突然の訪問
正面から見て右がエミーリエ、真ん中がフレデリク、左がカイの部屋となった。
夜も深くなってきたため、それぞれが新しい自室へと戻る。
つい先ほどまで3人で会話していたことが嘘のように静まり返った。
(すごく静かだわ...)
エミーリエは先ほどまでの眠気が消え去り、新しい環境に少し困惑していた。
エミーリエの家庭はあまり裕福とは言えなかった。
そのため普段はセミダブルベッドで母と並んで寝る生活を送っていた。
(こんなに大きなベットに一人きりなんて、わたしには贅沢すぎるわ.....)
エミーリエは贅沢に慣れていないのでかえって寝られなくなってしまった。
寝ようと思い目を瞑れば、今度は静寂が不気味に感じられてきた。
(フレデリクとカイはもう寝たのかしら...?)
外からは微かに虫の鳴き声がする。
エミーリエが住んでいた城下町では、この時間帯はまだ飲み歩いたりしている人たちの声がしていたはずである。
しかし今は人々の声は聞こえず、ただ静かに自然の音が聞こえてくるのみ。
エミーリエはふと、孤独感に襲われた。
それでもしばらくは布団に潜ったまま目を閉じ続けていた。
どれくらいの時間そうしていたかエミーリエには分からなくなってきたが、ずいぶん長かったように感じる。
(......ダメだわ、寝られない.)
どうしても寝られなくなってしまったので、エミーリエは自分の枕だけをもってそっと部屋から抜け出した。
廊下に出て、隣の部屋の前を通り過ぎ、着いたのはカイの部屋の前だ。
(カイ兄ぃならきっと馬鹿にせずに一緒に寝てくれるわ)
そう思って静かにカイの部屋の扉を開ける。
ノックをしなかったのは、もし眠っていたら起こしては悪いと思ったからだ。
できるだけ音を立てないように扉を閉めて、カイが寝ているはずのベットまで近づく。
顔を近づけて眠っているかどうかを確認しようとした瞬間、それは一瞬の出来事だった。
「誰だ......‼」
静かに横になっていたはずのカイが跳ね起きた。
小声だが威圧感のある声で相手を縮こまらせる。
片手には剣を構えており、いつでも抜ける状態だ。
「わ、わたしよ‼エミーリエ‼」
驚いて尻餅をついてしまったエミーリエが小声で必死に弁解する。
「...っ!エミリ⁉すまん‼」
声でエミーリエだと分かると、カイはすぐさま剣から手を離して尻餅をついているエミーリエへと手を差し伸べた。
カイの手を借りてエミーリエは立ち上がる。
「さすが専属騎士様ね、起きてたの?」
「いや、寝ていても人の気配がすれば起きるよ。それよりどうしたんだ、こんな夜中に?」
王子の専属騎士となるには、それなりの技術がなければならない。
その専属騎士のなかでもカイは並外れた技術と才能をもっており、こうして夜中に奇襲があったときでも対応できる。
そんな専属騎士様も、今夜の突然の訪問者には驚かされた。
「その...やっぱりわたしにはベットが大きすぎて...静かすぎるのも、隣に誰もいないのも不安になってきちゃって......」
「え、あ、うん。それは大変だ。」
(まさか...)と思い、動揺を隠せなくなりだすカイ。
「カイ兄ぃに一緒に寝てほしいなって思って...いいよね?」
(いやいや、全然よくないだろー...)
カイはエミーリエの無防備さに頭を抱えたくなった。