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消えない恋心


「それでエミリ、おまえ今日の午後予定空いてるか?」


城の中庭を3人並んで歩きながらフレデリクが尋ねた。


現在は太陽が自分たちのほぼ真上にある、お昼過ぎだ。


「このあとはカトリーヌ様がレディー学について教わる予定よ。そのあとでよかったら空いてるけど?」

「なんだ、レディー学って...?」


そんな学問あっただろうかとカイが真剣に考えだす。


「どうせ姉上の思いつきだろ?カトリーヌ姉様はおまえのことをひどく気に入っておられるからな。」


フレデリクは、真剣に悩んでいるカイに対しても、レディー学などという学問(学問と呼べるかも謎である)をつくったカトリーヌに対してもあきれた様子だ。


「カトリーヌ様のレディー学はとてもおもしろいのよ!社交界のマナーやダンス・それに歌や楽器まで教えてくださるの!あんなにお美しくてなんでもこなせてしまうなんてカトリーヌ様に敵う女性などいるのかしら?フレデリクにも学ばせてあげたいわ。」


やや興奮気味にはしゃぐエミーリエの様子から、カトリーヌを慕っているのだろうことがうかがえる。


「俺は男だ!レディー学など必要ないだろ。」

そう答えながら、フレデリクは妙にうろたえている自分を必死に隠そうとしている。



最近、エミリを見ていると落ち着かない気持ちになる。はしゃぎながら笑う様子に胸が締め付けられる。


恋心の二文字が浮かんでは自分の中で意識的に消し去るようにしている。


フレデリクは今年20歳になる年であり将来の伴侶を決めてもおかしくない年齢に差し掛かっている。


彼は第4王子という地位はもちろんだが、その容姿からも女性をひきつけてやまなかった。


しかし彼には大きな目標があり、婚約など二の次だった。




彼には7つ年の離れた兄がいる。


ヴィルヘルム・フォンテーヌブロー

フレデリクの兄であり、フォンテーヌブロー国の現国王である。


フォンテーヌブロー国には4人の王子がいた。


ヴィルヘルムが国王となってからは3人であり、他ふたりはいずれもフレデリクの年上である。


けれどもフォンテーヌブロー国は一夫多妻制であるため、フレデリクと血のつながった兄弟はヴィルヘルムだけだ。


フレデリクは、唯一血のつながった兄でありこの国の国王でもあるヴィルヘルムに対して敬愛の念を抱いている。


要するにブラコンだ。


フレデリクの目標とは、優秀な参謀として兄の補佐役を務めることであった。


そのために今まで、嫌いな学問にも励み、知識や経験を積んできたのである。


(いまさら恋心など自覚してしまえば、目標の妨げになってしまう)というのがバカ真面目すぎる彼の考え方だった。




そんなことから、エミリへの思いが日を増すごとに自分の中で大きくなっていくにもかかわらず、無理やり恋心ではないと言い聞かせているのだ。



エミリが剣術の訓練に参加していた時には頭の後ろで一つに結っていた艶やかな黒髪は、今はおろされて毛先が胸元のあたりまできている。


(あの髪は触れたらどれほどやわらかいのだろう...)


(さっきまで練習していたにもかかわらず、わずかに花のような香りがする...)


無意識のうちにそんな考えが頭をよぎり、自分の思考回路に赤面する。



「フレデリク!どうしたの?ぼーっとしちゃって」


身長差のため、エミリが屈まなくてもフレデリクの顔が下からのぞき込める。


「あ、いや、なんでもない。」


エミリに対するうしろめたさを感じて目を合わせにくい。


「大丈夫か?大事な時期なんだから体調を崩してはていられないぞ。」


「あぁ、大丈夫だ。心配いらない。」


カイにまで心配されてしまい、なんとか平静を取り戻す。


「それで、午後は空いてるんだよな?そのレディー学とやらが終わり次第、謁見の間の前まで来てくれないか。」


「謁見の間?私みたいな庶民が立ち入れる場所ではないわ。」


「今日は特別だ、俺が許可してるんだから別に構わないだろ。」


エミーリエはカイの顔色を窺った。カイはフレデリクの専属騎士であり、公式な場での振る舞いには常に気を払っている。


「あぁ...まぁ今回はいいだろう。」


カイは少し困った様な顔をしながらも人の好い笑顔で許可をだしてくれた。


「わぁ、カイ兄ぃありがとう!わたし謁見の間なんて入るの初めてでドキドキしちゃう。」


「まてまて、誘ったのは俺だろ!?なんでカイがお礼を言われてるんだ?」


別にお礼を言ってほしくて誘ったわけではないが、カイだけがお礼を言われてるこの状況はどうにも気に食わない。


今更口に出す気はないが、フレデリクとカイは同い年であるにもかかわらずカイだけがカイ兄などと呼ばれていることも癪だ。


「あ、もちろんフレデリクもありがとう。」


(ついで感が半端ないな...)と思いながらも


「はいはい、どういたしまして。」


と返しておく。

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