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ガシャァァン!!!
耳を劈くような音が鼓膜を震わせる。体が思わず収縮してしまいそうな破壊音がする。本当に、一瞬だった。俺が伏せろ、と声を発したその直後にあの平和な朝がぶち壊された。前に爆発を経験したことがあるが、あのときはどちらかと言えば閃光と耳鳴りで何も考えられないような感覚だ。今度は違う、爆発ではなく単純な破壊。耳鳴りもなければ閃光もない。だが、問題はある。
パラパラと壁の破片やガラスの破片が落ちる音がする中でゆっくりと顔をあげれば、目の前には太陽を通す窓ガラスと壁があるはずだったものがぼっかりと大穴を空けている。壁からは中に入っていたであろう細い鉄骨が顔を見せ、外が綺麗に見える状態だった。ゾッと背中に冷たいものが伝わったが、それでも今は恐怖に縛られている場合ではないことくらい自分にもわかる。自分の腕の中、数人と思っていたものは想像より多かったらしく、ひよこや黒髪の少女の他にも双子や近くにたまたま座っていた4人が俺の両脇で倒れていた。
「無事…ゲホッ…無事な奴は…!」
粉塵で多少視界は悪くても見える範囲で辺りを見渡せば、周りには倒れる人、人、人…本来の獣に戻っている奴もいる。そこら中でうめき声が聞こえる中で、ピクリとも動かない奴はいない。すぐに2撃目が飛んでくるかもしれないことを考えれば、すぐにでもここを離れるべきだ。足に力を入れ、立ち上がり全員を起こそうとしたところでバタバタと走ってくる足音が聞こえた。
「なんだ…これ…」
そこには、顔が真っ青を通り越しもはや土気色になっているハクがまばたきもせずにこの惨状を見つめていた。その顔には、寒いにも関わらず汗が浮かんでいる。だが、今こいつに構っている暇などないのが今の現状だ。
「あ…!」
言いだそうとして、そこでぐっと息を呑む。考えろ、考えろ、今どうするべきなのかを。できうる限りのことを。絶対にハクの力は借りなきゃならない。これは絶対のことだ、その上で考えられる限りの保険を作っておくべきだろう。今この場がどうにかなってもそれで終わりなわけではないのだ。
息を呑んだ喉をごくりと動かす。自然と止めていた呼吸を大きく吸い込んでゆっくりとまばたきをすれば視界が開けていった。倒れたまま肘を伸ばしてハクがいる扉へ人差し指を突きだし、叫ぶ。
「動ける奴は地下へ!すぐに2撃目が来る!急げ!」
俺の下から、横から、何人も立ち上がり、扉の元へ駆けていく。それを見届けながら誰か残っていないかを見回しながら確認していった。ぼっかりと空いた大穴からはチラリとあの黒い影が見える。確認をするにも時間は残されていない。食堂は幸いにも机と椅子しかないため、扉側からさっと目を通すだけで誰も倒れていないとすぐにわかった。
バタン、と扉を閉めてそれを手で押さえる。早く、早く逃げなくちゃいけない。
俺の予想では襲撃は早くても明日、もしくは明後日…どうやったって俺の作戦より後に奴らは行動をするはずだったのだ。いや、俺の作戦より前に襲撃がある場合を考えていることはあったがそれはあくまでも“最悪”の場合。その最悪が来てしまった。そうなれば…。
唐突に、ツンと袖の引っ張られる感触に俺は自然とそれを追うように袖へ目を動かす。袖には小さな肌色の手が控えめに引っ張っていた。その先へ視線を移せば小さな赤と紫の頭。双子だ、と気付くのも遅くない。
「召喚士様、一緒」
「一緒に逃げるの。みんなも心配してるの」
「あ…」
あぁ、逃げよう。そう口にしようとした瞬間にドン、と衝撃が扉越しに伝わってくる。扉の奥、さっきまで自分がいた食堂だ。それを理解したと同時に袖を引っ張っていた小さな手を2つ自分の元へ引き寄せる。ゆっくりと下がるなど悠長なことはしていられない。その手を引いて俺はその足をすぐさま地下へと続く階段へ走らせた。
走り出した直後、後方で何かが破壊される音がする。振り返るか、振り向かないか、答えは簡単だった。その視線は、自然と後方へ向く。そこには、破片をパラパラと落としながらゆっくりと引いていく大きな足が見えたのだ。
あんなものに蹴られたらひとたまりもない…!どうする、この場をとにかくどうにかするしかない。いや、それよりも先に…。チラリと視界に肩に乗った黄色の玉が映る。少し…というかかなり時間は足りなかったが仕方ない。ひよこをやられたらどうしようもなくなる。
「ひよこ、少し時間が足りないがお前は行け。多分帰ってくるまでに時間はかかるがそれまでこっちでなんとかする。お前がやられたら元も子もなくなる!」
「ピ…、ピ!」
少し悩むように俺と双子、そして後ろで瓦礫と化した食堂を見比べつつ鳴いたひよこだったが、それもすぐに俺を見上げ強く鳴く。ポン、ポン、と軽い音と共にひよこは分裂を始める。1人、2人、4人、8人とそこまで増えたところで一旦分裂は止まる。そのまま7匹のひよこが四方八方へ飛び立っていくのを見もせずに走り抜けた。
その足を止めたのは、昨日に俺が初めて地下からここへ来た時の階段の場所に着いたときだ。だが、そこに着いたときにおれは愕然とした。
「なんで…なんでないんだ…」
その階段は、瓦礫の山と化していたのだ。




