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真っすぐ言ってのけたハクの答えに俺はにっこり笑った。分かり切った答えを聞くのもそうだが、彼が納得をしてくれたのもある。
「どうも、できる限りのことはしよう。君らも協力してくれると助かる」
そう言う俺を少し睨みながらも頷くハクにどこか違和を感じながらもその正体もわからず、俺はそれを心にしまい込んだ。今はまだわからないのなら口に出すべきでも思うことでもない。また思い出すことがなければ杞憂になるだろう。
足に感じる温もりにまたか、と視線を下げれば俺にくっつく赤と紫。2回目にしてもう慣れてしまったのも可笑しいが、小さい子でもあるし人の温もりが恋しい時もあるだろう。好きにさせていれば何故かひよこまでくっついてきた。
なんなんだお前ら。何でひよこはくっついてきたんだ。
「あ、あの…私たちの隠れ家に案内します。付いてきてください…」
コアラのように俺の足にしがみつく2人の幼女と肩に乗り首をくすぐる黄色のひよこに諦めて好きにさせていれば、ソッと近づいてきた黒髪のまだあどけなさの残る少女が俺に話しかけてくる。
小さな声で、しかもか細い。注意していないと本当に聞き逃してしまいそうだった。おどおどとする行動も相まって、小さく細い体は更に小さく萎縮してしまっている。可哀想にと思えるくらいには怯えられてしまっていて、こっちとしても苦笑いを浮かべるしかない。
「あー、ええと…頼みます」
とりあえずは案内に従って行くことが先決だ。それと、移動をする際に最優先の事項が1つある。俺の色んな面を守るためにも大事なことだ。
「とりあえず、お前ら降りろ」
ひよこと赤と紫に言い放った言葉は、なんとも渋い顔で返された。
「いや」
「やだ」
渋々と降りるひよこに対して幼女2人は首を横に振って拒否の意を示した。何なの?何がお前らをそうさせるの?ちょっとお兄さん困惑してるよ?
俺に引きはがされるのかと思ったらしい幼女2人は、しがみついた足に更に強くしがみつき始める。ぎゅうぎゅうと締め付けられる足に止めなさいと手で払うが、それでも締め付ける力が弱まることはなかった。
それを見たひよこがこっそりこっそりまた俺の肩に戻ろうとしているのが視界の隅に写るが、お前それ明らかにバレてるからな?なんでもない顔してもう1回居座ろうとすんな。
ぎゅうぎゅうと抱き着く赤と紫の双子に、せっかく降りようとしたのにもう1度上って肩に居座るひよこを無理に引きはがすのにも気が引けて、でも今のままじゃ歩くのも無理だから…あぁもう!
「もう…交代に抱っこしてやるから足から離れろ!」
───・・・
「あ、あの、大変ですね…」
先を歩いて先導をする黒髪の子にハハハと乾いた笑いを返せば、同じように乾いた笑いを返された。それもそうだ。俺の片腕にはすぴすぴと寝息をたてる赤髪の幼女が抱かれているのだから。
最初は赤髪の子からと抱っこをしたのはいいものの、抱っこをして数分で寝てしまった赤髪の子に俺も黒髪の少女も苦笑いだ。ひよこは俺の頭の上でのんびりしているあたり、俺を助ける気は皆無らしい。お前、こいつらの兄ならなんとかしろよ。
「あ、あの…でも、すごく珍しいんですよ。この子達がこんなに慣れるなんて…私達でも近くに寄ってくれるまで相当時間かかったのに」
にこにこしながら赤髪の幼女の頬をつついた黒髪の子はまた先を急ぐようにクルリと振り返って隠れ家の案内を再開する。耳まで真っ赤なところを見るに相当話をすることに慣れていないんだろう。無理をして案内をしなくてもよかったんだが…まぁ、好意は素直に受け取る他あるまい。
リアンもいい子だったが、充分にこの子もいい子だ。
リアンもなるべく早めに迎えに行きたいが、迎えに行くにあたりいくつか問題が発生した。
1つはひよこの転移魔法を使うのに魔力の補充を行いたいのだが、ひよこ自身が少し弱っているらしい。
怪我もなく、見た目には何もないが、それでもほとんど休息をとっていないひよこにとってもう1度転移魔法を行うには多少なりとも時間がかかる。転移魔法は不安定のまま行うと、自分の知らないところに飛んでしまうのはもちろん、最悪の場合は体の1部が別の空間に飛ぶこともある。
ひよこが、俺を飛ばした時に短いスパンでできたのは自分の中で大量の魔力をため込んでいたのもそうだが、俺が分けた魔力も使っていた。
おかげであれだけ短いスパンで魔法を使うことができたそうだ。それでも不安定なことには変わりなく、下手したら俺も体のどこかが知らない場所にふっとんでいたかと思うと少しゾッとする。
もう1つは魔法そのものだ。転移魔法も他の魔法もそうだが、勘がいい奴だと魔法を使ったことを感知できる。
それが敵側にいるようなのだ。確信はない、いうなれば転移を行った際に必ず向こうが襲撃を行うことくらいしか証拠がない。だが、それでも充分だろう。そうでないとするならば…まぁ、いや今は考えるのは辞めておこう。
そんな理由があるので迂闊にリアンを呼ぶこともひよこを飛ばすこともできない。かなり制限された中でどうにかしないといけなくなったのだ。元々、狼族を呼ぶことも1種の賭けだった彼らにしてみれば、希望が来たかと思いきや来たのは使えない、しかも自分たちを陥れてる人間なんだからそりゃあ…。
案の定、幼女と黒髪の子、ハク以外は寄りもしない。遠巻きに俺を見ているだけだった。
「さすがに、この状態をどうにかしないといけないよなぁ…」
深いため息を吐いた俺に、先を歩いていた黒髪の少女は不思議そうに首を傾げた。




