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人生、生きている中で思わず見栄を張ってしまったり思わず言ってはいけないことを言ってしまったりする瞬間はあると思う。
男はその回数が多いと俺は確信をもって言える。彼女に太った?と聞く、クラスメイトの女に何か変わったところ気付かない?と聞かれてヤマ勘で答えてしまう、できもしないことを恰好つけて言ってしまう。そりゃあもう俺も多い、それで泣かれたこともあったくらいだ。
そして、それを言ってしまったのが、俺は今だった。
「あ、いや…」
撤回をするつもりは毛頭なかった。本心を取り消すつもりはない。だがこの空気が非常にまずいのはみんなわかる、俺もわかってる。勇者は明らかに怒ってるし、その取り巻きも俺を睨みつけている、狼だって俺を隠すように殺気もりもりだ。
今一度、ここで俺という存在を交えた状態で全体を見てほしい。よく考えろ、ここでの俺の圧倒的違和感がやばい、明らかに浮いてる。俺いなくてもいいんじゃないかな…?俺いらないんじゃないかな…?おっかしいなぁ俺主人公なのになぁ…。
「おい、お前…勇者に向かってその口の利き方はなんだ」
金属音と一緒に勇者の剣が抜かれる。もはやないと言ってもいいくらいの短気だな勇者。その勇者に狼はフン、と鼻を鳴らすと
「政府の権力を振りかざすことしか能のない連中め、自らの考えもなく踊らされているだけだというのがまだわからんか」
そう言って馬鹿にするように笑う。それはそれは可笑しくて仕方がないとでもいうように。
いや、あの…これ以上相手の神経を逆なでするような発言はやめてくれ…結構本気で俺の寿命が減っていくのが目に見えて分かるから。
狼の物言いは、勇者にとってしてみたらこれ以上なく頭にくる言いかただったらしい。勇者はギリッと歯を食いしばると、顔を真っ赤にさせて狼に人差し指を向けると叫ぶ。
「口減らずのモンスターめ!!!貴様らの脅威は十二分に分かってる!魔法も使えないお前らに俺たち勇者が負ける要素など万に一つもない!」
「なぁ」
勇者の叫びに俺が割り入るのはすっごくタイミングが悪いのは分かっている。わかっていても、言わなきゃいけないことを言わないままにしておくのはダメだって誰かが言ってた。…ごめん、別に誰も言ってなかったわ、俺が今考えたことだったわ。
まぁ、それはどうでもいい。今俺にとって大事なのは、この狼と勇者の間に立たせられている微妙な空気をなんとかすることだ。俺が今思っていることを正直にこの2人に話すことだ。
「なんだ!」
「なんです!」
勢いよく俺に振り返る1人と1匹に若干びびるが、そんなことで怯む俺ではない。言いたいことを言える人間、もとい男。それこそ男の中の男だ。俺が憧れる人間像だ。だから息を吸って言うんだ。俺の今思っている素直な気持ちを!
「俺、いる?」
今、俺は割と本気で孤独を感じてる。