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 双子は俺の方へそれぞれ右手と左手を差し出し、もう片方の手は自分たちで繋いでいる。諦めてくれそうにないのは…まぁ、目を見ればわかることだ。説得で引き下がるこいつらじゃない。

 そもそもそれで引き下がってくれるなら、昼の時点で諦めてくれるはずだろう。ここまで諦めが悪いと俺の方が折れるしかなくなる。仕方ないな、と思わず笑みが零れた。



「なぁ、なんで俺の怪我なんか治したがるんだ」



 なら、せめてこれくらい聞くのは許されるだろう。

 右手の手袋を見れば人差し指部分に少しだけ余りが出来ていて、それを口で引っ張れば肌触りのよい生地はするりと俺の手を滑る。自身の肌の色が見えてくれば当然、傷も見えてくる。双子の前に膝をついて右手を差し出してやれば、双子はその手を見つめてくる。



「召喚士様、いい人」

「私たちを救ってくれる人」



 傷を確認するよりも前に双子はそう切り出した。双子は一旦口を閉ざすと、チラリと一瞬だけ目を合わせてから俺の目を見る。

 見事に、赤と紫の宝石のような目だった。ルビーとアメジストと言ったほうがわかりやすいだろうか?その宝石のような目が俺に向けられている。見ている、というよりは見透かされている気がしてぞわりと背筋に冷たいものが走ったが、そこまで気にすることもなかった。

 見透かされる感覚は何度やっても慣れることはないな、と自嘲気味に少しだけ笑いが零れる。



「双子は欠陥。1人じゃ何もできない」

「2人揃ってる今なら、お役に立てる」



 双子はそれだけ言うと口を閉ざして俺の右手にゆっくり手を伸ばしていく。俺の手に、もう手袋はない。触れて手のひらを見てしまえば傷は自然と双子の目に入るだろう。

 諦めて見せるしかないな、と思っていたその時に双子は俺の手に触れると手の甲に赤髪の手を当て、手のひらの方にはやさしく紫髪の手を当てるだけだった。手を返して手のひらを見ることなく、そのまま小さな手を俺に被せる。



 そのまま双子は同時に何かをぶつぶつと呟き始めれば、双子の手の間…俺の手から小さくか細い光が出始めた。差し出した右手はじんわりと温かく、ちょうどいい温度の温泉にでも手を突っ込んでいる気分だ。


 痛みに慣れたが、それでも未だに痛い傷もじんわりとした温かみの中で薄れていく。あんまりにも気持ちが良くて、いい気分なもんだから寝てしまいそうだ。微睡む目を必死に開けて双子を見守っていれば、双子は未だにぶつぶつと小さく何かを呟いている。


 瞬間、俺の手から何かが生えたような痛みが襲った。いや、実際には何もなっちゃいない。傷が思い切り裂けたような痛みだ。微睡んでいた俺にその痛みは普段の数倍にまで痛みが増幅される。叫びたくなったのを喉の奥で堪えれば、なんとか叫び声を出さずに済むがそれでも痛みは消えない。

思わず、喉で堪えたはずの声が出た。


「っぐぁ…!!」



 ぼたぼたぼたっ!と大量の血が視界の隅に見える。額には玉のような汗が次々に出てきて床に落ちていった。痛いなんてもんじゃない、手を切り落とされたみたいだ。大量の出血で視界がくらりと傾いた。

 双子は、俺の方をチラリと見て「もうちょっと…!」と、俺と同様に額に汗を浮かばせながら俺の手を持つ力を強める。だが、それもやがて困惑した表情に変わった。

元々そこまで顔色がよくないほうだというのに、今やその顔色は真っ青になっていた。汗が頬を伝い、俺と同様に下にぽたぽたと落ちていく。掲げていた手は小さく震え、大きな宝石のような目は泣きそうなのか、薄く涙が浮かんでいた。



「な、なんで…。なんで」

「治らない…どうして…」



 恐らく、いつもならもうとっくに治っているはずなんだろう。困惑しつつもどうにか治そうと躍起になっている双子は、俺の流した血で服は真っ赤に染まりあがっていた。それでもなんとか倒れずに踏ん張っていられるのは前にかけてもらった まじない のおかげなのか…双子のやっているものが魔法だからなのかはわからない。

 傷が裂けるような痛みは変わらなかった。痛みで呼吸をすることすら忘れそうになるのを意識的に呼吸をすることでなんとか息を止めずに済む。

 吐くことを意識すれば、体は酸素がなければ勝手に息を吸う。本当は鼻で息を吸うのが理想だが、その余裕がもはやなかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 長い息を吐いても痛みは変わらない。けれど、体に入っていた余計な力は少し抜けた気がした。何度も何度もそれを繰り返して、それでも変わらない痛みに左手を思い切り握りしめた。

 本音を言えば痛い。めちゃくちゃ痛い。真面目にこれ以上の痛みなんてないんじゃないかと思えるくらいの痛みだ。実際、生きてて今この瞬間が一番怪我をして痛かった思い出として俺の記憶の中で色濃く残るだろう。

 現実逃避をする余裕もなくて、ただただ耐えていれば先に根を上げたのは双子だった。光が弱まり、それと同時に永遠のように続いていた痛みも引いていく。


 後に残ったのは少しばかりビリビリとした痺れと、さっきよりだいぶマシになった痛みだ。手のひらを見れば、少し血が出ていた。それに伴うように傷も手のひらを大きく切っていたのにかなり小さくなっている。これなら、治ったと言ってもいいだろう。

 …まぁ、あれだけの痛みをもう一度味わう気にはならないから治癒は頼れないけどな。



「召喚士様、ごめんなさい」

「治せなかった。それに、すごく痛がってた」



 流れ落ちる汗を拭おうともせずに項垂れる双子に、俺はとんでもない!と返した。双子をちょいちょいと手のひらを仰いで近寄せると、自分の怪我をした手のひらを見せる。

 傷はだいぶ薄くなっている。血は出ているものの、これくらいだったら何の問題もないだろう。


「2人のおかげでここまでよくなったんだ。ありがとうな」



 ぽん、と両手を双子の頭に置けば双子は互いに目を見合わせて驚いた顔を俺に見せる。その顔がなんだかさっきの緊張感とは不釣り合いで、俺は込み上げてくる笑いを押さえきれずに大口を開けて笑った。その笑いに釣られたのか、双子も小さく笑い始める。

 笑い声はしばらく隠れ家の隅で響き渡ったと思う。


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