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 しばらく歩いていれば、穴だらけで日の光が差し込んでいた場所からやがて日の光が差さらない暗い場所になる。それをそのまま真っすぐ、かろうじて先を歩く黒髪の少女が見えるくらいの視界の悪さの中で迷いなく歩く少女はやがてクルリと振り向いた。

 表情は見えない、ただ振り向いたという行動が分かっただけだ。少女は、短い髪を揺らして見えない表情で優しい声で呟く。



「大丈夫ですか?」


 その声に「あぁ」と短い返事をすれば、不意に袖をクイッと引っ張られた。見れば、紫の幼女が俺のコートの袖を小さく引っ張っている。寝ている赤髪を起こさないように小さく持ち直して紫髪の傍で膝をつくと、赤髪に気を使っているのか紫髪は小さな声で言う。



「交代…なくていい。私、大丈夫…」



「そうかぁ…けど、ちょっと背中が寒くてな、誰かが俺の背中にいてくれると温かくて嬉しいんだが」


 暗くてよく見えないままで言う紫髪に、わざとらしく言ってチラッと紫髪を見れば、ジッと黙ったままだった。それも1分もしないうちによじよじと俺の背中に上ると、俺の首に手を回してホっとため息を吐く。

 それまで微動だにせずに膝をついていたが、それが終わればゆっくり立ち上がりそのまま黒髪の少女について歩いていく。…まだ道が舗装されているのであれだが、山道でリアンを担いだあの時のほうがやっぱり少し軽かったな。本人に言ったら何をされるかわからんから黙っておくが。


 黒髪の少女についていくこと数分、暗かった場所は相変わらず変わらないが奥から眩しいくらいの光が漏れ出した。その光を目指すように歩いていけば、すぐに光は俺達を包み込む。



「着きました。ここが…私たちの隠れ家です。歓迎いたします、召喚士様」



 黒髪の少女が俺の方へくるりと振り向くとにっこりと満面の笑みを浮かべる。そこは、上の屋根の一部がぽっかりと口を開けた森の一部となりつつある場所だった。緑がところせましと茂り、ツタが壁を這う。草をかき集めた即席の寝床も見られる。

 人数を考えれば少しせまいが、それでも座るだけならかなり広いだろう。地面はさっきと変わらない石畳、壁も同じ、建物の内部だとは思えないくらいには植物が生い茂っているが、それでも地面をコツコツと足で叩けばまだ内部なのだと思えた。


「ん…はっ」


 突然俺の腕の中でもぞりと動いた赤髪はパチリとその大きな目を開けると、口から垂れていた涎をものともせずに周りをキョロキョロと見回し、俺の顔を見て固まる。

 俺も黒髪もわけが分からずに首を傾げ、俺はその間にコートの袖で涎を拭いてやれば、赤髪は声にも出さずにあわあわと慌て始めた。

 …なんか、こう、チビキャラ見てるみたいで楽しいんだよなぁ。



「ね、寝ちゃった…」


「おう、よく寝てたな」


「交代しなかた…」


「背中にいるから安心しろ」


「ご、ごめんなさい…」


「寝る子は育つんだぞー。気にすんな」



 流石に赤髪の真顔も崩れて、真っ青な顔色になっていく。やってしまったと言いたいことが前面に出ててむしろ面白いが、そこまで気を使われることもないだろう。子供らしくて可愛かった。

 腕から抜け出し、俺にしゃがむようにちょいちょいと手で扇いで膝をつかせればそのまま俺の背中にダッシュで回り、紫髪に呼びかけた。



「起きて、着いたよ」



 それだけ言えば、俺の背中でもぞりと紫髪が動いた。耳元でぷすーと気の抜けるような音がして、気になって見てみればなんてことはない、口に含んだ空気を抜いていた。

 …相変わらず小さい子のやっていることは大人からしてみれば首を傾げることが多いなぁ。昔近所にいたチビっこい奴も色々一緒に遊んだが、意味がわからない遊びだったりとかやってたな。俺も小さいころは今じゃ意味不明なことが多かったが。


 紫髪は、俺の背中からずるずると滑り落ちるように降りると、赤髪の手を繋いで俺の方をまっすぐ向く。「ありがとう」と一言言えばそのまま黙りこくってしまった。



「どういたしまして」



 その様子がとても微笑ましく感じて、俺は意図せずに笑顔を見せることになった。


 赤髪は紫髪の方を向くと何かを耳打ちし始める。紫髪はその耳打ちを聞くと今度は赤髪に耳打ちをし始める。それが何回か続いた時、赤髪と紫髪は目を合わせ頷き合うといきなり俺のコートのポケットに手を突っ込んだ。


「えっ、はっ?なになになに!?」


 突然のことで当然、反応は遅れる。何をどうすることもできずに慌てていればようやく何かクシャリとした音が自分のポケットの中から聞こえて、そこで2人は俺を解放してくれた。

 …は?クシャリ?



「あった」

「あったね」



 幼女2人が手に持つのは何かA4サイズの紙を少しくしゃくしゃにしてしまったもの。元は折りたたまれていたであろうそれに、俺は見覚えがあった。

 見覚えがあるなんてもんじゃない。それは、俺にとって命の次のその次くらいには大事なものだ。それを見た俺は、顔からサァっと血の気が引いていくのが分かった。



 幼女2人が手に持っていたのは、俺が何かあった時のためと常にポケットに忍ばせていた召喚獣との契約書だったのだ。


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