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広場はひどくどんよりとしていて、日の光すらも壁という壁、瓦礫という瓦礫に遮られていた。汚れ具合から普段から人の入らない場所であるなんて一目でわかることだった。この双子でも知っていることに驚くくらいのその薄暗さはようやっと一寸先が見えるくらいで、知らなければ肝試しのスポットにでもなっているだろう。
1歩、また1歩と踏み出せばカツンカツンと自分の履いているブーツが反響し、鈍く音を出す。時折叩かれるひよこの翼の感触を頼りに歩いていけば、こつんと何かに足が取られた。
「キュキュッ」
「…?なんだこれ」
薄暗くもあって見え辛いそれに自然と目を凝らし見ようとかがむと、それがようやく目に入る。白く、細く、長いそれは何かの棒のようで、それをひょいと持ち上げて見れば覚えのない触り心地に眉根を寄せることになった。乾燥しているのか表面はサラサラとしていて特に引っかかりもない。少し力を入れればパキッと小さな音を立てて折れてしまうくらいの脆さだった。
瞬間、ひよこが俺の頭を高速で叩く。先ほどまでぺチぺチとカワイイ音を立てていた俺の頭からはベチベチと鈍く音が出る。
「いたっ!?おい、強く叩きすぎだ!」
「ピィ!!!ピ、ピィピィ!???」
顔は見えないものの明らかに焦るひよこの様子に俺だって尋常じゃないことに気付く。かといって、何にそんなに慌てているのかわかったわけでもなく痛い後頭部に顔を顰めた。腕を頭まで伸ばしてむんずとひよこを掴むと顔の前まで持ってくれば、相変わらずピィピィとけたたましく鳴くひよこは手の中でじたばたと暴れた。
わかった。わかったから落ち着いてくれ。
ひとまず片手に握った白い棒をそのあたりに転がそうとしゃがんで目の前を向いたとき、丸く白い歪な形のボールのようなものが目に入る。そのボールのようなものは大きな黒い穴が横に2つ並んでおりその真っ暗な空間は俺を見つめている。ここまでくれば後は何を見るまでもなく俺にだってこれがなんだかわかる。恐る恐る手を伸ばして触れてみればさっきの白い棒と同じ感触。
走って来て熱いはずの身体がサァっと冷めた気がした。いや、別にとても苦手な分類なわけでも卒倒するほど嫌いなわけでもない。ただ、誰だって身構えてる状態でくるのと突然目の前に出てくるのとじゃ驚き具合が違うだろう。それと同じだ、絶対そうだ。
目の前にある白いそれは人の形をした骨だった。誰の骨なのかも、それが男性であるか女性のであるかなんて想像もできない。目の前に転がる骨にただ唖然として驚いて口を開けることくらいしかできなかった。
それもすぐに収まり周りをよく見ればそこら中に転がる白い塊に思わず「うわっ」と声が出る。いや、これだけ人気のない場所なら放置されているのもわかるがそれにしたってインパクトがでかすぎる。そういうものに耐性がない人間なら死んでも入りたくない場所だし、こんなところに連れてこられたら卒倒すること間違いなしだ。
ひよこが懸命に叩いていたのはこのことかと納得すると同時に、生憎こういうものには割と耐性のある俺は空間に嫌な思いはしたもののそれでも腰が抜けたりすることもなくゆっくりと歩みを進めていく。
手の中のひよこは安心したのか、俺の手の中でホッと1息つくと緩んだ俺の手を抜けて頭の上へ見事に登頂していった。よじよじと俺の髪を絡めながら登ってぽんぽんと俺の頭を軽く叩くが、それが早く進めという意味なのか俺を慰める意味なのか、それともなんとなく叩いただけなのかは分からない。どれにせよあまり考えなくともいいだろう。
進んでいけば、徐々に暗闇に目が慣れてきて最初は見えなかった周りもだんだんと見えてくるようになる。暗闇の中で分かり辛いがそれでもそこら中に散らばる骨と無駄に広い空間であることはよくわかった。地下へ続く階段を見逃さないように床を注意深く見ながら進んでいっても中々その階段というものが見当たらない。なるべく早く地下へ行かなくてはいけなかったが早まっては見つかるものも見つからない、歩みをできるだけ速くし下を向きつつ進んでいくがそれでも見つからない。
「…見つからねぇな」
双子もひよこも言うのだから地下へ続く階段があるのは間違いないと見ていい。焦り始める俺の耳にガァン!と大きな揺れと衝撃が襲った。
「お、おわわわっ!?」
揺れはわりと大きい地震のような衝撃で何の構えもしていなければ近くに掴まる手すりすらもない場所で当然の如く俺はバランスを崩して顔面から倒れそうになる。顔面からいくとなると当然襟から顔を出している双子のリスが下敷きになるわけで、それを許すわけにもいかない。
左足を大きく踏み出してなんとか踏ん張るとなんとか勢いは収まったものの、それに合わせるようにもう一度来た揺れには体が追いつかなかった。
今度は背中が反るようにバランスを崩すが左足を前に出した状態じゃなにもできることはない。重力に逆らうことなんてことはできずにそのまま後方へ倒れ込んだ。
「うわっ!?」
尻から落ちたのはせめてもの救いだろうが、それでもパラパラと上から降ってくるのと尻餅をついたせいで巻き起こる砂埃はあまりいただけない。煙いし何より視界がさっきより悪くなる。
「…ゲホッ、ゴホッ」
煙い。咳出るのも仕方ないな。
立ち上がろうと地面に手をついた時、その違和感にすぐに気づいた。
「…ん?」
その場で手をついた場所をコンコン、と指の関節あたりで叩いてから別の場所を叩いてみればさっきよりも低く鈍い音が出る。
音が軽い?音が軽いということは…。
明かりもないから手探りしか方法はないが、それでも大体の位置がわかっていればそう難しくはない。手のひらと膝をついて探し始めればすぐに床の1ヶ所に手が引っかかった。その引っ掛かりを持ち上げれば段違いの砂埃と共にギギギギギっと軋んだ音が鳴る。
「…みつけた」
バタン、と床の一部だったそれを完全に開き切って床に落とせば下からぽっかりと黒い空間が顔を見せた。その空間へは階段が続いていて、まさに今探し求めていたものだ。
地下への階段に違いはなかった。




