誓いの儀
扉を4回ノックした後に言う。
「ヴィルヘルム国王、私です。フレデリク・フォンテーヌブローです。」
「入れ。」
短い声とともに扉が開かれる。
正面にある豪華な装飾が施された玉座にヴィルヘルムは座っていた。
自分と同じコペンブルーの瞳だが、その鋭い眼光に背筋が凍る思いだ。
「前へ。」
フレデリクは言われた通り前に進み出て、カイはその斜め後ろに立つ。
エミリは、扉を開け閉めしてくれたヴィルヘルムの側近のそばに立っておく。
扉が閉められたこの場には、3人とヴィルヘルム、そしてヴィルヘルムの数人の側近しかいない。
「ヴィルヘルム国王、誓いの儀を行いに参りました。」
「よかろう、フレデリク・フォンテーヌブロー。おまえは20歳の誕生日を迎えるにあたって、なにを誓う?我に聞かせよ。」
透き通った声に、圧倒的なオーラを感じさせる。
普段誰かに跪くことなどほとんどないはずのフレデリクだが、自然とヴィルヘルムの前に跪いた。
「はっ、私の誓いは幼少期の頃から決まっております。ヴィルヘルム国王、あなたの参謀としてこの国を作り上げていく補佐をさせていただきたいと考えております。」
長めの沈黙が続く。沈黙に耐えきれず顔を上げそうになるが、顔を上げることを許されていないため耐える。
まだヴィルヘルムは声を発しない。
(何かやらかしただろうか、やはり服装が...!?)
フレデリクは一人焦りだしていた。
「ふっ、ふふ、ははははっ」
透き通った声が響く、その場にいた誰もがこの状況を疑う。
当の声の主は、おなかが痛いと言いながらもケラケラ笑うことをやめられないでいる。
フレデリクは思わず顔をあげて惚けてしまった。
「ふふっ、顔をあげろフレド、あ、もうあげてるな。」
と言ってまたケラケラ笑う。
フレドというのはヴィルヘルムが弟に対して使う愛称である。
フレデリクはまだ状況を把握できないでいる。
ヴィルヘルムの側近たちは(またか...)とでも言いたげに顔を覆ってしまっている。
「あ、兄上...?」
「いやー、すまんな、おまえがこんなに大きくなってるとは、兄ちゃん驚いちゃったよ。」
「は、はぁ...」
「しかしな、おまえには悪いが俺は参謀など欲していない。俺にはすでに、おまえなんかより優秀な側近たちがたくさんいるんでな。」
「はっ、な、えぇ!?」
思考が追いつかない。
(つまり俺の誓いは却下されたのか!?)
王子の誓いが却下されるなど前代未聞である。
「優秀な側近たちに囲まれて、兄ちゃん幸せだなぁ。」などと言いながらヴィルヘルムはまだ暢気に笑っている。
「あ、あの兄上!でしたら俺はどうすれば...?」
もはや普通に兄弟同士の会話になってしまい、カオスな状況だ。
「そうだなぁ、兄ちゃん、参謀よりも国王がほしいかもなぁ。」
「??国王は兄上です。二人も必要ないはずですが?」
「うん、だからな...」
ヴィルヘルムの眼光がまた、一瞬鋭くなる。
「俺に挑んでこいよ、フレド」
二人以外の全員が息をのむ。突然の静寂が訪れる。
「もちろんこの言葉の意味、分かるよな?」
「......兄上は心の底から俺が挑むことをお望みですか?」
「あぁ、おまえの兄ちゃんとして、国王として望んでいる。どうだ、フレデリク?」
「俺は今まで兄上のお役に立つために、嫌いな勉学にも励んできました。国王のお望みとあらば、喜んでその役目お引き受けさせていただきます。」
「うむ、それでこそ俺の弟だ。兄ちゃん嬉しいよ。」
ヴィルヘルムが子供のような屈託ない笑顔を見せた。