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実際の団体等とは一切関係ありません。(いや、あるか)
楽しんでいただければ幸いです。
AUTOMATA
プロローグ
「ん・・・・・・・・・・・・・・・」
目が覚めた。
机に突っ伏したままあたりを見回す。
周りには誰もいない。夕方の教室だ。
眠たげな眼をこすりながら彼― 不知火 亮 ―黒髪、目は光がさしていないかのように真っ黒。
成績は中の上。英語係。スポーツは得意な方―
は、ゆったりと立ち上がる。
そして、自分がいつ寝たのかを思い出す。
「・ァ・・・・・・・終礼の時か」
確か、挨拶が終わってすぐ、こらえていた眠気に襲われたのだった。
ガラガラと教室の戸が開く。
「お、起きてんじゃん」
そちらのほうを見てみると、茶髪の同級生がいた。
「・・・・・・・お前、誰だっけ?」
「ひどいな、同じクラスなのに。」
わざとらしく、言葉を切った。
「天崎だよ。天崎竜牙。覚えたか?」
そういえばそんな名前だった気がする。
「はぁ・・・・」
思わず、自分の記憶力に呆れる。昔から人の名前覚えるのが‥‥‥
「ほら、状況わかったらさっさと出る。教室閉めるぞ?」
呆れた時間、合計1秒。
言われたとおりに、教室を出ることにした。
――アメリカ とあるカジノにて――
ここは客たちの憩いの場であり、金稼ぎの絶好のスポットだった。
多少くたびれてはいるが、客の姿は多い。
そこに、一人の紳士が入ってきた。
黒いタキシードをピシッと来た、黒シルクハットの男だ。
別の言い方をすれば、ごくごく普通の人だ。
しかし、彼の近くにいた一人の客は妙な胸騒ぎを覚えた。
そしてそれは当たった。その客の首が飛んだのだ。
血しぶきを巻き上げながら。
客の悲鳴が上がる。
殺したのは恐らく彼だ。
否。
そこに彼はいない。
そこには、暗黄色の外殻を持つ、ヒト型の化け物がいた。
客たちの悲鳴が上がる。
逃げようとして出口に殺到する人々。
しかし、扉は固く閉ざされている。
暗黄色の鎖によって。
後ろから間延びした声が聞こえる。
「誰か、私と賭けてくれませんかねぇぇ?
―――――――――あなた方の命を」
一章 日常と非日常
―大阪府豊中市立第20中学多言語学校 8:35 いつも通りの朝礼にて―
フチなし眼鏡で横デカ担任、元坂 広志(あだ名は「ゲンちゃん」、もしくは「タヌちゃん」)が入ってきた。
いつも通り、生活委員があいさつをして、全員席に座る。
担任の「タヌちゃん」が、近くの学校のコーンが倒されていたことを言い、「ここの生徒だということは、わかっています。」と、念押ししていた。
はっきり言ってどうでもいい。
亮は窓の外を見る。
いつもの空。
いつもの電柱。
いつものマンション。
見飽きたカラスたち。
それらを一通り眺めた後、彼は目線を担任机に戻す。
朝礼後4分。
担任が出て行った。1時間目は数学。
いつも通りの金曜日になりそうだと、彼は心の中でひとりごちた。
直後、担任が戻ってきた。
心の中で「戻ってくるのかよ……」とずっこけたが、目線を担任に向ける。
一つ言い忘れてたことがあります、と前置きして、担任は言う。
「アメリカのカジノで、人がたくさん死んでたん、知ってる人?」
開口一番それである。全員黙ってしまった。
「もしかすると、その人がこっち来てるかもしれへんから、皆さん気を付けてくださいね。」
そういって担任は出て行った。
しばらくその話題が上る。
「みぃちゃん、知ってた?うち知らへん。」
「ううん、私も。」
「浩太、知ってた?」
「知らへん。テレビ見とった。」
「いきなりそんな話するとか、タヌちゃん論外。」
「ねぇ」
「Do you know a murder case in U.S.A ?」
「No,I'm not.」
ざわざわと、言葉の嵐が勢いを増す。
1時間目が始まった後も、その話題が消えることはなかった。
―体育祭準備 教室にて―
体育祭準備。
聞けばずいぶん大仰な授業名だが、実質は係決めだ。
応援旗作り、弾垂れ幕づくり、パフォーマンス。
この中から好きな物を選べばいい。
亮自身は、自分がどれに向いているか、などがわからない。
去年はパフォーマンスをしたが、あまり悪くもなかったので、パフォーマンスにしようかと思っている。
「よぉ、不知火!」
声が聞こえたほうを見る。
「昨日は寝てたが、今日は寝るなよ!おまえにも頑張ってもらうからな!頼むぞ!不知火!」
熱血生活委員、成田圭吾。
短髪、細目、水泳部、成績は上の上。おまけにスポーツもできる。
14歳にして2年1組を率いる、頼りになるリーダー的存在だ。
「赤組、頑張るぞぉぉ!!」
などと言えば、
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!
