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第12講 マヤ暦の仕組みを知ろう

1 導入


 2012年の末に世界が滅亡するという、いわゆる「マヤの予言」は、ミステリー系のテレビ番組でさえ否定的に取り上げられ、いまいち盛り上がりを欠く結果となりました。


 今回はこの予言の元となったマヤ暦についてお話します。

 ファンタジー小説の創作のネタとして、マヤ暦が役に立つのか。そう思われるかも知れません。

 思うに、マヤ暦はマヤのみならずメソアメリカ全体の神話に深く結び付いています。北欧神話におけるルーンに近い立ち位置です。もしも小説などでマヤやアステカに関連する登場人物などを出すとしたら、マヤ暦の概要を押さえているか否かで、少なからぬ違いが出ると思います。


 今回に先立ち、第6講でメソアメリカについて概括的な説明を致しました。もし今回、見慣れない用語を目にされましたら、あちらをご覧ください。たぶん解説されています。



2 ハーブ


 マヤ暦のうち神話的観点から重要なのは次のツォルキンですが、先にハーブという暦について触れておきます。

 ハーブは農耕に使われた太陽暦です。1年365日で、閏日はありません。よって約4年に1日、グレゴリオ暦とずれます。

 中米の人々は1年の正確な長さを知っていたらしいのですが、複数の暦を使い分ける方向で対応し、閏日や閏月を加えてまで1つの暦で全て処理しようとは考えなかったようです。



3 ツォルキン


 ツォルキンを指してマヤ暦と呼ぶことも多いのですが、当方はツォルキンとの呼称を推奨します。マヤ文明だけで使われた訳ではありませんし、後述するドリームスペルと区別する必要があるからです。

 ツォルキンはユカテク語の呼びかたで、ナワトル語ではトタルポフアリ、キチェ語ではチョルキフと言います。


 中米最古と言われるオルメカ文明では既に用いられていたようです。その後、少なくともマヤ、アステカ、サポテカがこれを継受しました。


 1日ごとに1から13までの数字と20種類の文字を独立して数えていき、最小公倍数の260日を1年とします。

 ユカテク語を例にとれば、1日目を1・イミシュ(ワニ)とすれば、2日目は2・イク(風)、3日目は3・アクバル(夜)……、と続きます。13日で数字が先に1周し、14日目は1・イシュ(ジャガー)となります。21日目は8・イミシュです。

 文字の意味や呼称は地域によって異なり、例えば17番目の文字はナワトル語でオリン(地震)、ユカテク語でカバン(香)、キチェ語でNoh(樹脂)です(注1)。


 中国の干支も考えかたは同じです。

 干支では十干と十二支が日ごと、また年ごとに1つずつ移り変わり、最小公倍数の60日や60年で1周します。61才を還暦というのはこのためです。

 ツォルキンはいわば、13干20支の260干支と言えましょう。

 後述するホセ・アグエイアスも高橋徹氏も、マヤ暦と中国の暦の相似は指摘しています。



4 ツォルキンと守護神


 ツォルキンの20の文字には、それぞれ守護神がいます。


 アステカは20文字とも守護神がはっきりしています。イク(風)に対応するエヘカトル(風)はケツァルコアトルが、エツナブ(ナイフ)に対応するテクパトル(ナイフ)はテスカトリポカの化身とされるチャルチウトトリンが、マニク(鹿)に対応するマサトル(鹿)はトラロックが担当します。


 対してマヤの守護神は一部しか分かりません。ただ、カバン(香)はイシュ・チェルに相当します。



5 人名とツォルキン


 ツォルキンの日の名前を、そのままその日に生まれた人の名前にすることも多かったようです。

『ポポル・ヴフ』にはフン・バッツとヴクブ・カメーという登場人物が出て来ますが、これはそれぞれ1・チュエン(猿)と7・シミ(死)のキチェ語における呼びかたです。

 それと、20番目の文字はユカテク語でアハウ(祖先)といいますが、これがナワトル語ではショチトル(花)、キチェ語ではフンアフプー(猟師)です。

 フンアフプーといえば、『ポポル・ヴフ』でイシュバランケーと共にヴクブ・カキシュを倒し、冥界を征服した半神の名前です。一方、ショチトルは現在でもメキシコで女子名として用いられるようです。


