとエーサは腕をふりまわす。
王は見かねて、エーサに魔法を行使する
【眠れ】
魔法を受けたエーサはガクリと倒れる寸前でニヴァルが抱きかかえる。
王はそれを見ながらため息をつき
「ニヴァル、お前はとりあえず話を最後まで聞きなさい」
とエーサを抱えたまま離そうとしないニヴァルを座らせる。
うなだれたニヴァルはポツリと王へ問いかける
「父上…ならば父上は今までずっと母上を糧としてこられたのですか…?」
問われた王は困ったように
「ああ…その通りだ」
と憔悴した息子にまさか今朝も我慢できず脚をいためたなどと言えるはずもなく話を変えることにした。
「伴侶を定める前は、王族が生まれたときに施される魔法によって母親が成人まで糧を提供するのだが、お前の場合はちょうど公爵家に娘が生まれたところだった故に婚約者としてケニーエに協力してくれるようにイーツ公爵に頼んだのだ」
「では、公爵家は王族について知っていたのですか?」
「そもそも、この国に公爵家は五家あるが全部の家が持ち回りで王族の伴侶を出すようになっている。
その為に特例がない限り王家に子供が生まれた場合はそこから選ばれるのだ。
だから公爵家の後継者は身分問わず『若く健康な』花嫁を迎えることが条件にされておるほどだ、
まぁ今回は特例になってしまった故にケニーエには本当にすまないと思っておる…」
悲しげにケニーエを見る王、ケニーエは
「陛下…わたくしは、ニヴァル様が幸せになるなら構いません、幼い頃より一緒に育ってきたいわば兄妹のようなものですもの、幸せになっていただきたいですわ」
ニッコリと笑うケニーエの笑顔には一点の曇りもなかった。
「ケニーエ…ゴメン…君を選べなかった私を許してくれとは言わない…だけどこの償いはきっとするから…」
エーサを抱きしめながらボロボロと涙をこぼすニヴァル。
「ニヴァル様。 問題はそんなことではありませんわよ? お分かりにならないんですの?」
と眉を寄せケニーエはニヴァルに言う
「え?」
「これだから殿方はまったく…。 よろしいですか?ニヴァル様はあまり実感がわいていらっしゃらないかもしれませんが、実は王族にかけられた魔法によってニヴァル様ご自身は『伴侶を糧とする』ことに抵抗感が沸かないようにされております。」
「そうなのかい?」
困惑したニヴァルがいう
「ええ。実はわたくしにも伴侶となるための処置として『糧となることへの忌避感が生まれないように』もされておりますの。 まぁうちは公爵家ですから生まれたときからそういうものだと教育も受けておりますしそこまで必要はありませんでしたが」
「あっ!」
何かに思い当たったニヴァル。
「そう、エーサ様は一般庶民としてなんの予備知識もお持ちではありませんでしたわ。
そんな方がいきなり『糧になってくれ』と言われて簡単に受け入れられる訳がないではありませんか。
先ほど取り乱したのも当然です、ニヴァル様がやらなくてはいけないことはエーサ様を説得することですわよ?
ただこれは簡単にはいかないと思いますが…」
ケニーエは悲しげに
「本来人の固定観念というものはそう簡単には覆りません、わたくしのような立場の伴侶候補が受ける処置も子供のころから少しづつ時間をかけて馴染ませていくものなのです。 段階をふまずに施す処置がどこまで効いてくれるかは分かりませんし、最悪の場合は心が耐えられませんから『糧を提供した記憶』を毎回消さなくてはいけないと思いますわ」
「そうか…エーサ…ゴメン…」
そう呟きながらもニヴァルはエーサを離そうとはしない。だがふと、疑問に思い尋ねた
「その…糧を提供したあとの処置ってどうなってるんだ?」
思い出したようにケニーエはいう
「ああ。人によって違うそうですが、わたくしの場合は初めは血液からでしたわ…。王妃様の提供される糧と混ぜて少しづつニヴァル様の体を慣らしていったそうです。
今では何日かに一度糧をまとめて提供しておりますが、わたくしの場合は特殊な魔法が施された部屋で処置を受けてますわ、痛みも感じませんし長くても半日ほどで『元に戻り』ますがその光景に耐えられない方は眠らされるそうですわね」
と淡々と説明するケニーエ
「恐らく今頃王妃様も予定外に行くことになったあのお部屋で退屈されているかもしれませんわ」
くすり…とかすかに笑う。
オホン…と咳払いした王がばつの悪そうな顔を横にそらす
「父上…まさか母上に無理を強いたのですか…」
「すまない…」
王はションボリとうなだれる
「仕方ありませんわ…王族の食欲と愛情はとても密接につながっておりますゆえに堪えるのが難しいといわれておりますもの」
王をかばうようにいうケニーエの声を聴きながら、呆れたように王を見ていたニヴァルは真顔に戻り二人を見つめる
「父上…我儘を押し付けた責任は必ず取ります! ですからどうかエーサと共に歩むことをお許しください。」
「ああ…わかった…だがその前にちゃんとエーサ嬢を説得しろよ。 …それから其方の食事だが…エーサ嬢には申し訳ないがもうしばらく眠っていてもらい糧を貰っておくか…うまく説得できたとしてもお前が先に飢え死にしてしまう」
「わ…わかりました。 では私がエーサを連れていきます」
と侍従に案内させニヴァルはエーサを連れて部屋を出て行った。
・本編には書ききれなかった補足
・最終的に伴侶が確定するのは王族がその相手と男女関係になることです。
それまでは伴侶を変えることもできますが(王族は伴侶に対して異常な執着を持つのでそうそうありえませんが)、今回の場合はもう無理です。
・この国の王妃の立場は非常に重要なものになります、祖先が魔族であるためとんでもなく頑丈な王はほっといても病気1つしませんが、王妃様に万一のことがあるとその伴侶である王は生きていけません。(心身両方逝ってしまうため)
なので公務や外交などもすべて免除されています、まぁそうでなくとも伴侶がちょっかい出してくるせいで早々動けないのですが…。
・本当なら王妃様がニヴァル君にきちんと王族について話すはずだったのですが、その機会をことごとく潰してきたのはハーン王です。
ケニーエが来る日はなるべくガマンしていますが、そうでない日は
王妃「今日こそ伝えなくては!」→なんやかんやで王妃大好き王に捕まる→ぐったりして回復部屋行き
…なんて恐ろしいループなのでしょう…。
王妃様も伴侶はケニーエちゃんだしそのうちでいいかと今まで教えてこなかったのが真相です。
まぁそれでも王妃様はちゃんとハーン王を愛してはいます…多分。