3.太陽の国
「ああ、久しぶりだなけんご」
ベッドから降りてけんごと向き合う。
なぜ忘れていたのだろう。今までに三度も殺されかけた相手だ。
この顔この声、二度と間違えることはないと、そう思ったはずなのに。
「ふっ、元気そうじゃないか」
正面に立つぼくを上から下まで眺め回してけんごは言う。
「あー、それじゃあ、ゆっくりしていってくれ。トウヤ、仕事は体をしっかり治してからだ」
そう言い残して部屋を出て行く山田さん。気を使ってくれたのだろう。
この男と二人きりになるのは危険だと思ったが、なぜだか今は攻撃してこない気がした。
「まあ、座れよ」
自分はさっさと上がり込んで椅子に腰掛けてから、ベッドを指差しぼくに言うけんご。
なんだか癪に障るが、何も言わずにベッドに再び腰を下ろす。
「今日は話をしにきたんだ。この通り」
そう言って両の手のひらを広げて見せるけんご。
確かにその手には何もなく、服もしっかりと着ている。
とはいえけんごのことだ。どこから刃物を取り出してくるか分からないし、例の聖剣もある。警戒を解くわけにはいかない。
「疑ってるのか? 無理もない、か。だが本当に安心しろ。どの道ここじゃ死なないんだからな」
「? どういうことだ」
「…聞いていないのか? あの女から」
ぼくの問いに眉をひそめるけんご。あの女というのはアーナさんのことだろうが、思えば彼女からまともに話を聞けたことがなかった。
それはけんごに邪魔されて、というのがほとんどだが彼女自身話したがらなかったように思う。
「聞いていない。何も。…教えてくれけんご」
けんごに教えを乞うというのはあまり快いことではないが、きっと聞いておかなければならない。この記憶の混濁とも関係しているに違いなかった。
「よし、いいだろう。お前が何も知らないのでは話にならないからな」
言いながらけんごはひとつ膝を叩いて立ち上がる。
「どこに行く」
「場所を変える。ここでは、な」
よくわからないがついて行くしかなさそうだ。
そうして連れてこられたのは喫茶店のようなところ。
大きな通りを二つほど横切り、細い路地を進むこと十五分くらいだろうか。かろうじて日の光が届いているくらいの、野良猫が住処にしているような袋小路にその店はあった。
ここに来るまでにひとつ分かったことがある。ここはサンディ王国というらしい。
おもての看板には店名らしきものが書かれていたが、アルファベットの筆記体か何かのようで、ぼくには読めなかった。
店内入ると窓はなく、照明も少ないのかかなり薄暗い。
広さはそこそこあり、四人掛けのテーブル席が二つと二人掛けの席が四つ。奥にはカウンター席。
しかし店内には客どころか、店員の姿すら見当たらない。
「ここは…?」
気味が悪いが不思議と嫌な感じではない。
「まあ、行きつけの店ってところだ」
けんごは慣れた様子でカウンター席につき、隣の席をポンポンと叩く。
座れということらしい。
しかたなく、その椅子を横にずらしてわずかに距離を離してからけんごにならって座る。
「まあそう警戒するなよ。さっきも言った通りここじゃどうやったって死なねぇんだ。トウヤも、おれも」
そんなぼくの様子を見てけんごは笑う。
「ここじゃ死なないって、いったいどういう意味なんだ?」
「そうだな、まずはそこから話すとするか」
ごくりと唾を飲む。
そんなぼくの反応を横目で見ながら、けんごは口を開く。
「どういう意味も何もない。サンディ王国はそういう世界なんだよ。人々は死なず、子は生まれない」




