12話『試合開始』
―試合当日―
生徒の噂は噂を呼んで、たちまち学校外にまで広がっていた。
この日、学校行事の勉強会を返上して『異世界研究部』対『生徒会』による、野球大会で学校中お祭り騒ぎとなっていた。
「とうとう、この日が来たな。準備はいいか?」
「うぉおおお!!!いつでもオッケーですよぉおお!!」
「早く野球やろぉおおぜぇええ!!!」
「……やはり、この二人はずっとこの調子でいくんだな………。」
「うぅ…、緊張してきた…ジャナカッタ、フッ!我が力をもって葬り去ってくれるわ!!はぅぅ、でもやっぱり不安…。」
やはり、リエルとちるまは昨日のままだった。だが、そんなことはお構いなしに、俺達は五人で円陣を組み、最後の意気込み確認をしていた。
試合開始まで、残り5分となったところで、放送がかかる。
『もう間もなく、異世界研究部と生徒会による試合が開戦いたします。異世界研究部と生徒会の方は準備をお願いします。』
放送の呼びかけにより、観客達が続々とグラウンドの客席へ集まってくる。
「うっわぁー、スッゲェ人だかり。これってもしかして、地元の人達まで来てんじゃねぇのか?」
「ま、まさかこんなに盛り上がっているなんて…!!」
「うう!興奮しすぎてさすがの私も鳥肌が立ってきたぁあ!!!」
「…確かに、お前翼あるからな。そりゃ鳥肌も立つだろうな。」
「ははは!そうなのか!!!ただ、楽しみで身がうち震えとるだけだと思ってたぞ!!!」
嫌味のつもりで言ったのに…。やっぱり一刻も早く元の間抜けに戻ってもらわなくては。
そんな冗談を言いながら、ポジション確認を始める。
「よし、もうすぐ試合が始まるからポジションの確認をするぞ。…まず、一番ピッチャーしおり!二番ショートリエル!三番セカンドちるま!四番外野全般クライス!五番キャッチャー俺!以上!!文句はねぇな!!」
―オォオオオオ!!!!
俺が確認を取り終わると、ちょうど放送がかかった。
『異世界研究部と生徒会の方は、グラウンドへ入場してください。』
合図と共に、ゲートからグラウンドへ入場する俺達。そしてその反対側のゲートからは、生徒会の面々が堂々たる面持ちで入場して来る。
お互いのチームが中央に集結し、整列すると、会場全体が歓声をあげる。
「両者キャプテン!前へ!」
審判役の先生が互いのキャプテンは前に出るよう指示する。
互いのキャプテンである、俺と生徒会長はまずはスポーツマンシップに則り、握手を交わす。
「…私は、このメンバー差を見て今更そちらが不利だとは思わない。」
「フンッ、んなこたぁ分かってるよ。俺も今更そっちが有利だなんて思わねぇからな。」
お互いに敵意の眼差しを向け、定位置に戻る。
それを確認すると、審判は合図を送った。
「試合、開始!!」
審判の合図と共に、選手達は散り散りになり、自分達のポジションへ向かう。
『さぁ、始まりました!桃花学園始まって以来の大勝負!!実況は今回初登場の菅仁美が勤めさせていただきます!そして解説は、野球部副主将!佐原先輩にお越しいただきました!佐原先輩!よろしくお願いします!』
『……よろしく……。』
『……え?それだけ………?あ、はぁい!!佐原先輩に素晴らしい挨拶をいただいたところで、チーム紹介を行って参りましょう!!』
ははは…。実況、だいぶグダグダだなぁ…。
『まずは、生徒会!彼らは、この試合のために、3日間!血を吐く思いで練習をしてきました!打倒異世界研究部を掲げ、今日この日、大いに我々を楽しませてくれることでしょう!!』
おお、なんかかっこいいな。次は俺達か。(ワクワク)
『次に、異世界研究部!………は、生徒会の取材で忙しくて断念しました…。面目ない…。』
「ざけんなぁッ!!!!」
そうこうしている間に、異世界研究部のメンバーは守備についていた。
自分も、若干実況にイライラしながらキャッチャーの構えを取る。
『一回の表。生徒会の攻撃です。一番バンバンバン、セカンドンドンドンド、山口くんクンクンクン。』
セルフエコー腹立つなぁ。
相手のバッターが放送に応えて、バッターボックスに立つ。
(まずは様子見か…。よし、ここは一球外そう!)
