4.けんごの胸の内
「極小の、聖剣…」
「おれのこの聖剣はあらゆるダメージを無効化することができる」
いまだに立ち上がることができないでいるぼくをあざ笑うかのように告げるけんご。
「なんだって…!それじゃあ、ぼくに勝ち目なんて…」
「ない。諦めろ、トウヤ」
そう言って胸から包丁を一本抜き、ぼくに向けるけんご。
殺される。目の前が真っ暗になる。ここで、死ぬのか…。
「ダメです!トウヤさん…!」
手放しかけた意識の中で聞こえた声。そうだ、まだ死ぬわけにはいかない。だって、ぼくはまだ…。
目を開けると、すぐそこにはけんご。そしてけんごが包丁を振りかぶる。まだ、間に合う!
「うおぉおおおおおお!!!」
「なに!?」
渾身の力を込めて床を踏みしめ、立ち上がると同時に、完全には閉じていなかったけんごの胸に思い切り右手をねじり込む。そして、そこにあるはずのけんごの心臓をつかむ…ことは、叶わなかった。
けんごの胸の中に広がっていたのは、虚無。右手は空しく空をつかむ。
「残念だったな。ハズレだよ、人間」
ドスッ
「ぐっ、ぁぁあぁあああああぁぁあああああ!!!!」
左肩に激痛が走る。視界が霞む。左肩には突き立つ包丁と際限なく流れ始める血が見える。やっぱり無理なのか。ぼくはけんごには、勝てない。ママ…。
「トウヤさんっっ!!」
誰かの泣き叫ぶ声が聞こえる。だめだ、もう体が、動かない…。
「ダメです!こんなところで死んでもらっては困るんですっ!」
そうだ、ぼくは、まだ死ぬわけには…。でも、もう。
目は開いてるはずなのに視界は暗闇で満たされ、自分が立っているのかどうかすらわからない。
痛みももう感じない。ただ、苦しい。
その時声が聞こえた。力強く、悲しい声が。
「…求めるは救済。暗き常世を統べる者、我が願い聞き届けよ、紅蓮の堕天使!」
そしてぼくは意識を手放した。