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 空気が揺れ、尋常ではないその叫び声に俺は思わず両耳を手で力強くふさいだ。音だけのはずのその声は空気ごと大きく揺さぶっているようで足を踏ん張り、歯を噛み砕かんばかりに食いしばらないと体がどこかへ投げ出されてしまいそうで、さっき寒さで引っ込んだはずの汗が額を伝う。汗と共に沸きだすのは焦りと少しの恐怖。

 いや、恐怖を感じるのはリアンがいないという不安感からか…ビリビリと痛いくらいに振動する空気の中で薄っすらと見える範囲で辺りを見渡せば足元の石畳も、石の柱も、まだ無事な壁でさえ小さなヒビが入り始める。



「嘘だろ…」



 思わず呟いて愕然とする。地下にいた時、上から降ってきた砂や小さな石は何かが暴れていたのかと思っていたが、違ったのだ。あれは、声でここの建物が崩壊し始めている予兆だったんだ。

 周りを必死に目を動かして見回しても声の主どころか俺達以外の動物も、虫も、何も見当たらない。何もいない。これだけ古い建物ならネズミやらがいてもいいはずだ。それが召喚獣であれ、なんであれ変わらない。召喚獣がいないなら人が、人がいないなら召喚獣が、どちらもいないのであれば他の何かが住んでいたって不思議じゃない。


 雨風は一応のこと防げるのだ。人を避けるようになった召喚獣なら住んでいたっていいはずだ。



 考えている間にだんだんと声は小さくなっていく。それに合わせて耳から手を離せば、首元でピィ!ピィ!と必死に鳴く声が代わって聞こえた。


 それがひよこのものとわかるまでにそう時間はかからない。すぐにひよこのものだと気付くと首元からひよこを取り出して目の前まで持ってきて、どうした、と問いかける。

 問いにひよこはピィ!と鳴いて答えた。


「ピィ!ピィ!ピィ!」


「?ど、どうした…?」


 いきなり連続で鳴きだすひよこに面食らいながらもなんとか宥めようと両手で掬うように持ち上げて親指で撫でたりするが、それでもひよこは鳴くのをやめない。というか、なんだかただ鳴くのとはまた違うような…?鳴いてるには鳴いてるが、様子がおかしい。

 昔、小学校の頃に学校でニワトリの世話をしたことがある。当然、卵も産むわけでそこから生まれた小さな黄色のひよこは親を呼ぶのに連続して何度も何度も鳴いていた。母親を呼ぼうと、自分の親を探すように何度も何度も。


 ひよこの鳴き方は、それにとても近かった。誰かを探すように、誰かを呼ぶように、何度もひよこは鳴く。

 その様子を見て、俺はひよこがどこで倒れていたのかを思い出した。ひよこは周りに何もないはずなのに血だらけだった。誰もいないはずなのにたった1人で倒れていた。

 ひよこが倒れていたこと自体は不思議だったが、群れからはぐれたくらいのことにしか思わず、そもそもひよこを助けたことに安堵していて考えることもなかった。もしかして、と思う。



 もし、こいつが転移魔法を使えたとしたら?

 もし、こいつが血だらけで1人だったのは誰かに逃がされたか、1人で逃げて自分の住処の危険を誰かに伝えに行ったとしたら?

 もし、こいつがファシーの店で転移魔法を使ったとしたら…。



「お前…あの時、店から俺を転移させたのはお前か…?」



 ひよこはその言葉を聞くと一瞬で鳴くのを止める。俺の顔をジッと見つめると、まるで見定めるように黒い小さな瞳で俺の目を見る。

 いや、見定めているみたいじゃない…本当に見定めているのか。


「じゃあ、お前か。俺をここへ連れてきたのは」


「ピィ」


 そうだ、と言わんばかりの返事にようやく少し繋がった気がした。そりゃあ、こいつが地下で俺の先導をとってくれるはずだ。勝手知ったる道を他人に案内してるようなもんで、むしろモタモタしている俺に少し腹が立っただろう。

 最初から言えばいい、とは思うが恐らく話すことができないんだろう。こんだけ緊急事態なら騙して鳴くよりも話したほうが早い。

 …それにしては大分知能が高いな?



「…あ、魔力切れか」


「ピィ」



 ポン、と思いついて言えばひよこは大きく頷く。

 魔力は、とんでもなく複雑なものらしい。簡単な説明しかされなかった俺が言うのもおかしいが、人と召喚獣とでも魔力はまた違う。


 人は血液があり、内蔵があり、骨があり、筋肉があり、神経がある。それこそ、俺達人が解き明かせないほど複雑になっているものだ。そのどれにも魔力が宿っているのが人だ。様々な器官から少しずつ、少しずつ出力しながら魔力を生み出していく。


 が、召喚獣は神経がない。とりわけ痛みに強く、痛みを感じないので死ぬ確率も高くなる。痛みは、自分の身体の状態を見るのに一番効率がいい方法なのだと聞いた。それがないのだからこいつらはすぐに敵に突っ込み、槍の雨の中だろうが平気な顔をして突き進んでいく。


 そういう風に作られているから召喚士ができたのだ。


 召喚獣の魔力は器官とはまた別のもので魔力を流している。他の器官には一切関係あらず、独立した器官だ。


 これがまた複雑で、俺がいた時には結局最後まで解明されることはなかった。

 わかることは、召喚獣は痛みを感じないにも関わらず怪我をしたりすると魔力が減っていくこと、話すことでも微量の魔力を消費すること。これだけだった。



 …怪我をして、魔力を貯めるために話さず、ようやく1人分飛ばせる魔力が貯まったか。


「そこまでして俺に頼みたいことが?」


「ピィ!」



 ひよこは、ある一点を翼で差す。そこには、とても小さな箱が置かれていた


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