俺はしおりにサインを送った。
しおりは頷くと、勢いよく球を放った。
(パシッ!)
「ボウル!」
(うーん、ボウル球には手出して来ねぇか。まぁ、次も警戒して振らねぇだろう。なら次はど真ん中だ。)
俺はまた、合図を送った。
しおりは頷くと、勢いよく球を放った。
(パシッ!)
「ストラーイク!」
やはり相手選手は慎重なようで、2球目には手を出さなかった。
とは言いつつ、こちらも慎重過ぎたか?
「ピッチャービビってる!ヘイヘイヘイ!!」
「うるせぇ!!仲間煽ってんじゃねえよ!」
リエルは、球が飛んでこないのが相当暇なのか、しおりに対して八つ当たりをしている。
(よぉし、次は1球目同様外せ!)
俺は合図を送り、しおりが頷き球を投げる。
(カーン……、パシッ!)
弱々しくバットに当たった球は打ち上げられて、キャッチャーフライで早くも1アウト。
『おぉっと!!しおり選手!まずは軽々と一人目をおさえました!異世界研究部は人数差で不利だと思われていましたが、どうやら大波乱が予想されそうです!!佐原先輩!しおり選手は今回が野球自体初体験とのことですが、どう見解をお持ちでしょうか?』
『えぇ、そうですねぇ!彼女のあのしなやかな手首、そしてフォーム、いやぁ、是非とも我が部に入って欲しいですね!うち、男子野球部だけど…。』
『は?………あ、申し訳ありません!先程とはうってかわって佐原先輩が多く語るものですから、わたくし、少々困惑しておりました!』
その後は順調に二人目、三人目を三振で打ち取り、次は俺達の攻撃になった。
「よし、まずは一番しおり!緊張しないで自分のペースで頑張ってこい!」
「しおり!ノーアウトで塁に出てくれれば、私が必ずホームランを打って見せるからな!」
「う、うん…。」
「大丈夫だ!さっきもちゃんと投げれてたし、お前なら出来る!」
しおりは深く頷くと、バッターボックスへ内股気味に歩いていった。
『一回のウラ、異世界研究部の攻撃です。一番バンバンバン、ピッチャーチャーチャーチャー、葉隠さんサンサンサン。』
そのセルフエコーまだ続けんのかよ…。
相手のピッチャーは、早速野球部の助っ人を出してきたようだ。
「プレイボール!!」
相手のピッチャーは、キャッチャーの指示に頷き、球を投げた。
(パシッ!)
「ストラーイク!」
球はストレートのど真ん中だったが、しおりはまだ緊張しているのかバットを振り遅れていた。
「しおりー!!緊張するなぁ!!しっかりボールを見極めろ!!」
しおりは俺の声が聞こえたのか、自分に気合いを入れるかのようにバットを強く握り直す。
2球目、相手が投げた球は外角斜め上だった。それをしおりはきちんと見極め、ファウルに持ち越した。
「よし!いいぞしおり!!」
だが3球目、相手が投げた球。そこで俺達は思い出した。やはりこの勝負はつくづくフェアじゃないと。
「ストラーイク!」
さすが野球部といったところか。
それは、素人には到底投げられない球、"変化球"だ。
「な!?なんだあの球は!!まるで魔法のように曲がったぞ!!」
「へ…、へへへ…。こりゃあやっぱちょっとヤバイかも…。」
俺の悪い予感は当たり、続くちるまとリエルも三振に打ち取られてしまう。
『スゴい!!さすが桃花学園野球部エース!真田先輩!!二年生にして選抜入りになられただけのことはあります!!やはり、佐原先輩からご覧になっても今回注目の選手ではないでしょうか!』
『………はい、そう…ですね……。』
『佐原先輩いい加減にキャラを固めてください!こちらもどう接してよいのか分からなくなってきました!』
とうとう始まってしまった野球大会。一時は、互角に渡り合えると思っていた異世界研究部も、一回のウラでやはり不利だということに気付いた。
果たして、このままなんの対策も無いままで負けてしまうのか―?