亭主関白
うつって色んな原因があるそうですね。
マイホーム購入、子供の巣立ち、季節の変わり目……。
今回は発達障害と離婚によるうつのお話。
~~復職支援三日目~~
最初はきつかった満員電車にも、新入りに容赦のない卓球にも慣れてきた。
美人な桜屋敷さんをはじめ、調子のいい行方さんや紳士な道免さんなど話せる人もできた。
今まで通り仕事をしていたら恐らく出会わなかった人達。
病気を抱えながらも、仕事復帰に向けて認知の修正やトラウマ克服に取り組んでいる。
私も頑張ろう。
少しずつ、前向きになってきていた。
「それではグループトークを行います。
本日のお題は自分が病気になった原因です。
重いお題になるので気分が悪くなりそうならパスをしてもかまいません。」
うつになった原因か……。
まだ思い出したくない、話したくない。
そんな空気が立ち込める中、
「じゃあたまには私が話しましょう。」と中河内さんが手を挙げる。
歳は恐らく50歳前後、卓球に誰よりも真剣になったり、桜屋敷さんの指でっぽうに倒れたり、少々コワモテだが良いおじさんだ。
「私は実は発達障害の傾向がありまして……。
確かに学生時代から『自分はみんなと何かが違う』とは薄々気づいていました。
でも何が違うかまではわからず就職、親からすすめられたお見合いで妻と出会い結婚しました。
当時のお見合いは、半ば強引に親同士が取り持ってしまうんですよね。
結婚当初私は妻に愛のような感情はなかったのかもしれない。
ただ生活は楽になりましてね。
荒れ放題だった部屋を掃除してくれ、食事の用意をし、可愛い子供まで授けてくれた。
もう私には十分すぎる素晴らしい妻でした。
しかし私はそれらを守れなかった。
障害なのか性格なのか、仕事に没頭してしまい家族の事を後回しにしてしまった。
家族の気持ちがわからないんですよね。
外面はいいけど、家では何もしない主人。
夫婦関係が悪くなるのは当然でした。
末の息子が社会人になったのを期に離婚届を突き出されまして……。
1人になった汚れた部屋、慣れない家事、忘れ物無くし物探し物に追われる日々。
私に残ったのはだらしない自分と、この障害だけでした。」
部屋が静まりかえる。
『 あの人は障害者だから 』で済まない気持ちもあるだろう。
少し前の時代なら亭主関白は当たり前かもしれないのに。
「今は月に一度子供達との面会だけが心の拠り所です。」
中河内さんが悲しげに笑った。