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仲良く、仲良く  作者: ZOO
1/2

1話目

子供の頃、大好きだった友達がいた。

なんとなくしか覚えていないのに、いまでもふいに会いたくなる。

なんとなくしか覚えてないのに、大好きだった気持ちは鮮明に覚えている。

大好きだったのに、

なんとなくしか思い出せない。


名前も顔も、

はっきりしたものは何も無いのに。


だから、その気持ちは普段は意識の底に眠っている。





「りく~」

と、呼ばれて反応に困りながら振り返る。

廊下の向こうから中背の少年が駆けてくるのを見つけ、少しだけ待ってから背を向けた。

転校生という身の上で、慣れない学校で、ろくに話した事もないクラスメイト。女子ならいざ知らず、男子生徒に呼び捨てにされて、男嫌いの私としては、あまり良い気はしない。急ぎ足で聞こえなかった事にしようと角を曲がって逃げを試みた。

「あれ?おーい待って待って!そんなに急ぐと迷子になるぞ~?」

聞こえなかったと思ったのか、さらに声を張る男子。

八ヶ谷水城(はちがや みずき)は、私の後ろの席の男子生徒だ。

私、伊月六(いつき りく)は転校生で、早く女子の友達が欲しいというのに。さっきからやたらとこの明るい男子生徒になつかれて、正直イラッときていた。

私が校内を案内してもらいたいのはこいつではなく、その隣の席の小さくて可愛い美少女である。

たしか名前は四宮梨子(しのみや りこ)ちゃん。小柄で、いかにも純粋そうで。私はああいう、自分には無い、思わず抱きしめたくなるような可愛らしさを持った子が大好きなのです。いや別に変な意味ではなく。

とはいえ向こうの方が地の理は上で、そこはあっさりと先回りをされてしまった。

「なんで逃げんの?」

「なんでついてくんねん…」

鬱陶しそうに言い過ぎたか、一瞬の傷付いた顔になんとなく罪悪感を覚えていると、

「まあまあ、」とすぐに笑顔を浮かべて、唐突に手を引いて歩き出される。「職員室はこっちだよ」と連行される。

強引とか、人懐こいとかいう話じゃない。こんなの初対面の相手にする事ではなくないか?

「なんやねんさっきから!馴れ馴れしいねん自分」

「そりゃありくだって早く馴染みたいだろ?転校生ってさ、やっぱ初日が肝心じゃん?」

明るい少し長めの茶髪を揺らして、肩越しにニコニコと、八ヶ谷水城は笑ってこちらの文句を受け流す。こちらの悪態に気を悪くした様子はない。

「オレもテンコーセーだったからさ。オレん時は結構緊張したんだけど、りくはどう?」

「………全然…」

もちろん嘘だが、虚勢を張るしか能がない私にはそういう風にしか対応出来ない。

「りく」

「ちゅーか、なんでいきなし呼び捨てやねん」

「仲良くなりたいから」

立ち止まって、間近で急に真面目な顔でそう言われて、

ふいにしゃっくりが出たみたいになって、凍り付く。




「仲良くしような」



ふや、と笑う。

だらしない笑顔に私は、



「なんでやねん」



と、精一杯の照れ隠しの仏頂面で抵抗した。









「引っ越しするで」と言い出した母親に連れられて、まだ引っ越して来たばかりで馴染みのないボロアパートを出た。

「他の荷物はまた取りに来るから」と数日過ごせるくらいの荷物だけを持たされて、ご機嫌な母親と朝の町を移動する。

説明を求めてもニコニコして、「ええからええから」と笑う母。うちのおかんはこういうところがある。いたずらっ子のように、戸惑う私の反応を楽しむから、いつも振り回されてしまう。

ふいにおかんが立ち止まり、とある一軒の家のインターホンを鳴らした。

「お、おかん!こんな朝から迷惑やって!」

「いやいや向こうが来いいうたんやって」

などと言い合いをしているうちに、玄関のドアがガチャリと開いた。

「どちら様?」と尋ねる声に聞き覚えを感じて、おかんの後ろから顔を出した私の目と、朝日を浴びて元々明るい茶色の髪をオレンジ色に輝かせた少年の目がピタリと合う。



そこは八ヶ谷水城の家でした。

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