という掛け声を、全学年からもらいそうなやつである。
「いずれにしろ、俺はパフォーマンスを選ぶ。お前もパフォーマンスを選べばどうだ?去年みたいに」
「そう思ってたところなんだがな・・・。わかった。」
「そうか!よかった。1組はなぁ、パフォーマンス少ないからなぁ…」
途中で声小さくするな。聞こえん。
そう言おうとしたが声が出ない。
「・・・・・・・?」
「・・・・・・・?どうした?」
変な心配はしなくていい。
言おうと思ったが、やはり声が出ない。
こうなるときは大体相場が決まっている。
よくないことの起きる前兆だ。
足元が少し揺れる。
直後・・・・・・・。
震度5弱の地震が、足元の土をゆらした。
恐怖を抑えてしゃがみ込む。
悲鳴が聞こえる。
同級生の、2階の先輩の、4階の後輩の‥‥。
あたりを見回す。
揺れる蛍光灯。
なり続ける担任机。
落ちていく机の中身。
揺れる電柱。
崩れる瓦。
そして・・・・・、向こう側に見える、暗黄色の人型。
息が詰まる。
「なんで‥‥‥‥‥。」
知っている。
あれは哀れな実験の成果。
あれは哀れな兵器。
あれは哀れな人間の成れの果て。
そして・・・・・・・・・・・・・・・。
亮の二親が、死んだ原因。
第二章 秘密と計画と自分と今と
―5歳のころの亮の回想にて―
そこは緑の多いログハウスだった。
正しくは別荘だが。
若い男性と女性が、自分の周りで笑っている。
よくわからなかったが、自分も笑った。
夕方に近くなったころ、その二人と焚火を囲んでいた。
男性の方は楽器(このころはギターなんて知らなかった。)をひき、女性の方は幸せそうに歌っていた。
夜、月が出てくると自分はその二人とともに、ログハウスへと帰った。
そして、ベッドで目を閉じた。
けど。
その幸せは、長くは続かなかった。
何かが焼け落ちる音が響く。
不吉な音に目が覚める。
急いで外に出て、ログハウスを見る。
酷い有様だった。
火の手は二階まで上がり、壁には銃痕があった。
知らない人間が叫ぶ声と、何かをばらまく音が響く。
聞きなれた男性と女性の声がする。
「な・・・・・・だ!だからと言って・・・・・・を巻き込む・・・・・・は・・・・・・だろう!?」
聞こえたのはそこまでだ。
そのあとは、何かをばらまいて、何かをぶちまける音しかしなかった。
だけど、これだけはわかった。
あの二人はもう生きていない。
理解すると同時に、足の力が抜けた。
横からは土を踏みしめて、こちらへ向かってくる音がする。
「悪いな、・・・・・。こうするしか、ねぇんだ」
言葉には、申し訳ないという謝罪の感情は含まれていなかった。
黒い何かを向けられた。
見向きもしなかった。
男の指がそれにかかる―――。
同時に、目の前を灰色の風が駆けていった。
そして、目の前は暗くなった。
――――――――――――――――――――――――――――
自分は家の前に置かれていた、というのは今の両親から聞いた。
だが、いつからというのは知らないらしい。
自分を助けたのであろう灰色の風は、形だけは人だった。
ヒトとはいろいろ違ったが。
灰色の外殻で覆われていた、ということは覚えているし、禍々しい姿だった、というのも覚えている。
その時自分を助けたのは、天使じゃなくて、悪魔みたいだったな、と子供心に思ったっけ。
そして今。
そいつによく似た化け物が、窓一枚隔てた向こう側の電柱に、立っている。
暗黄色の機械人形は、あの時のものとは似ても似つかない。
そもそも、あれはあの時のあいつじゃない
考えたものだ。人みたいで人じゃない。そんな奴の呼び方を、なんと言うか。
呼び方は決まった。
オートマタ。
それがあいつの、新しい種族名。
第三章 人間と化け物の狭間
―大阪府豊中市立第20中学多言語学校2-1教室にて―
「見つけた……………。パーツを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
暗黄色の化け物―クラウン―は計画に必要な人間を見つけたのだ。
「やれやれ、あっちにまで言った甲斐がありましたかねぇ。
・・・さっさと始末しますか。計画邪魔させたら面倒ですし。まだあと3人いるんですから。」
誰も聞いていない。
