13話『秘策!!』
『5回のウラ、異世界研究部の攻撃です。四番バンバンバン、外野イヤイヤイヤ、的場さんサンサンサン。』
「クライス!頼んだぞ!お前なら絶対に打てるぞ!!」
「あぁ、まかせろ!」
俺達は5回のウラ1アウトを迎え、打順はクライスに周ってくる。
実はここまでこちらのチームは、一回のウラから一点も取れぬまま、生徒会に7対0と、大きく差をつけられてしまったのだ。つまり、かなり追い詰められた状況に陥っている。
「とは言ったものの、ここまで点差を開かれたら……。」
クライスを見送りながら弱音を吐く。
「確かに……、かなり絶望的な状況……かも……。」
しおりも半ば諦めたような言葉を漏らす。
『さぁ、的場選手の攻撃です。彼女は異世界研究部の中で唯一、エース真田選手の変化球にバットを当てています。だが、ヒットには少々届かなかった!しかしここで塁に出ることが出来れば、この悪循環を打破する引き金になることでしょう!!』
そんな実況は聞こえていないような素振りでバッターボックスに立ち、構えを取る。
「(絶対にカイトに繋いで見せる!!)」
真田選手がキャッチャーの指示を見て、ボールを投げる。
やっぱり!また変化球で来やがった!!
「ストラーイク!」
クライスは焦っていた。その緊張から大きく空振りをして、それを恥じながら構えを取り直す。
やはり勝機が見えないこの状況で、カイトもまた焦っていた。
「くそぉ!何かいい方法はねぇのか!!この状況を一発でひっくり返せるような何か……!!」
「あ!そういえば……!」
カイトの願いを叶えるかの如く、しおりが一つ、思い出したように呟いた―。
※
「なるほどぉ!!そっか思い出した!!確かにそう言ったな!」
クライスが二球目を打ち損じたところで、しおりの閃きを聞き、ある秘策を思い出したカイト。どうやら僅かながら勝機が見えた様子。
「オラオラぁああ!!どうしたクライスぅうう!!腰が引けてんゾォオオ!!」
「それでもうちらの仲間かぁ!?」
「だから仲間煽んな!…ったく!役に立つと思ってその人格許してやったのに!役立たずで野次飛ばすって、これじゃただの観客じゃねぇか…!」
リエルとちるまの"仲間煽り"を黙らせながら、クライスに合図を送る。
クライスは、カイトのサインを理解するとバットを構えた。
「(初心者相手に何度もすまないな。だが…、生徒会長にはかなり世話になってるもんでな!)」
真田選手はそう心の中で叫ぶと、またもや得意気に変化球を投げる。が、しかし、
(コンッ)
「なっ…!?」
ボールはライン上ギリギリを転がり、ヒットとなった。
「くそ!バントか!!」
そう、実はクライスが先程受けたサインは『バント』のサインだった。
相手選手のサードは急いでボールを取りに行き、送球しようとしたが間に合わなかった。そしてその様子に会場が沸く。
『おぉっと!!的場選手!!見事なバントで初めて塁に出ることが出来ました!!わたくし、こんなにハラハラさせられる試合は初めてです!!佐原先輩!解説お願いします!!』
『ウホッ。たった今解説を預かりました、佐原ウホ。確かに的場選手は機転に優れていると言いますか、何かこう、センスというものを感じますね。………あ…、ウホッ。』
『佐原先輩が何故か語尾を急に動物っぽくしてきました!私が思いますに恐らく、女の子ウケを狙ってのことでしょう!あと、先輩!どうせやるなら最後まできちんとやりきってほしかったです!!』
クライスがバントに成功し、塁に出てくれた流れを次はカイトが受け継ぐ番になった。がしかし、ここで会場の者達は異様な光景を目にする。
『おぉっと!!わたくしの見間違いでしょうか!!木原選手の持っているバットが……!』
俺の持っているバット?を見て、会場がザワつきはじめる。
「なんだありゃ?(ザワザワ)野球なめてんのか?(ザワザワ)」
観客達が口々にその光景の異様さを嘆いている。
俺はバッターボックスに立つと、バット?を前に突き出し、堂々とホームラン予告をかます。
「聖剣デュランダル!!なぜアレがここに!?」
そう、実は俺の思い出した秘策というのは、この"聖剣デュランダル"という『神器』をバットの代わりに使うというものだ。
この事は、以前野球の作戦会議を行っている最中に俺が言った、『俺には秘策がある』とはこれのことだったのだ。
『これは一体どういうことでしょうか?何やら木原選手は野球のバットではなく、おもちゃのような剣をバット代わりに使用するようです……。これは、ルール上宜しいのでしょうか?』
「俺は本気で負ける気がしないと思ってるんだが、悪いか?」
俺がそう言うと、審判達が主審の元へ集まり、何やら話し合っている様子。
『えーっと…、只今入りました審議の結果、生徒会チームが合意した場合、使用を許可するとのことですが…、生徒会代表の鏡選手、それで宜しいですか…?』
相手ベンチに座る生徒会長に、視線が集まる。
生徒会長は腕を組み、少し考えた末に口を開いた。
「彼が何を企んでいるかは分かりませんが………、良いでしょう。ちょうど試合も一方的過ぎて飽きてきたところです。彼の面白い提案を呑むことにしましょう。」
生徒会長がそう言った瞬間、俺は何か裏があるんじゃないかと思うくらいの笑みを浮かべた。
「か、カイト…。あ、あんなおもちゃの剣なんか持って、諦めちゃったのかな…。」
その光景を見ていたしおりが心配そうに呟いた。
そりゃあ、まぁ確かに普通の人なら不安になるような状況だろう。
だが、この剣の正体を知っている者からすれば、俺がいかに本気かが思いっきり伝わるはずだ。
「―さぁ、反撃開始だ!!」
試合中盤で、この危機的状況を見た人々は、やつは頭がおかしくなったのか?一体何を考えているんだ?など、口を揃えて言っていた。
だが、そんな言葉を嘲笑うかのように、反撃の狼煙が今、上がろうとしていた―。