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「なにを、言ってるんです…?」
うすら笑いを浮かべたハクが目を見開いたままこちらに歩み寄る。その足取りはおぼつかなくて、左右にふらふらと揺れていた。それを見て俺もハクに近づいていく。途中出てきたリスがやかましいがそんなことは無視である。それよりも今、この場で話をするほうが先だ。
「お前が生きてるわけがない。お前が生きられるわけがない。
日記を見たんだ。ひよこが全部知っている限りのことを知った。お前、なんでひよこが死に掛けのまま飛んだのを知ってるのにあいつのケガが短時間で治っているのを驚かない?どうしてお前の魂は召喚獣のものではない?」
ハクはうつむいたままこちらを向こうとしない。ちょうど顔にかかる影のせいでその表情は見えず、俺とハクは顔を見せないままお互い手を伸ばせば届く距離に立ちふさがった。周りの他の召喚獣たちは俺の話を聞いてやや遠巻きに様子をうかがっている。
その顔にはありありと不安が出ていた。
「内側からじわじわと殺していく予定だったか?手始めにここのリーダー格とその補佐役から殺してさぁこれからだと?俺が来たことでしびれを切らしてここで全員始末つけるつもりだったと?弱いものを始末してそこから実力をつけるつもりだったか?」
口を止めずに話し続ける。
これはすべて賭けだ。思った以上に近くにいたこと、本人がいたこと、俺の予想より動きが早かったことを全てぺいにするための大一番の博打勝負。掛けるのは俺の命とここにいる全員の命。どのみちここで仕留めきれなければいけないのだから怖がることはない。ここで口を止めたほうが負けるのだから。
「答えてみろよ、三下勇者」
多分、これが決定打だった。
「うるせぇんだよ、ちんけで何もできねぇ野郎が」
顔が完全に影に落としこんだところを見逃しはしなかった。真上に太陽。そして雲に隠れるように並ぶ小さな黒い点に思わずニヤリと笑みが浮かぶ。ハクの手がその懐に入るよりも早く、と急ぐ気持ちを押さえつけて声を張り上げて叫んだ。
「大いなる召喚獣よ。今こそ力を貸し与えよう。望むものをここへ!我が望みは力!名のある中で最も力のある者をここへ呼び出せ!」
叫んだ声に呼応するように光る黒い点の数々はすべて光りだし、点は光り輝く線でつながっていく。上を見上げたハクは顔の影がすっかりなくなり、青くなって一歩後退すると「何故…」と呟いた。
何故も何もない。
「召喚士さまあああああああああああああ!!!」
上から降ってくる銀色の狼を見て笑って見せる。
これはすべて、昨日の夜から計画していたリアンをここへ呼び出す方法なのだから。