クラウンは電柱から飛び降りた。
異分子を消すために。計画を続行させるために。
「少しは楽しませてくださいよぉ!!」
―不知火 亮視点―
あいつが電柱を飛び降りた。
同時に、こちらは3階から飛び降りる。
足に鈍い痛みが走ったが、この際気にしない。
ごく普通の人間にあれを殺せるとは思えない。
だが――――そんなことは、どうでもよかった。
もう、自分は人間ではないからだ。
右腕をアッシュグレーの外殻で覆う。
この力を知ったのはいつごろからか――
敵が軽く目を見張ったのが、手に取るようにわかる。
―とりあえず、吹っ飛べ!―
その顔をぶん殴る。安全圏を作るためだ。
ヒット。
そして、下がる。カウンターが来ることを予想していたからだ。
予想していた通り、相手の鎌がこちらの首を描き切ろうとする。
「甘ェよ!」
叫び、鋼鉄化させた右足で、スピンキックを食らわせる。。
「・・・ングゥッ!?」
面白いように吹っ飛んでいく。
しかし化け物は化け物。
どうしても返したくなるものだ。
空中で体勢を立て直し、こちらに突っ込んできた。
こちらに辿り着くまで、僅か0.56秒
ガァンッ、とおぞましい音が右腕から響く。
下がる。
相手のラッシュ。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、異分子がぁぁぁ!!」
「断っとく!」
ラッシュの軌道を外れ、右の爪で腕を切り落とす。
「ガアアアアアア!?ウ、腕ガァァァァ!?」
距離を取り、全身を鋼鉄化させる。
「・・・・・・・・・グウゥ」
そこにいるのは少年ではない。
クラウンでもない。
アッシュグレーの外殻で身を包んだ化け物。
血に染まるもの。
ブラッド。
それが彼の名前。
「・・・・・・・・・・後悔しろ。」
そういってクラウンを見る。
切られた右腕が再生するところだった。
「よくもぉ・・・・。あの人間共の味方ですか。ヒーロー気取りですか。面白いですね。人の腕を切っておいて。」
「斬られるようなことをするからだ。そもそも、俺もお前も人じゃない。」
背中から双頭――双剣――を引き抜く。
「手加減は、しない」
その言葉をきっかけに――
二人はぶつかり合う。
たとえるなら、ピアニストのように静かに。
たとえるなら、指揮者のように滑らかに。
たとえるなら、狂戦士のように頑なに。
お互いの力をぶつけあう。
「ルゥ・・・・・・・・ッ!」
とブラッドが唸れば、
ブゥゥゥンと、言葉ではなく得物で言葉を交わすクラウン。
対照的な二人。
終止符を打ったのは、ブラッドだった。
懐に潜り、双頭の片方を腹に突き刺す。
「ッ!」
怯んだ隙は見逃さない。
ラッシュで畳みかける。
上段、両横なぎ、下から跳ね上げての刺突。
幾度となくそれを繰り返し――
彼は飛ぶ。
空に。
片方を逆手に構え、それをクラウンの脳天に振り下ろす形で。
レジスタンス・クロー(反逆の剛爪)
青い光を放つそれが、クラウンに振り下ろされるまで、1秒弱。
双頭は、クラウンの脳を突き破り、心臓を裂き、その下の地面まで叩き割った。
「・・・・・・・・・・・・ア・・・・・・・・・・」
それは、断末魔だったか、吐き出されたいきだったか。
灰になっていく彼からは、もう聞き出せない。
ただ一つ言えることは、
「・・・・・・・・・幸せにな・・・・・・」
ただそれだけだった。
エピローグ
―7月9日月曜日 第20中多言語学校2-1組にて―
しばらくすれば、殺人犯の事も忘れられていく。
「ねぇ」
ぼんやりしていたら、横から声をかけられた。
そっちを見る。
女子の顔が近くにあった。
「な!?」
「な!?とは失礼な。」
彼女はそう言う。
「出席番号16番、不知火君。問題です。もう殺人犯が捕まったと、あなたはその噂を信じていますか?」
「・・・・・あー・・」
目を合わせてこう言ってみる。
いつもの日常。
そいつの名前も知らないけれど。
とにかく、今日は平和に過ごしたい。
「死んだんじゃないのか?」
こんなことしか、言えない自分だけど。
亮君の特徴
キリト似かな?
天崎君はご自由に。
この小説を読んでくださって、ありがとうございます。
小説化されたらいいな…ハハ。
2も出す予定です(未定)
ではでは!