5.けんごの覚悟
「おれが、この世界を終わらせる」
そう言うと同時に、けんごは叩きつけるようにグラスをカウンターに置く。中の水が撥ねて床にまで零れ落ちる。
その目は本気だった。
「こんな甘えた夢は、クソったれな幻想は、全部おれが終わらせてやる」
けんごの手の中で、グラスが音をたてて割れる。水がさらに零れ、床を濡らす。
「どう、やって」
ようやく絞り出した声は、ひどく掠れていた。
もう一度自分のグラスに目を落とす。そういえばこの水は一口も飲んでいなかった。
しばらくの間、けんごは何も言わなかった。聞こえていなかったのかと不安になってきた頃、けんごは静かに口を開いた。
「……お前の力が、必要なんだ」
低い声でけんごが言う。
「え?」
「お前を、トウヤを向こうの世界から呼び寄せたのは、おれだ」
その言葉がなにを意味するのかを理解するのに、多少の時間がかかった。
「けんごが、ぼくを…?」
「ああ。この世界を終わらせるため、いや、世界の構造を変えるためには、お前の……人間の心臓が必要なんだ」
けんごとの初めての邂逅を思い出す。
「だから、ぼくを殺そうと……」
「そうだ。だが、もうそれは叶わない」
この世界では人は死なないと言った。つまり、ここにいる限りぼくは、死なない。
「それじゃあ……」
「今言った通りだ。お前の力を借りたい。人間としての、力を」
ぼくを真っ直ぐに見てくるけんご。その瞳は今までのけんごとはまるで別人のように真剣で、強い意志を宿していた。
「ぼくの、人間としての、力……」
自分の右の手のひらを見つめる。
思い出されるのは、けんごと拳を交えたときに発した謎の光。あれは、もしかして……
ドンッ!
「!?」
その時、大きな音とともに店の中に光が差した。
振り返ればそこには、開かれた扉と一つの人影。逆光で顔は見えないが、それが誰なのか、ぼくにはわかる。
「アーナ、さん……」




