3.けんごの力
扉の向こうに仁王立ちしているすどうけんごは、初めに遭った時と同じく上裸の状態で、こちらを見ながら笑みを浮かべていた。その手には、前は持っていなかった弁当箱ほどの大きさの黒い箱状の物を持っている。
「まさかこんなところに隠れているとはな。手こずらせやがって」
やれやれという風に首を動かすが、表情は余裕そのものだ。
今すぐ攻撃してくる気配はない。目はしっかりとけんごに向けたまま、抱きとめていた女性を素早く背中に隠す。
「おっと、その女に手を出すつもりはないから安心しろ。用があるのはお前だけさ、人間」
さっきからぼくのことを人間人間と、少しばかり頭にくる。
「…桃矢」
「ん?」
「桃矢。ぼくは不破桃矢だ」
けんごの目を見てはっきりと告げる。
「…クッ、クハ、クハハハハ! そうか、トウヤというのか。そうかそうか」
何が面白いのか、けんごはぼくの名前を聞くと片手で顔を抑えて笑い始めた。
「ふっ、おれはすどうけんご。改めてよろしくな」
笑いを納めてもう一度名乗るけんご。
「そして、しね」
けんごの胸が開き、中から包丁が飛び出してくる。しかしぼくはその攻撃を読んでいた。
前かがみになり、けんごの腰に組み付く。
「!?」
意表を突かれたのか、けんごの動きが止まる。今だ。けんごの腰を両腕でしっかりとつかんだまま、右膝をけんごの股間に向かって思い切り蹴り上げる。
しかし、
「ぐあっ!」
けんごは動じることなく、ぼくの首をつかんで易々と体から引きはがし無造作に床へと放り投げる。
床に手をついて起き上がろうとするが、力が入らない。けんごの方に目を向けると、彼はこちらを見ながら不敵に笑っていた。
「クハハ。驚いたぞ、トウヤ」
「そんな、どうして…」
確かに股間を蹴り上げたはず…。あまり手ごたえがなかったが、まさか…!
「おれの力を知っているか?」
ぼくの様子を見ながら満足げに口を開く。
「けんごの、力…?」
口の端を歪め、けんごは言った。
「『極小の聖剣』」