いざ!
「さぁ、そろそろ行こうか。エミリのほうが先に着いちゃってたら困るだろうし。」
「もうそんな時間か...。カイ・クリストフェルセン。」
フレデリクがカイの正面に向き直って、いつもよりワントーン低い声で彼の名を呼ぶ。
「はっ」
正式な名で呼ぶときは幼なじみでなく、王子として自分のとこを呼ぶときであると長年の経験でわかっている。
だから、カイはフレデリクの前に跪いた。
「今日も、そしてこれからも、何があろうともおまえだけは、俺のために忠誠を誓ってくれるだろうか。」
「私があなた様に忠誠を誓わないなどできるはずございません。一生、この身に変えたとしても、必ずあなた様を守り抜くと誓います。」
「感謝する。おまえがいるから俺は心置きなく活動することを許される、おまえだからこそ安心してこの身を任せることができる。これからも頼りにしている。」
跪いているカイからは見えなかっただろうが、フレデリクは心からの喜びが顔から隠しきれていなかった。
「恐悦至極にございます。」
少し、視界が潤みそうだった
「さて、顔をあげろカイ。これ以上はエミリを待ちくたびれさせてしまうからな。」
先ほどとは打って変わっていつもの軽く柔らかな声にもどると、そのまま歩き出す。
(器用だな...)
と変わり身の早さに驚きつつ、体を立て直してフレデリクの隣に追いつく。
謁見の間に着くと、先に着いたようであるエミリが不安げに待っていた。
「遅いよ~、わたしこんなところに来るの初めてなんだから、一人だと不安でしょうがなかったじゃない。」
「ごめんな、少し遅くなった。」
自分とフレデリクは昔から城の中を歩き回ることが多かったが、エミリはそうでない。
悪いことをしてしまったと思いながら遅くなったことを謝る。
「...悪かった。」
(えぇ、口数が少なすぎる...いつもならもう一言二言は話すだろ!)
心の中でフレデリクに対する突っ込みを入れながら
「ははっ、おまえもしかして緊張してる!?らしくないなー。」
なんて、わざとおどけた風に言ってみる。
「大丈夫よフレデリク!わたしたちがちゃんと見守ってるからね。」
フレデリクの心を汲んだようで、エミリも励ましの言葉をかける。
「大丈夫だ!特に、さっきまでここにいるだけで不安がってたエミリには心配されたくないな。」
「もう!すぐそうやって意地悪言うんだから!」
いつも通りのやり取りにほっとして3人でくすくす笑う。
「よし、行くか。」
フレデリクのコペンブルーの瞳が正面を見据え、謁見の間の扉を4回ノックした。