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 ご飯は服を買ってから、と道すがら決めると地図をみながらリアンとその店を目指す。まぁ、すぐに見つけられるだろうと。案の定、店はすぐに見つかった。

 宿からおおよそ徒歩5分もかからなかっただろうそのお店は、良くも悪くもその空間から明らかに浮いていた。実際浮遊していたわけじゃない。ただ、なんというか…どこか別の街から切り離して持ってきたような店だった。

 石造りには違いないが、それでもこの村の建物の白黒としたイメージには全く合わないまっピンクの外観にこれでもかと散りばめられたフリルをイメージした装飾。


 小さなショーウインドウには、見本の服が男女2着置いてある。片方は青いコートのような服に小さなポーチが1つ、ところどころに黒い…無難といえば無難な装飾が付いている。コートの中は普通の黒いタートルネックに見えるがあれは果たして何か役割を持っているんだろうか?あとは普通の灰色のパンツズボンと黒の丈夫そうなブーツ。…運動靴じゃ流石にダメだし、そもそも似合わないんだろうなぁ…。


 女性用のは何がどうしてコスプレのようなセーラー服なのかを問い詰めたい。しかも海軍やらのセーラーじゃない。まじで学生が着るような、よくコスプレで見るセーラー服だ。ご丁寧に靴下や革靴まで置いてある。この世界に制服とかいう概念あるのかよ。



「…ここ、ですよね…」


「合ってると思うが…」


 思わず入るのをためらう俺達は、店の前まできて固まってしまう。いや、ここでこうなるのは誰だってそうだろう?セーラー服のせいで怪しい店にしか見えん。まっピンクの外観がさらにその思いに拍車をかけている。


 リアンが、ショーウインドウのセーラー服を不思議そうに上から下まで眺めて、俺はといえば無駄に取っ手が金色に光る扉を見つめていた時だ。扉が勢いよくガチャン!と開いた。


「んっもおおおおおお!!!いつまで見てるの!

ほら、服が欲しいんでしょ!入った入った!お金によっては装備も変わるからまずは予算からご相談ね!あとは好みの色、付けてほしい耐性、着る場所とかね!まぁ、あんたらはどっちも全身コーデするのは必須だからそのへんは私に任せなさい!オホホホホホホ!」


 早口で妙に甲高い声が聞こえて、高笑いで耳がキンキンと痛んだその瞬間、扉の中から掃除機もびっくりの吸引力で風が吹いたかと思うと俺とリアンの身体がふわりと浮いた。意味もわからず、リアンもぽかんと口を開ける。


「えっ」


「はっ?」


 ようやく出た言葉もこれだ。理解すると同時にリアンは身をよじってじたばたしようとすると、浮いたままの身体が勝手に店に向かっていく。吸い込まれる、と理解はできたもののどうにもすることもできずに俺達は、とんでもない不本意な入店を果たした。




 ドサドサッと落とされた店の中は真っ暗だ。尻餅をついた俺が腰をさすりながら立ち上がれば、だんだんと暗闇に目が慣れたのかリアンの姿も見えるようになる。俺よりも早くに目が慣れたらしいリアンは、俺の隣で瞬きもせずにずっと周りを警戒するように見ている。


「はい!採寸はオッケー!」


 また、あの声が聞こえたそのとき、店の中の電気がパパパパっと付いていって唖然とした。周りは服、服、服、服、服。あとちょっとの帽子やバッグなんかの小物類。どこを見てもハンガーにかかったり棚に畳まれたり、壁にかかったりしている飾だらけだ。真っ白な床に真っ白な壁。金持ちの衣裳部屋かなにかと見紛うそれは、すべて皺1つない新品の服ばかりで感嘆してしまう。


