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「あ、す、すまない…」
「謝るなよ、よけい惨めになるだろ!」
「すまない、貴方を忘れていた」
「お前もか!お前もなのか!やめろよ!なんなんだよ!もうお前らでやればいいじゃん!俺いらないじゃん!タイトル変えるよ!『勇者と獣の戦い』でいいじゃん!」
「たいとる…?」
「こっちの話だ」
拗ねる俺に狼は「機嫌を直してくださいませ」とポンポン肩を叩く。勇者は、ハッとするとわざとらしくゴホン!と大きく咳ばらいをすると、お前も許さん!と大きく声を張り上げた。こいついつも声張り上げてんな。疲れたり喉が枯れたりしないんだろうか、しないんだろうな、勇者だからな。
「俺達にはお前らを処罰する義務がある!やれ!魔術師!剣士!」
勇者の一言で飛び出したその2人はボソボソと何かを唱えると、次の瞬間目の前に雷が落ち、真横を衝撃波が通り抜けた。
おいおいおいおいおいおい、まじかよ…。冷やりと全身から吹き出す汗に頭がついていくのはそう遅くはなかった、狼の背にすぐさま掴まって、
「走れ!」
と叫べば狼は突き動かされたかのように森の奥へと走り出す。後ろから追撃するあの2人の女を無視して俺はドクドクと動悸を繰り返す心臓を抑えた。ここで逃げ切れるとは思えない。それに何より心配なのは一番最初の攻撃でばらけた他の狼たちだ。ここまで隠していた住処も見つかったとなると個人でどうにかするのはとんでもなく難しいだろう。
草木が生い茂る暗い森まで逃げ込んだところで、奴らの攻撃がどこからくるのか明確化していた。光すら入らないこの森で、奴らの魔法の杖が、剣が、光るのだ。これは避ける目安になる、分かりやすい攻撃で少し余裕が生まれた。
「狼、聞く余裕があるなら聞いてくれ」
「えぇ、なんでしょう」
跳ねる狼になんとか掴まりながら俺は一つ一つを自分の確認のためにも話す。この状況を打開する方法を。
「いいか、お前ら召喚獣は、単体では本来の性能を出し切れない。せいぜい一般人を圧倒できるくらいの能力だ!火も吹けなきゃ水も吐けない!でかい図体にかぎ爪、ゴキブリも驚く生命力くらいしか魅力はない!」
「なかなかにひどいですね召喚士様!」
一度、大きくガクン!と揺れて思いっきり舌を噛む。真面目に痛いんだが、今はそれどころじゃない。懸命にしゃべり続ける。
「いってぇ!
…い、いいか!だがお前らは何者よりも強い!そのための性能を引き出すのが俺だ!そのためには契約しなきゃいけないんだ!方法は…」
「そ、その方法とは…」
よっと、と声に応じて出たのは何枚かの紙が入ったファイルだ。今この状況でこれがカギになる。俺は中に入っている紙を1枚取り出すと、一緒に出てきた朱肉と一緒に狼に差し出す。
「とりあえずこれにサインしてもらっていいかな?」
紙には、大きく「召喚士、召喚獣における契約書」と書いてあった。
「……は?こ、これですか?」
きょとんとする狼に当たり前だろと返すと、その瞬間魔法がとんでくるが…。全て明後日の方向に飛んでいく。何度撃ったところで同じことだった。
「無駄だ、契約中は攻撃無効だからな、バリアだバリア。おとなしく待っとけ」
その時の俺の顔は、過去最高の得意顔であっただろう。