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第1話 丸の内OLハルナ

現世に強い執念を持って死んだ人が成仏できないなら、とんでもない性癖を持って死んだ人にだって現世に留まって、やりたいことやってやるぜくらいの気概があるはずだ。

現在のホラー業界で軽視されてきた変態幽霊にフォーカスしたいと思います。


初投稿なのでお手柔らかにお願い致します。

強い執念を持つ者は、死後、成仏できずに幽霊になる。

幽霊と聞くと現世に強い執念、とりわけ憎しみや怨みといったどちらかといえば負の感情を持ったものが頭に浮かぶ。しかしながら、それらのイメージは我々の死者を冒涜してはいけないという暗黙のフィルターを通過することができたごく一部の「清き幽霊」たちなのである。

死を迎えた人々の大半は現世に留まることなく成仏する。「成仏」した人々の魂がどこへ向かうのか私は知らない。しかし、大半が何事もなく成仏する中、わざわざ現世に留まる幽霊たちは、まともな人々の集まりではない。謂わば、ヤバい奴どもの集まりなのである。刑務所もビックリなくらいヤバい奴の集まりである。

巷では、あまり語られることのない「汚い幽霊」たちの実態について「古田心霊事務所」の所長、私、古田慎之介が詳らかにし、皆様に注意を促したく思う。







第1話 丸の内OLハルナ


東京駅からすぐの某総合商社に勤務する高木春菜(26歳、独身)は憂鬱な毎日を過ごしていた。


「ハァ〜〜、誰かいい人いないかな、聖美、紹介してくれるって言ってた人どうなったの?」

「あんたさ、この前紹介した外資コンサルの人も、その前に紹介した野◯IBDの人も一回会っただけで連絡しなくなっちゃったでしょ?私の面子もあるんだから、フェードアウト上手くやってくれないと紹介できないよ。だいたいまだ、別れて3ヶ月でしょ?社内でも出会いあるかもだし、そんなに焦らなくてもいいんじゃない」


春菜は同じ会社の3つ上の先輩と2年付き合っていた。1年程前から海外駐在が内定しており、春菜はそれを機に寿退社するつもりでいた。彼は社内でも評価が高く、ちょっとチャラいけど優しくて、自慢の彼で、悪くない関係を気づけていると思っていた。赴任の時期が迫って来ても彼から、結婚についての話がなく、不安に感じた春菜は半年前に思い切って彼に今後の話をしてみたところ


「もうちょっと待って」


となんとも煮え切らない返事をされ、それでもまぁ大丈夫だろうと思っていた最中、突如別れを切り出された。


「このタイミングじゃないと思うんだよね」


春菜は必死に説得した。が、彼の主張はこの一点張りだった。そして彼は飛び立っていった。社内恋愛をしていた春菜の先輩たちは皆、彼の海外赴任のタイミングで結婚していた。2人が付き合っていることは公にはしていなかった為、周囲から憐れまれることを回避できただけでも不幸中の幸いである。聖美を含めた同期の仲の良い友人数人には付き合っていることを打ち明けていたため、別れてから3ヶ月たった今でも、春菜は彼女たちに愚痴を溢したり、新しい男を紹介してくれるよう頼んだりしていた。


「私たちまだ26でしょ?まだ30まで3年以上あるし、どっかにいい出会いあるって」

「聖美はさ、そんなこというけど、私は愛子さんや優希さんみたいには絶対なりたくないの。あの人たちみたいになっちゃったらお終いだよ」


愛子と優希は春菜たちと同じ部署の30代半ばの先輩である。


「はぁ、春菜、あんただって選り好みしなきゃすぐに見つかるじゃない。はいはい、この話はお仕舞い。私、明日予定があるからもう帰るよ」

「えー、予定てデート?もうちょっと居ようよ。今日は金曜だよ」

「お会計お願いしまーす」


ガチャン

「ただいまー…おかえりー…あっ自分で言っちゃった…寂し。ハァ上手くいかないなー」


アクセサリーを外して、スカートとブラウス、ストッキング、ブラを脱いで部屋着に着替える。次の日の予定がない金曜日の夜は、顔だけ洗ってパックをして寝るのが春菜のルーティンである。


ーーーー視点変更ーーーー


安田慎平 side


ガチャン

「ただいまー…おかえりー…あっ自分で言っちゃった…寂し。ハァ上手くいかないなー」


「おかえり春菜ちゃん、僕の為にただいまって言ってくれたんだね!って春菜ちゃんには僕のこと見えてないか。えへへ。今日もお仕事お疲れ。疲れてる春菜ちゃんも可愛いなぁ。おっと、お着替えの時間です。ジロジロー、あぁ、今日も頑張ったんだね、ブラジャーの跡がくっきり付いてるよ!あぁ可愛い乳首に真っ白な肌、たまりませんなー。今日の下着は水色だったね。朝見たばかりだけど、何度見てもエロいね。あぁ今日も幸せだ。おおっと、金曜日にシャワーを浴びずに寝るってことは、明日は春菜ちゃんお出かけしないんだね!わーい、一緒にシャワー入れなくて残念だけど、明日は一日中一緒にいられるね!たーくさんいちゃいちゃぺろぺろしちゃうあるよ!ぐへへ」


安田慎平は幽霊である。現在は地縛霊である。春菜の住むエスト木場308号室に住み着く地縛霊である。安田は生前、平凡な男であった。イケメンではなかったが、彼女も何人かいたことはある。もちろん童貞でもない。風俗にもたまに行く。友達もそこそこいる。趣味はテニス。都内の大学を出て、都内のIT企業に就職し、享年32歳。心臓発作で突然逝った。当時、お付き合いしている女性はいなかったが、お通夜には、両親、友人、妹、友人、恩師、同僚、上司等、それなりに参列してくれた。良くも悪くもごくごく平凡な男であった。

ただし、彼には人には言えない性癖があった。覗きとそれに付随する盗撮である。覗き、盗撮と言っても一括りに語ることはできない。様々なジャンルがある。駅でのスカート盗撮や某〇〇大学の教授による鏡を使った覗き等が度々ニュースになるので、駅関連の性癖に関する知名度は高い。しかし、安田が専門としていたのは、民家覗き、盗撮である。安田に見られているとは知らずに、無防備な姿を見せる女性に異常な興奮を覚えた。

安田は仕事帰りに自宅の最寄り駅の改札付近で帰宅途中の女性を物色し、後をつけて住処を特定し、後日じっくりと覗きが可能な、周囲から見つかりにくい潜伏場所を見つけ覗きを行うことを習慣としていた。安田は、慎重な男であった為、好みの女性であっても見つかるリスクが高い場合は潔く諦めた。また、覗きを行うのが不自然に見えるような場所では、見つからないよう改造した小型カメラを設置し、盗撮のみを行い、人気のない時にカメラを回収するなど、臨機応変な対応ができた。その為、前科はない。また、連休には地方へ覗き遠征も行うほどに彼は覗きに強い執念を持っていた。そんな安田ゆえに、透明人間に慣れたらなと考えることもたまにあった。


彼が死んだ時、仰向けに倒れる自身を俯瞰していることに気付いた安田の脳裏に真っ先に浮かんだのは

「おおおおっと、これはもしかするともしかしちゃうんじゃないか」

であった。



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