62
さて、コツというものでもないものが召喚獣には魂の見方に多少なりとも癖やコツがある。そのくらいであれば大人になれば基本的に見え方が分かってくるものだ。
だが、それもきちんと親や周りが教えてくれる場合の話なだけで、召喚獣自身が勝手に身に着けることじゃない。喋る大人がいないと何も話せぬ赤子になるように、見えぬ大人がいなければそれ相応の見え方しか身に付かないのだ。
幸いなことに見えるようにすることはちょっとしたコツなだけあって簡単なことだった。俺の魂というのは何故か知らないが見えにくい。他の奴らと比べてそれは色濃く出ていた。
多分、それが周りにも警戒される要因だったんだな、と思うと少し申しわけない気もしたけどな。俺じゃどうにもできないから許してくれ。
双子は、俺の方をジッと見てそのコツを教えてもらえるのを今か今かとウズウズして待っていた。こういうところはやっぱり子供なんだなぁと思う傍ら、垣間見えるリアンの影にリアンのことが心配になる。
頭が弱いわけでも愚かでも、ましてや子供じゃないんだから街中で暴れまわるなんてことはしていないとは思うが、俺の胸倉を掴んだおっさんがほんの少し心配なのは確かだ。街中で暴れれば確実に召喚獣として逃げる他ないだろうが、おっさん1人消したところでリアンなら逃げる時間は大いにある。
…俺はあいつの保護者か何かかよ。心配ない、うん、大丈夫。
「さて、じゃあ始めるぞ」
考えるのを止めるのに言い出せば、双子は口をきゅっと結んでふんすふんすと鼻息を激しくしながらわくわくした雰囲気を隠そうともせずに俺を見つめる。
「魂を見るには視界を遮ることが必要になってくる。目が見えにくかったりするかと思うが…いいか?」
今現在こいつらがどの程度自分の目で見ることができているのかはわからない。けれど、俺をおじさんと言ったあたり難しく教えなくとも軽い感知は可能だと思った。少なくともどの程度の年数が経ったのかがわかるなら、視界はある程度確保でき、なおかつ魂の感知はまだ弱いところだろう。完全に見るには視界はむしろ邪魔になるので…まぁ、そのあたりは難しいところだな。
双子は俺の言葉にこくりと頷く。ずいぶんと迷いのない頷きに俺が心配になるレベルの即答だった。どうするか、メリットとデメリットでも教えておくか…?いやでも召喚獣ならば自然にできることなのに説明するのもおかしいか?
そんな風にうんうんと考えていれば、双子は俺の裾をちょいちょいと引っ張って大丈夫だよ、と声を揃えて言った。
「目はそんなに必要ないって、私達が一番よく知ってる」
「教えて。…見えてる方が、私達には辛い」
「そうか」
それくらいしか言えることはない。俺にできることなんてたかがしれているのを改めて知る思いになったことを歯がゆく思った。将来的に言えばそうなることは決まっている。それしか道がないのも知っている。こいつらが生きていく中で景色を見るのは、誰かの顔を見るのは、美味しいものを見るのは、色づいたものを見るのはどのくらいだろう。
恐らく、教えてもらうことがあれば10数年程。人間よりも数倍生きるこいつらにしてみれば生きていく中での一瞬の出来事に過ぎない。大人になって、色づいた景色をはっきりと思い出せる奴はどれほどいるのか…、誰もいないのだろう。
そのことが少し悲しく思えた。
「そんじゃ、まずは目隠しだな。目を瞑っていつもと同じように魂を見て見ろ。絶対に目で見ようとするなよ」
かと言って、悲しいと俺が言い出したところでどうなるのか。生き方を否定する気もなければ、口出しをする気もない。
肯定をすることは大事だ。否定から入るものはなんでも失敗につながると何度も痛感している。だから、俺は俺にできることを。
今できることと言えばこうして教えられなかったことを教えるくらいのものだ。
目を閉じた双子はしばらく静かにしていた。ジッとして音がなくなれば遠くからわいわいと騒ぐ声が聞こえる。多分教えた遊びをどこかでやっている最中なんだろう、楽しそうな声に教えてよかったと笑顔がこぼれた。
その声をどのくらい聞いていたのかわからない。けれど、俺が想像しているよりもずっと早かったと思う。紫髪が「あっ」と小さく声をあげると、目を瞑ったまま隣にいる赤髪の手を何の迷いも、滞りもなく繋いだ。まるで見えているようなその動きに俺も期待をする。そして、やがて宝石のような目を開けて俺を見つめると大きく息を吐いた。
「見えた。…召喚士様、の魂も見えた…」
「おし、よくやったぞ」
幼ければ幼いほど感受性は高く、癖が付けやすい。狙った通りにすぐに見つけられた紫髪を褒めれば嬉しそうに頬を赤くし、笑顔を見せる。だが、問題は赤髪の方だった。
「…見えない…」
目を瞑ったまま口をまっすぐに結び、眉根を寄せる赤髪はそう言うとぐぬぬと唸る。それも長くは続かず、すぐに目を開いてしまった。
「…?おかしいな」
それに俺も首を傾げる。紫髪が見えて赤髪が見えないのはおかしい。双子だったらそのあたりの感覚も似ていると思ったが、召喚獣には当てはまらないのか…?
うぅん、と頭を悩ませる俺に赤髪はおおきくため息をついて俺の方を向くと申し訳なさそうな顔をして少し俯いていた。
「せっかく教えてもらったのに…ごめんなさい」
赤髪は、それだけ言うと床に濡れた跡を作った。




