ユニークな能力を考えろと言われたので、一番最初に思い付いたのが金タライだったが悪いか?
皆様はもし、周囲から「上を見ろ!」と言われても絶対に無視できる鋼の心をもっているか?
「結局それだけなの?」
目の前に浮かぶ一柱の自称【創造者】に、思わずそう聞いてしまう。
詳細は省くが俺は一度死んだ(その辺の記憶もなかったので意味もないし)らしく、紆余曲折あって今の場所に居る。
まぁ、よくある空間に、よくある存在。いまさら何を言わんか、だが。
実は俺にとって、こうした転生という事例は、幾度目か忘れるほどよくある事になっていて、それが仮想現実や疑似体験中に起きた不慮の事故なのか、どこかの創作者によるテンプレ的な発想に基づく現象なのか、それは判らない。
だが、いーかげん俺は頭に来ていた。
なぁーにがバーチャルだ!なぁーにがテンプレだ!毎回毎回同じような始まりで最終的になんとなくハッピーエンドか世紀末覇者に落ち着くとか、ご都合主義も大概にしてくれって!!なぁ!?
そんな憤りを察したのか、少しだけばつが悪そうにモジモジし始めた【創造者】。だよなぁ……アンタも有る意味犠牲者な訳だし。
そう思うと、急にその存在にも有る意味、同情の念すら感じてしまう。
するとやはりそれを察したらしく、急にソワソワしながら俺の周りを回り始める。アンタは犬か?
(……いくらなんでも上位管理者に対して犬呼ばわりはあんまりだと思いますが)
おぉ~、これが【心に直接語りかける】って奴か!……気持ち悪い。
(……また気持ち悪いとかいいかげんにしてください)
はいはい判りました。んでギフトないの?
(……物分かりが良すぎるとモテませんよ知っていても知らぬふりして多少はカマトトかましてください)
カマトトかい。随分と俗な神様だな。で、ギフトないの?
(……はいはいそうですよね先ずは一つ他人とは違うユニークな奴)
ユニークをアンタがどう評価するのか、その規準が判らなきゃ話にならないだろーが。じゃ、こんな奴は?俺は多人数でボカスカやるのは嫌いだから!一対一で強くなれるように……、
(……非常に狭い層には大人気ですね確かにユニークですね)
喜んでいただけて光栄ですオッサンだとかナメるなよ?それと……、
(……そこはベタな方向付けですね何故でしょう)
だって先手がこうならさ、次の一手は男のロマン、いや、漢の浪漫を求めたくなるでしょ?
(……脳筋って素敵ですね)
知ってて選んだ俺は、最早脳筋ではないと言いたい。ついでに幅広い用途も思い付いたのが憎いことこの上ないな。
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よくある揉め事って奴は、相手がこちらを格下に見下げることから始まる訳だ。
しかし、相手ってのが頭の悪そうな肉食系亜人種なら判るが、どう見ても「これから自分様の歴史的大偉業を始めます」みたいな光輝く鎧と「これ持ってるだけで最終的に魔王倒しますが何か?」みたいな優美な剣を提げた若者とか……これ、明らかに俺がモブじゃん。
ちなみに、揚げ物に付いてくるソース(共用)を二度漬けしてるのを俺が見つけて注意したらこうなった。俺悪くない。
ギャースカ喚く若造と、オロオロしている連れ(♀2♂1)を引き連れて外に出た俺は、振り返った瞬間、能力その1を発動してみる。
最初に気付いたのは取り巻きで、若造に必死になって伝えようと騒ぎ出すが既に遅し。
これ、悪辣且つ巧妙に仕組まれたシステムだからね。まず周囲からの注意喚起に気付いた奴だったが、それ自体が既に罠。
「ジャックス!!!頭の上ぇ~ッ!!!!」
嗚呼、♀二人からの金切り声すら、俺には天使の歌声に聞こえるぜ。
そこからはゆっくりと、時間が引き伸ばされたように、ゆっくりと、
叫びを聞いた若造が、ゆっくりと、真上に向かって顔を上げる。
そして……その眼に、極限まで拡大された、正体不明の巨大な円形の物質が舞い降りてくる様を捉えて、
がいぃぃんッ!!!
【 金盥 】
……読めない奴に教えてやろう。金属、主にブリキ等で作られたタライ、つまり金タライ、だっ!!
ソイツが若造のマヌケ面に、イイ音立ててクリティカルヒットしてくれた訳だ。
ちなみにこの金タライは、真上を見ると落ちてくる。つまり、落ちるまで空中に停止しているのだ。
周囲の観衆から注意を促されれば誰でも真上を見る。
見た瞬間に必ずクリティカルヒットする高さに、常に定置している為回避自体不可能な訳だ。
見なければいつまでも頭の真上。見た瞬間に顔面に当たる。
ちなみにコイツのダメージはほぼ無い。確かに質量から来る衝撃は頭部から脊柱に伝播し、音とインパクトだけはやけに高いから、始末に悪いのだが。
ただしダメージ自体はないのだが、衝撃による眩暈とふらつきは必ず訪れて、しばしフラフラする。我が身を挺して実験した俺が保証する位に確実、である。
さぁ、フラフラする若造に、能力その2を発揮しようか。
俺は自分の能力の数値を敏捷性と打撃力のみに全振りしているので、拳を保護する護手を着けたのみでも鎧を身に付けた相手に、本気でちょっかい掛けられる位には強いのだが。
……だが、俺にとって頑強な鎧も何も、意味の無い存在な訳で。
この世界の鎧はその堅さにより身を守る為、確かに俺がいくら殴り付けようと、奴に怪我すら引き起こせないの仕方ないが、
だからこそ、この能力が意味を持つ!
ふらつく相手の首元に手をかけ、強引に全体重をかけて引き倒す。
いきなり身体を前に倒されて、奴は驚きながらも素早く体勢を整える為に片膝をつき、首を上げながらぶら下がる俺に抗う若造。
だが、それすらも……主食の前の前菜なのだ。
俺の能力その2は、【タライがぶつかった相手を必ず失神させる一撃を放てる】こと。これは【創造者】自身に試してみた結果、必ず成功することが実証されている。
余談だが倒れ伏した【創造者】の、乱れた裾からはみ出た白い太股に思わず手が延びてしまった結果、まぁ、なんだ、その……御馳走様してしまった(……余計なことを広めると能力を剥奪しますよまったく)のだが。
たたらを踏む若造の真下から、無造作に振り上げられる拳。
だが、タライ効果からの能力補正により、音速を遥かに超える速度で振り抜かれた強大な衝撃波は奴の耐久値を易々と削り落とし、暫く宙に舞い揚げた後に地面へと落下させる。
だが、ここで普通なら自分の能力を隠したがる連中なら、何とか隠蔽しようとあくせくしなければならないだろうが、この俺にはそんな必要はない。
なぜなら、【指定した全ての相手に金タライを必中させる】能力であり、【金タライが当たった相手は必ず失神させられる】のだから。
さて、これからどうしようか?
取り敢えず若造を立たせてから、少々の受講料位はいただいてもバチは当たらないような気がしてきた。
ひとまずもとの飲み屋に戻って、飲み直しながら考えてみるか。
絶対に見なかったとしても、それ自体が既に罠だったりします。御愁傷様。