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「少しは気分が晴れたか?」


 俺の言葉に少女はカップから口を離し、小さく頷いた。落ち着いたところで話はしたいのだが、ここで話すのもどうだろうか?俺は話をするのにどの場所でも構わないが、話をするのは目の前にいる彼女だ。彼女が一番話がしやすいところでするのがいいだろう。


 いつの間にやら遊んでいた奴らの声もなくなって、釜戸の中で小さくパチパチと火の粉を飛ばす音が聞こえてくる。何の音もしない中で少女は震える声で切り出した。


「あ、あの…召喚士…というのは、どういうものなんですか?詳しく聞いたことがなくて…」



 俯いた彼女の顔は見えない。けれど、その表情は震えた声からなんとなく想像できた。話というのはそれか、と小さくため息を吐いた。それに目の前の彼女はビクリと肩を震わせる。なんと答えるのが正しいだろうか。


「…召喚獣と契約を交わして一緒に戦う人たちのことを一般的にそう呼んでいた。最初は数名、けど着実にその数を増やしてな」


 そもそも召喚士なんていうのは自由が認められた職であった。こうでなければならないという格式ばったものがない。人気の職業かと言われれば、あまり人気のある職ではなかったが。


「召喚士が、どうやって召喚獣と契約を結ぶのかは様々だ。基本的には召喚獣に代償を支払う代わりに願いを叶えてもらうやり方。逆に、召喚獣の願いを叶えることで付き従えている奴もいた。まぁ、こっちは少し珍しいが」


 そこまで話したところで、俺の手を小さな手が握った。冷たいその手は目の前にいる彼女で、俺をまっすぐに見上げた彼女は今までの暗い顔とは打って変わって希望に満ちた目で俺を見ると「あの…!」と切り出す。

 俺が首を傾げたその直後、彼女は一度ぎゅっと口を結び俺から目を逸らしたが、意を決したようにもう一度俺に目を合わせると口を開いた。



「あの…私と契約をしてください!私の、私の願いを叶えてもらいたいんです!」



 言い切った彼女の顔をポカンと見る俺は頭の処理が追いつかずにアホみたいな顔を晒してしまった。しばらくして、未だに飲み込めない状況と処理の追いつかない頭のまま俺は少女に笑いかけると


「とりあえず、座らないか…?」


 冷たい冷たい床を指差した。





「それで?俺に願いってのはなんなんだよ」


 カップを両手に持ち、慎重に座り始める少女の目の前に胡坐をかいて座る俺はそれだけ言うとタバコを取り出そうとして…その手を引っ込めた。流石に目の前で吸うのも悪い。

 目の前で正座で佇まいを正した彼女は、少し黙って言いにくそうに俺から目線を外すと「あ、あの…」と呟くような小ささで声を出す。流石に聞こえないことには始まらず、


「すまん、もう少し大きな声で言ってもらえると助かる」


「あ、す、すみません!」


 苦笑いした俺に、少女は大きく頭を下げた。あ、いやそんなに謝らなくてもいいんだけど…と、手を伸ばしかけたがそれもまた大きく頭を下げた少女の目に入るはずもなく、俺の手はどこに行く宛もなく宙に彷徨う。


「あ、ええと…大丈夫だから!気を落とすな!」


 な?な?と声をかければ、少女は「すみません…」と蚊の鳴くような声で答えた。そのあまりの落ち込みように今度はどう声をかけていいのかもわからず、冷や汗がタラリと流れる。


「私は…とても気の弱い獣です」


 正座から体育座りに、足を抱え込むようにして座った少女は足の間に顔を埋めてそう切り出した。どこに行く宛もなかった自分の手を下げ、その手を床に付く。少女は顔を埋めたまま顔をあげようともしない。


「私の母のことはあまり覚えていませんが、それでもとても強い人だったことは覚えています。何があっても笑顔で、不安な顔なんて私に1度も見せませんでした。

 母が死んだ後に、自分がどれだけ母に甘えて生きていたかをすごく実感するようになって…母が今でも恋しくて、すごく…寂しい。生きていることも地獄のように悲しくて、辛い…」


 ギュッと握られた拳は血が止まってしまうんじゃないのかというほど真っ青に変色していく。


「だから…」


 顔を勢いよく上げて俺を見上げた彼女は、目に涙を浮かべていたのを見逃せるはずもなかった。


「だから、今すぐにとは言いません!期間があってもいい、契約して、いつか私を殺してほしいんです!」


 お願いします!お願いします!

 足を横に崩し、地面に額を付く勢いで頭を下げた彼女に俺は何も言えずにいた。カップはとっくのとうに倒れて地面に転がっている。コロコロと転がるカップはゆらゆらと揺れて、やがてピタリと止まった。

 俺は、何を言うべきか未だに分からない。契約というものは基本的に生き延びるため、命を守るためにするものだ。殺してほしいから契約なんて話は聞いたこともないし、俺もそんな契約は結んだことがない。

 思っていることは決まっている。だが、それを口に出して言うべきかと言われれば否と答えるだろう。それを言って、こいつが苦しむんじゃないかという思いが邪魔をしてくるのだ。




「俺は…」



 ドクドクと自分の鼓動が聞こえる中で、俺は震える声で口を開いた


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