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 素朴な雰囲気のそこは、街と言うよりも村に近いだろう。小さなその村は家がちらほらと立ち並んでいる。タートはレンガ造りの家だったが、ここの村では石造りの家に、舗装されていない道が続いているだけだった。その家から、煙突の煙がもくもくと空に溶けている。

 先に到着していたリアンは、そのまままっすぐに1軒の家まで走るとすぐさま中に入っていく。俺も同様に駆け込めば、リアンが宿屋の主人と思われる人間に話を聞いていたところだった。


「2階の一番右奥だな!」


「あ、あぁ…だが、なんだってそんなに急いで…」


「!ご主人様、2階の一番右奥です!急ぎましょう!」


 入った瞬間にリアンは俺の前を突っ走っていく。何が起きたのかわからずぽかんと口を開け間抜けな顔をしている気のよさそうな宿屋の主人を前に申しわけなくなったが、こちらも一刻も早く手当てしなきゃいけないんだ。許せ。


 階段を駆け上がり、部屋の扉を勢いよく開ければそこには木の壁、ベッドと小さな机、窓につけられたカーテンだけの簡素な部屋だったが、今はそれだけで充分だった。

 タオルに包まれたそれをベッドに降ろしてタオルを広げれば、まだ息はある。が、即効のものでもない限りもう救うのは難しかった。もう、それはピクリとも動かなくなったのだ。


「…駄目です。手遅れだった…これは、死にます」


 俺の隣で、動かなくなったそれに伸ばしかけた手をひっこめたリアンは、一切の躊躇もなく言い切った。そのことは俺にもわかる。手の先すらも動かなくなったとき、それが生きることを諦めた時と助からないほど衰弱しているときだ。

 思わず歯を食いしばるが、すぐに思いついたそれに俺は「おい!」と動かなくなったそれに声をかけた。こいつが、まだ衰弱しているだけだとして、まだ生きたいと思えるのなら試す価値はあるだろう。


「何が、どうなったとしてもお前は生きたいか。頼む、そう思うなら少しでも動いてくれ。ほんの少しでいい。お願いだ」


 俺の声にリアンは顔を上げて、そして驚愕の顔になる。少し、ほんの少しだが体の端が動いたのだ。まだ、こいつは生きたがっている。なら、まだ余地はある。


 笑う俺は片手にあの書類を出して心の中で謝った。


 ごめんな、ちょっとこれは無理やりだし、何よりお前の一番望まない結果になるかもしれない。けれど、絶対に助かる。


 ソッと、塊を広げれば予想通り、そいつには足があった。小さな小さなその足に紙を押し付ければ、途端にその塊が光りだした。キラキラと光るそれにリアンは目を奪われているのが見えるがそれも無視してその行く末を見守る。


「召喚士様…これ、は…」


「契約の応用。召喚獣であれば魔力が増す。体が瀕死になればその力が回復に向かうのは当然のことだろ?それが、自分のいつも使っているものより数倍量が多くなれば回復も早くなる。速攻の回復術だ」


 一通り光が収まって、血だらけだったその塊が黄色に変わる。元の色がそれだったんだろう。小さく息をするように動くのにホッと息をつくと、急に疲れがきてドサッと尻餅をついた。

 ヒラヒラと舞う一枚の契約書が俺の前に落ちてきて、それを掴めば契約書には似つかわない血が所々に付着しているのを見て苦笑いした。


「はぁ、疲れた…」


「大丈夫ですか?」


 ホッとした安心感、今の今まで休みなしで走ったり歩いたりした疲れがどっと押し寄せる。思わず出た言葉にリアンは心配そうに声をかけてくるのを、聞いて俺は大の字に寝ころんだ。うわぁ、地面冷たい。


「…そいつ、もう少ししないと目ぇ覚まさないからあともう少しだな」


 思わず出るため息にリアンは笑う。なんでだかわからないが、俺もつられて笑ってしまってそこから小さな笑い声が部屋に響いていた。

 何がおかしいのかもわからない。ただ、少しホッとしたんだと思う。俺も、リアンも。誰かが死ぬなんて光景はいつまで経ったって見慣れないもので、それを目の前で体験するかもしれない不安感と緊張は、それはもう異常なほどだ。


 その不安感から今だけ完全に解放された気がして、頭がぶっ壊れたんじゃないかと思うほど何も考えずに笑えた。


「はぁ…明日は買い物行くか。バッグか何か新しいもの買わないと」


「そうですね…今日はもう休みましょう」


 ひとしきり笑い終えたリアンと、顔を見合わせもう一度笑う。俺は、もう1部屋を借りるためと、ついでに軽くここの主人に騒ぎを説明しないと怪しまれそうだしなぁ…。


「では、私はこれで…」


 おやすみなさい、と頭を下げるリアンにおやすみ、と声をかける。そこで、違和感。もぞ、と首筋のところが痒くなったのだ。というか、何か乗ったような…?

 不思議に思いながらも肩に手を置けば、もふ、とふわふわした感触が手に残る。


「…は?」


 驚いて急いで肩からそれをむしり取って目の前に持って来れば、さっき助けてリアンの場所に置いてきたはずの黄色の塊がいた。今度こそ、俺は困惑する。

 俺、さっきこいつリアンのところに置いてきたはずだよな…?なんでこいつここにいるんだ?つか、どうやって移動してきた?


「…まぁ、いいか」


 もう色々と面倒になっていた俺はそいつをもう一度肩に乗せるとそのままもう一部屋借りるために階段を降りていく。その小さな塊がもぞもぞと蠢いていることにまだ気づかないまま。


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