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 呆然としたのは一瞬。すぐに契約書を取り上げようと手を伸ばすが、それはひょいと軽く躱されてしまった。すぐに次の手を伸ばすが、双子は契約書をポイポイ投げ合いながらまるで俺と遊んでいるかのように手を器用に避けていく。

 2手、3手とめげずに手を伸ばすも全て無駄に終わる。ただでさえすばしっこいのに、身長も小さいとなれば捕まえるのは難しくなる。まだ幼いとはいえ召喚獣相手となれば尚更だ。



「こら!恩人になんてことを…」



 これには流石に黒髪の少女も怒ったらしく、双子を叱るがそれでも双子は返そうとはしなかった。ポイポイと契約書を投げ合い、俺の手から逃れながらも顔を見合わせる。



「助けるの」

「そう、召喚士様助けるの」



 それだけ言うと、ポケットから鉛筆を取り出してサラサラとその紙に何かを書き込んでいく。それが、サインだとわかった時にはもう遅い。契約書は双子の手の元から離れ、俺の元まで飛んでくるとそのままポンッ!と軽い音を立てて消えてしまった。


 止める間もなく行われたそれに、声で制する前に俺の思考が停止した。え、今こいつら何した?サインした?契約完了になった?

 そんなわけないよなぁ…ハハハ。口の端がピクピク動くのも気にせずにスキル本を出してペラペラとページをめくれば、契約リストはすぐに出てくる。その一番最後、そこには見事に『名前なし』と書かれた新しい箇所が追加されていた。



 うわぁ…追加されてるぅ…。



 本を開いた時に浮かべた笑顔のまま固まって絶望していれば、双子はてくてくと短い脚でこちらに歩いてくる。そのまま俺の前でピタリと2人揃って止まると、同時に俺の方に右手を伸ばした。

 どちらも相変わらずの無表情で感情が読めない。その読めない表情でゆっくりと口を開く。

 


「怪我、治すの」

「手、出して」



 その目は明らかに怪我をしている俺の右手を見ていた。右手から目を離さず、手を伸ばしたままの双子に俺は再度固まった。

 双子がリアンのように鼻が利いているとは思えない。かといって、手袋で隠しているのだから目がいいわけでもない。だらだら冷や汗が流れる中で、反応したのは黒髪の少女だった。



「け、怪我してるんですか…!?すぐに治療を…!」


「あ、いや…大したことないから」



 大慌てで道具を持ってこようとする黒髪の少女を止めようとするが、「小さな傷でも大変なことになるかもしれないんですよ!」と、無視されてそのまま走り去ってしまう。おいおいまじか…、苦笑いが出来たのも今だけだった。

 すぐさま救急箱のような箱を持ってきた黒髪の少女は双子に傷はどこに?と聞いて俺の手袋を外そうとする。それに俺は慌ててその手を止めた。



 この世界には、呪いが存在する。

 これを解くにはとんでもなく複雑な術の回路を全て解き切るか、術をかけた本人に解いてもらうしか方法がない。前者を選ぶのは複雑すぎてもはや意味のわからない構図を完全に理解しきる者がいないとして、難解というより不可能に近い。大体が後者を選ぶ。

 その呪いが、どうやら俺の身体にかかっているようなのだ。あまりにも年を取らない体、治らない傷、これを呪いと言わないでなんと言えばいいのか。


 呪いと聞いていいイメージがないのがほとんどのように召喚獣達も例外じゃない。呪いは嫌うし、なにより自分たちに寄せ付けない。呪いが自分たちに向くことを怖がっているからだと聞いたが実際のところは知らない。

 まぁ、俺だって呪いは嫌だしな。

 

 傷は痛むものの、血だけが出ていないなんて異常事態はすぐに気づくだろう。変なことで終わるならまだいい、傷を見て呪いと気付かれてしまったら面倒なことになる。別に気付かれることは悪いことじゃないが、タイミングが悪すぎる。言うならせめてあのデカブツをなんとかしてからだ。


 止めた手を不思議そうに見る黒髪の少女に、「本当に大丈夫だから」と笑いかければ少女は渋々手を離してくれる。それを見て、双子はまた耳打ちを始める。黒髪の少女の後ろでやっているため、俺の角度からじゃないと見えないだろう。隠れているのか、意図せずにやっているのかはわからないが、双子は耳打ちを終えると黒髪の少女の服をちょんちょんと軽く引っ張った。


「ごめんね、召喚士様、怪我してたから」

「慌てちゃった。小さい怪我だから大丈夫」



「え、そ、そうなの…?」



 慌てる少女に双子は同時に頷く。恥ずかしそうに顔を赤くした少女は俺に向かって勢いよく何度も頭を下げると、その度に箱からガチャガチャと薬品の箱やケースが暴れる音がした。


「す、すみません、私、あわてちゃって…そ、そうですよね!小さな怪我でこんなに大騒ぎだなんて恥ずかしかったですよね…!」



 アハハと誤魔化すように笑った少女は、救急箱を置いてきます、と逃げるようにその場を走って去っていく。その姿が見えなくなった頃にふと双子を見ると、双子の方も俺を見ていた。…こいつら、どうせわかってるんだろうなぁ。



「…後で」

「…治すからね」



 見事な連携で言ってくれる双子にどうしようもないことを悟れば、もう苦笑いしか俺にできることはなかった。



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