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 ぽたりぽたりと黒くシミを作るそれに俺はギョッとした。まさか泣きだすなんて夢にも思うはずがない。人間でいうなら7歳くらいまではあるかもしれないが、双子の落ち着きようでは想像もつかない。

「できなかった」

 この一言で終わると思っていたのだ。できなくたって笑って終わるくらいの気持ちでいたのにそれを覆された時の衝撃といったらない。紫髪もそれを思ったのか、オロオロと行き場のない手を赤髪の前で振る。俺も同様だった。


 子どものようにぎゃんぎゃん喚いて泣かないことが唯一幸いだったが、声を押し殺して泣かれるのもこっちの精神的に堪える。子供をあやした経験も知識もない俺からすれば、何をしていいのかわからずにひたすら冷や汗を流しながら


「どこか痛いのか?」「だ、大丈夫か?」「気分悪くなったか?」


 これをひたすら繰り返すだけだった。無論、こんなことを言ったところで赤髪の涙が止むわけでもない。小さく首を左右に振って否定するだけだ。

 どうしたもんかと頭を悩ませるが、赤髪はやがてぽつりぽつりと話し出す。


「ご、ごめ…なさ…。わた、し…期待に…こたえ…応えられなか…」


 ひっくひっくとしゃくり上げながら話す赤髪に俺は無言でその小さな頬を両手で挟みあげた。赤髪からは俺の顔は見えていないんだろう、ちょうど前髪が邪魔をして俺からしか見えていない中で赤髪を睨みつけた。

 期待に応えられなかったからごめんなさい?そんな馬鹿な話があるか。



「今この場でやれとは言ってないだろ。本当なら長い期間かけてやることを教えてるんだ。俺の教え方が悪かったかもしれないし、何か特別な理由もあるかもしれない。気に病むな。続きはまた明日にしよう」



 頬を挟んでいた両手を離し、頭を撫でれば赤髪は黙って頷くと、手の甲でごしごしと乱暴に涙を拭うと紫髪の手を取った。紫髪もその手を握ってにっこり笑うのを見て一安心、とホッと息をつく。

 背を向けて歩こうとした2人は、思いついたようにこっちに小走りで走ってくると紫髪は俺の前で手をまねくように振る。…しゃがめって?

 膝をついてしゃがみ、双子の視線に合わせると紫髪はチラリと赤髪を見た後で俺の耳に顔を近づけた。そうすれば、紫髪は片手で自分の口に手を添えると、俺の耳に口を近づける。



「あの、私達…名前がないから、付けてもらえるとすごく、嬉しい…です」



 か細い声で言われたそれに目を丸くした。

 いや、俺としては全く問題はないんだが名前っていうのが俺の中ではかなり重要なものだと思っている。体の次に大事にするべきだと思っているし、なによりそこまで自分の中で大事だと思っているものをつけてくれと言われるなんて夢にも思っていなかったのだ。

 紫髪に付けるのだったら赤髪にも付けなければならないだろう。双子の名付け親になる事実に少しだけ現実味がなかったが、わかったと頷けば紫髪は今日見た中で一番の笑みを見せた。


 双子はもう寝ると言うとそのまま仲良く手を繋いで去っていった。その背中を見送りながら1人になれば、リアンのいないことに不安が込み上げてくる。10年前、俺が世界を救えたのは全て周りの人間の支えと仲間であった召喚獣のおかげだ。周りは俺に協力的で、召喚獣は最初こそ苦労はしたが何匹か仲間になった奴らが異常な強さを誇っていたのもあって敵などいない状態だった。


 …今思えば、あの時の俺は無敵になったと勘違いしていたんだろう。どれだけ自分が弱くてもそれをカバーできるだけの仲間がいた。どれだけ判断を誤っても、それを正してくれる人間がいた。

 それを自分の力だと勘違いを起こしかけていた。完全にそうはならなかったのは、俺の師のおかげだが…。

 前に楽をしていたツケが今になってこうして不安という形でやってくるというのも当たり前と言っちゃ当たり前の話だ。



 小さくため息を吐けば白い煙が夜に溶けていく。不安は変わらない、実力も分からない相手、それに明らかにこっちは不利な状況。胃が痛くなることばかりだけど、何も全てが終わってるわけではない。策は腐るほどある。1から試すわけにもいかないが、それでも絞りに絞っていくつか試す価値のあるものは存在する。

 そのためには…。



 もぞもぞとコートのポケットが揺れる。そのことに小さく笑って片手を突っ込めば暖かい毛玉のようなものに触れた。そっとそれを柔らかく手に取って目の前で開けば、黄色の毛玉がオレンジ色の嘴を開いて顔を見せる。


「ピィ!」


「休憩はもういいのか?」


 ククッと声を押し殺して笑えばひよこは元気にピィピィと鳴き始める。全快までもう少しかなと目星をつけて小さい頭を撫でれば黄色の毛玉のひよこは気持ちよさそうに目を細めた。


 俺の今考えている策の中でどれも必要になってくるのがこいつだ。ひよこの分身と瞬間移動は消費魔力の多さ故に限度が決まっているが、それを除外すれば目を見張るものがある。中々使える人間も召喚獣もいないのがまた嬉しい事実だ。

 ひよこを手に持ったまま俺はその場にドスンと座り直す。ちょっと寒いが、ひよこは俺の手の中が暖かいのか離れようともしなかった。


「さて、ひよこ。お前の住処を取り戻すぞ。協力しろよ」



「ピィ!」


 俺が言えば、目を吊り上げたひよこは元気に返事をする。







 ──後ろでジャリ、と小さく誰かの足音が聞こえた気がした。


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