表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/82

49

 片手で持てるほどの細い長方形の小さな箱は、俺の手のひらよりも少し大きいくらいの大きさで床に無造作に置かれている。

 全面真っ黒なその箱が怪しすぎて、いきなり触る気にもなれない。思わず観察するだけの俺にひよこは痺れを切らしたのか、手から飛び出すとぺしぺしと翼で箱を叩く。


「えぇ…それ、俺が触っても大丈夫か?」


「ピィ」


 訝しげな俺にひよこは当然だとでもいうように鳴くと、ハッと短く息を吐いた。

 …だんだんとこいつの言ってることがわかってきたかもしれない。今のこいつは明らかに俺のことを馬鹿にしてるし、それを表情が物語ってる。

 こいつの場合、鳴き方も多少ヒントになるだろうが、それよりなにより分かりやすいのが表情だ。馬鹿にしてる表情が何よりムカつくがな。


 箱は、ぱかりとなんとも間抜けな音を出して開いていく。中から光がでるわけでも、なにか煙がでてくるわけでもない。中からは何も出てこず、覗いてみればあったのは紙束だけだった。

 A4サイズのその紙は3枚ほどまとめて丸められ、中心には赤い紐でくくられている。どうすればいいのかわからずひよこを見れば、ひよこはピヨと鳴くとその紙の束をぺしぺし叩く。



「…見ろって?」



 小さなその体を上下にがくがく揺らすところを見るに頷いてるんだろうか?首のない身体なんだからやめた方がいいと思うぞその動き。

 そもそもひよこなのに頷くって知ってるのか、ますます変なひよこである。



 箱から紙束を取り出しくるくると纏められている紐を解いていけば、そのせいか紙は少し左右で丸みを帯びている。両手でその癖をのばせば、やがてはっきりとそこに書かれた文字が目に入る。


 横文字で書かれたそれは、黒いペンでお世辞にも上手だとは言えない字だった。ミミズが這ったような字体はそれでもかろうじて読めるくらいのもので、字を習いたての子供が頑張って書いたような、微笑ましいといえば微笑ましいもの。


 紙には、日記のような書き方がしてあった。それもここ最近、4日前からだ。俺がこちら側へ来た時間と被ることに少しの不安を覚えながらもそれをひよこにも聞こえるように声に出して読んでいった。





『いつものように空は淀んでいる。よい天気を見たいと思ってもこのあたりで見れる場所と言えば狼たちのいるあの集落だろうか。ここからだと遠すぎてとても行けそうにない。あいつの転移術を使えばいいんだろうが、それでもあいつの魔力を考えるに人数の問題がでてくる。俺だけが行くわけにもいかないだろう。

 もうしばらくの我慢だ、もう少しすればきっと…救われる、と信じよう。兄貴もそう言っていた』



『兄貴が頭痛を訴えた。ここには医療の備えもなにもない。兄貴が少しでも楽になるように回復術をかけてあげたいが、ここには生憎そんな高等術を扱えるものはいない。

 兄貴の苦しむ顔が辛くて、人型になれるやつは街へ買い出しに行った。夕方には戻ってくると思う。もう少し頑張ろうね、兄貴』



『薬が効かない。それどころか、兄貴は誰も知らない人間を2人連れてきた。兄貴は頭痛でおかしくなってしまったんだろうか?どうして俺達を襲うんだろうか?わからない。

 けが人が大勢出た。死人も出るだろう。あいつの転移術でなんとか、狼の一族に助けを求めなければ。せめて伝言役のあいつだけでもなんとか生かせなくては』



『あいつは無事とまではいかないものの、転移術でどこかへ飛んだ。兄貴を止めきれなかったのは申しわけなくていまだに後悔をしている。どこかでのたれ死んでしまわなければいいが…不安で、震えが止まらない。

 さっきから壁に亀裂が走っている。ここも、もうそろそろ崩れるかもしれない。その前に、残った奴らをどうにか避難させないといけない。兄貴やあの人間達がどこかへ目を移して来れば皆が安全に移動ができると思う。

 …俺が行動せねば、全滅だ』





 日記は、そこで途切れて終わっていた。

 日記を読み終わったあと、ひよこを見て首を傾げる。ひよこは、固まっていた。石のように固まったまま、視点すらも動かさないひよこに不安になってくるが、それも次の瞬間にはとんでもなく驚くこととなる。ひよこは、その小さな黒い瞳から溢れんばかりに涙を浮かべていたのだ。


 涙は、やがて張力に耐え切れなくなるとボロリと流れ出す。ひよこの小さな体を濡らさんばかりに流れる涙は止まらず、ただただ流れて体を濡らし、床に落ちていく。


「ピ…ピィ…ピァ…」


涙を拭おうともせずに泣くひよこは、床を見つめてただただ悲しげな声を上げると俺の足をよじ登り、腕を伝い、手まで登ってくると紙をジッと見つめ続ける。


「…これ、お前の知ってる奴の日記か?」


 ひよこは無言で頷く。


「そうか」


 なんと声をかけていいのかもわからない。紙をもう一度丸め、ひよこを手に乗せてやるとひよこは俺の指にすり寄ってくる。まるで甘えるようにすり寄ってきたひよこをそのままにしてやれば、ひよこは一瞬、体をピタリと止めて涙をひっこめた。


 どこか遠くを見るひよこは、静寂の後、口をぱかりと開けると息を大きく吸い込みそれを大音量の声と共に吐き出した。



「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