8.けんごと扉
明らかに部屋の中が暗くなっていた。
今朝目を覚ました時には気付かないほどだったのだろうが、今は確かに暗いと分かる。
そもそもこの部屋はいったいどういう原理で明るさが保たれているのだろう。窓は無いし、照明らしきものも見当たらない。
さきほどけんごが現れた扉の向こうの暗闇を思い出し、背筋に薄ら寒いものを感じる。
扉を閉め、部屋の中央あたりに立って改めて部屋を見回す。
やはり暗い。
ガチャ
しばらくそうして思案していると、不意に扉が開いた。
「トウヤさん!」
無意識に体に力が入るが、なにやら慌てた様子で部屋に入ってきたのはアーナさんだった。
「アーナさん! どうかしたんですか?」
呼吸を整えている彼女に訊ねる。
「急いでここを出ます。時間がありません」
そう言うやいなや扉の外に出て行くアーナさん。
「! わかりました」
ぼくもそのあとに続く。
理由は分からないが、嫌な予感がすることは確かだ。とにかく今はアーナさんに従おう。
部屋を出て左、けんごが現れた扉とは反対の方向に歩くこと約5分くらいだろうか。どこまでも続くような廊下の右側にその扉はあった。
けんごが現れた場所のものと全く同じ形状の扉。小窓から見えるのは暗闇。
ゴクリと唾をのむ。
「ここから外に出ます。乗り物酔いのような感覚があるかもしれませんが、そう時間はかからないので我慢してください」
扉の取っ手に手をかけてアーナさんが言う。
乗り物酔い…?どういうことだろうか。時間はかからないという言い方も気になる。
「準備はいいですか?」
とはいえ今は言うとおりにするほかない。
「はい」
ぼくが返事をすると片手を差し出してくるアーナさん。
握れということだろう。一瞬躊躇するが、おそらくそんな場合ではない。
差し出された手をしっかりと握ると、アーナさんが扉を開けた。
暗闇の中に進み始めたアーナさんに手を引かれ、ぼくも足を踏み出した。