 実は当方も、『SSS』(このページの最下部にリンクを貼ってあります)にメキシコ出身でアステカの魔法を使うシャーマンを登場させる予定でした。名前は、『ポポル・ヴフ』のフンアフプーに因みショチトルと決めていました。

 ところが、書き始める直前になって『とある魔術の禁書目録』(注2)に同名の、しかもアステカ絡みのキャラクターがいることを知り、急遽この計画は没になりました。

 さて、鎌池先生はショチトルという名についてどこまでご存知だったのでしょうね。頭が下がります。



6 ツォルキンと占い


 キチェ族は今でも、ツォルキンで人の運勢や悩み事を占うそうです。


 人の運勢は、その人が生まれた日の数字や文字から判定します。


 悩み事を占う時は、豆やトウモロコシを使います。無作為に掴んだ豆の数を数え、それを4で除した商がツォルキンの日付を、余りが占いの信頼性を示すものとして、判断を下します。

 ツォルキンに見立ててとは明言しないものの、豆を使う占いは『ポポル・ヴフ』でもおこなわれます。キチェ族はかなり古くからこの占いを利用してきたようです。


 一方、アグエイアスはマヤ暦を占いに供することを徹底的に糾弾します。高橋氏も、「ツォルキン本来の用途が忘れられた後に生じた迷信」とします。

 当方は、伝統的な文化を受け継いで生活に取り入れてきた人々や、現存する神話のほうに説得力を感じるのですが、果たして……?



7 260日の意味


 ところでこの260日という数、どこから出て来たのでしょう?


 よく言われるのは、惑星が地球・太陽と一直線に並ぶ周期(その惑星の会合周期といいます)と関連するというもの。

 曰く、金星の会合周期は約584日で、これに61を乗じた値が、260日×137とほぼ一致する。木星の場合は周期約399日×88≒260日×135、などなど(注3)。

 言い換えれば、260日は金星の周期の137分の61や、木星の周期の135分の88とほぼ一致するということです。分母と分子が共に1桁になるとか、どちらかが1になるのならばともかく、そのような制限が無ければ何かしらの分数が該当すると思うのですが……。


 一方、中米のシャーマンは口を揃えて「妊娠期間と関連する」と答えるそうな。



8 的中例?


 ハーブにおける元日(別の日を選ぶ地域もあります)に対応するツォルキンの日付が、そのハーブの年の名前になります。西暦の2017年や和暦の明治20年に相当するものですが、根本的に年の名付けかたが違うのです。


 ところで、アステカ帝国には1・アカトル(葦)の年にケツァルコアトルが帰還するという予言があったそうです。ツォルキンの1・アカトルが巡って来るハーブの年です。それが1519年でした。

 その年に現れたのが、スペイン人コルテス。第9代皇帝モクテスマ・ショコヨツィンはこれをケツァルコアトルと誤認して抵抗せず、捕虜にされました。民衆がコルテスに対し蜂起した際、モクテスマはコルテスに言われるまま彼らの説得を試み、石を投げられて死んだといいます。

 この事件は帝国の崩壊を早め、1521年、第11代皇帝クアウテモックの抵抗も空しく、アステカは征服されました。



9 マヤの予言とは何だったのか


 中米で複数の暦が併用されたのは先述の通りです。ハーブやツォルキンは比較的、周期の短いものですが、もっと長期をカウントするものもあります。20年で1周するカトゥン、400年のバクトゥンなどです。

 その中でも最も長い部類に入るものは、1年を単位とし260年で1周するものや、20年×260=5200年で1周するものがあります。

 ここでいう1年はハーブではなく、360日のトゥンです。グレゴリオ暦で換算すると、260トゥンは約256年、400トゥンは約394年、5200トゥンは約5125年です。