「さぁさぁさぁ、どんな服がお望み?私としては女の子の服を全面的に作りたいけど今回に限ってはそっちの男の子も作り甲斐がありありね!」


 カツン、とヒールの音に振り返ればメジャー片手に持ち口でジャッ!と引っ張る細身の女性がいた。白のスキニーパンツを履いたその人は、腰に待ち針やらピンやら鉛筆が覗いているポーチを腰に付け、シンプルな薄い青色のYシャツを着ている。目元はサングラスでわからないが不敵な笑みを浮かべているあたり、笑っているんだろう。茶髪のショートカットがなびいてるのは気のせいだよね、ここ室内だもんな。


「えぇと…とりあえずこっちの女の子の予算はこれ、俺の予算はこれで」


 ポケットから小さなメモ帳を出した俺は、ペンを走らせて女性に渡すと女性は受け取って少しだけ考えるように黙ってから犬歯を見せて笑った。

 この間、リアンは俺の隣でずっと警戒しっぱなしなのを忘れないでもらいたい。いい加減、俺にぴったり密着するのはやめろよ…。ちょっと動きにくいから。


「これなら大体の要望は通るわ!私はファシー!よろしくね」


 スッと自然に出された手に俺も手を出せば固く握手をされる。俺は、と名前を言おうとしたところで遮るように前に出てきたのはあの黄色の塊だ。俺の肩のっているより少しだけ大きいそれは、目の前で浮いたままピタリと静止する。思わず俺が固まったその瞬間、隣にいたリアンはすぐさま後ろを指差すと「あぁっ!」と声を上げた。

 その声に反応したファシーが後ろを振り向いた瞬間、見間違いかと思うほどとんでもない速さでリアンがその黄色の塊を掴むと、そのまま後ろ手に隠す。


「?何かあった?」


 こちらに向き直ったファシーは不思議そうに笑顔で首を傾げるのを「み、見間違いでしたかねぇ…?」とだらだら冷や汗が止まらないリアンに心底感謝する。ありがとう…!まじで感謝するぞ!というか、まじでなんなんだこの黄色!お願いだから少しおとなしくしててくれ!


「私はリアンです。よろしくお願いしますね」


 そのまま、何事もなかったかのように自己紹介をするリアンにファシーはすっかり笑顔になると「うんうん、よろしくね!」と、リアンの手を握ってぶんぶん上下に振る。少しリアンの方が身長が低いから…なんか、腕もげそうだけどリアンなら大丈夫だと思う、うん。


「じゃあ、予算もわかってることだしデザインとか機能とか希望があれば聞くわ。こっちへどうぞ」


 パチン、とファシーが指を鳴らせば立ち並んだ棚や大きなハンガーラック、ポールスタンドまでもが一斉にその場に空間を作るようにバッ!っと端に寄る。その動きに合わせるように、その向こうにあった棚なども位置を変えていった。あっという間に俺達の周りにできた空間を除いて、また一味違う棚の並びになる。それでも、多分服を見ていくには困らない配置だ。



 すごい、と思う暇もなくもう一度、ファシーが指を鳴らせば地面が蠢く。まるで水面のように床が揺らめくと、透明な水が噴水のように吹き出した。それは、やがて4つの塊になるとそれぞれ机と椅子3脚に形を変えたかと思うと瞬きした瞬間には、それらは全て木でできた丸い机と椅子に変化していた。


 正直ただの服飾屋だと思っていたからびっくりだ。ただ、考えてみればこの世界の人間はみんな魔法が使えるんだからこのくらいのことは当たり前なのかもしれない。得意な魔法を職業にする。いいことだと俺だって思う。得意であれば、やる気もまた違ったものになるだろう。


 どうぞ、とファシーは椅子を薦める。俺が座れば、リアンも座り、最後に座ったファシーは大きなファイルをどこからともなく取り出すとそれを机の上に広げて俺達を見上げる。その顔はどこまでも楽しそうで、無邪気な子供みたいに見えた。本当に子供みたいに無茶苦茶な服作らないだろうな…?


 若干、服に関して不安が出たのは恐らく俺が一生誰にも言わない心情だろう


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