 ここで最後に挙げたものを長期暦(グレートサイクル)といいます。中米の言語で何と呼ばれたかは、分からないようです。


 長期暦の始点は、グレゴリオ暦の前3114年8月11日(注4)です。これが終わるのが2012年12月21日でした。

 長期暦の変わり目で何が起こるのかには諸説あります。世界が終わり、新たな世界が創造されるとする本もあります(たかが5000年ごとに?)。単に、長期暦のカウントがゼロに戻るだけとする本もあります。


 マヤやアステカの神話は、世界や人類は何度か創造と破壊を繰り返した、というものが有名です。『ポポル・ヴフ』にも、それを匂わせる記述があります。

 一方、ティカルの遺跡では西暦4772年のことを記した碑文も見つかっているそうです。

 また長期暦よりも長い暦もあります。当方が知っている最大のものは、6400万トゥン、すなわち約6308万年で1周するアラウトゥンです(注5)。



10 ドリームスペル


 ツォルキンと似たものにドリームスペルがあります。これは、ホセ・アグエイアスという人物がツォルキンを元に考案した暦です。

 国内でマヤ暦と題して出版されている書籍のほとんどは、こちらを扱います。以下「マヤ暦」と言います。


 さて、伝統的なツォルキンは260日、ハーブは閏日なしの365日ですから、最小公倍数は1万8980日、つまり約52年です。52年ごとに、ツォルキンとハーブの噛み合わせが元に戻ります。高橋氏はマヤ暦版の還暦と表現していますが、実際に中米では52才まで生きた人は一目おかれたそうです。

 一方、グレゴリオ暦には閏日がありますから、一定期間ごとにツォルキンとのずれがリセットされたりはしません。


 そこでアグエイアスは、グレゴリオ暦と連動するツォルキンを発明しました。これが「マヤ暦」です。

 伝統的なツォルキンは曜日と同様に、日付とは無関係に進みます。しかし「マヤ暦」は、2月29日には進みません。つまり、グレゴリオ暦の閏日の処理をツォルキンにも適用したのが「マヤ暦」です。

 結果、グレゴリオ暦と「マヤ暦」は必ず52年ごとに噛み合います。当然、「マヤ暦」とツォルキンは2月29日になる度に1日ずれます。


 アグエイアスは日の名称もツォルキンのものとは異にしました。

 例えば、ツォルキンの文字でイミシュ(ワニ)、エツナブ(ナイフ)、アハウ(祖先)は、ドリームスペルだとそれぞれ竜、鏡、太陽と呼びます。

 1から13までの数にも名前を付けました。例えば1が磁気、12が水晶です。


 文字と数の組み合わせを、「太陽の紋章」といいます。

 ツォルキンの1・イミシュは「マヤ暦」ふうに言えば「赤い磁気の竜」、12・エツナブは「白い水晶の鏡」です。わあ、かっこいい(棒)。

 赤や白はどこから出て来たかというと、文字に対応する方位の色です。ツォルキンの20の文字は東西南北のいずれかに対応します。方位の色は、東西南北それぞれ黄黒赤白です。ただし「マヤ暦」では西に黒ではなく青を当てます。


「マヤ暦」はアメリカなどで社会現象を起こしたらしく、日本には高橋徹氏が積極的に紹介しました。

 後年、彼は「マヤ暦」と伝統的なツォルキンが別物であることに気付き、その違いを説明する本を出しています(注6)。



  ――脚注――


1 Nohの発音は不明。


2 鎌池和馬、メディアワークス他、2004-継続?


3 似たものにニネヴェ定数があります。古代メソポタミアのアッシリア帝国の遺跡から出土した粘土板に刻まれていた、約196兆という数字で、太陽系の全ての惑星の公転や会合の周期で綺麗に割り切れるといいます。当方は確かめても、信じてもいません。


4 本によって若干異なります。アグエイアスは前3113年8月13日とします。


5 6500万年前ユカタン半島に落下した隕石が恐竜の絶命を引き起こしたことをマヤの人々は知っており、だからこそアラウトゥンを考え出した。この暦が1周したとき哺乳類の時代が終わると予言されている――。なんて、小説のネタにいいですね。よければどうぞ。


6 マヤン・カレンダー2012(ヴォイス、2006・11・4)

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