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「リアン!」
呼んでも止まらないリアンは、決して走っているはずではないのに何故か追いつけない。そのうち、リアンは最初に街に入ってきた出入り口から反対側の道へ続く出入り口に出てしまう。
おいおいおい、勘弁してくれよ…。
リアンがそちらへふらふらと歩いて行ってしまっているので出ないわけにもいかない。一瞬、立ち止まったがすぐさま勝手に足が動いた。
道は、ある程度舗装はされいるものの、ただ1本道が続いているだけで両側は鬱蒼としている森になっている。空を見ることができるだけまだマシだろうがそれでも夜になったらここは相当暗くなることは容易に理解できた。昼過ぎだからまだいいものの、夜になったらこの上なく面倒だ。
リアンは、相も変わらずふらふらとしていながら、それでも真っすぐに道を進んでいく。前の記憶をかき集めてこの先にあったのはなんだったのか思い出そうとしたが、そもそも街や道自体が変わっていることにすぐに気づいた。いや、だってさ、俺、こんなところ通ったことねぇもん…。
この先に何があるのかもわからず、とにかくリアンを見失わないように追い続ける。周囲の確認もしたいが、リアンの先を見るので精いっぱいだ。
俺がもっと人間離れしたことできればいいんだがな、生憎もろ一般人なもんで何もできはしないんだ。はっはっはっ、小手先だけなら自信があるんだがな。
「…やめよ」
1人、頭の中でコントをするにも無性に虚しくなったのでやめた。馬鹿みたいだと苦笑いを浮かべた時、歩いていたリアンが急に立ち止まってきょろきょろと辺りを見回し始める。
近づくチャンスだ、と思っても今まで走ってたせいで息があがり、もうそろそろ走れなくなってしまう一歩手前状態で走れなくなってしまう。所謂スタミナ切れだ。
俺がぜぇぜぇと息を荒げながら近づいていくもリアンはそれをまるっと無視してくれやがってそのまま近くの茂みにがさがさと入っていく。待て、止まれリアン。
…そっち行ったら確実に見失うから!!
俺今でもこの道わかってないのにその上で道逸れるとか嫌な予感がビンビンにするんだが!?
「リアン!待てって!」
このシーンだけ切り取ったらどっかの昼ドラや夜9時にやってるドラマみたいだとかそんなことはカケラも思ってはいません本当です。俺としては必死でリアンを追いかけ見失うかギリギリのところで保っている状態だ。森の中に入ってこのまま日が暮れれば状況は絶望的なのは確定的に明らか。
切れる息も無視してリアンを追いかけ続ければ、茂みの少し入ったところにある小さな浅い川でリアンは止まった。川を、ただただジッと見つめるリアンにようやく追いついた俺は、リアンの肩をガシリと掴んで支えにすると、もう一方の手を膝にかけて、酸欠で少し視界が狭まるのを感じる。
あ、やばい…酸欠やばい…。見た目はまだ若いって言っても三十路近いんだぞ俺。こんなに走ったの学生以来じゃないのか?
「しょ、か…さま?」
ぼんやりとしたリアンの目には、俺は映っていなかった。けれど、徐々にその眼に光が戻ってきて俺が認識できるようになったのかリアンはぽつりと呟く。
「そう、俺」
「あ、れ…?ここ、どこですか?」
急にきょろきょろと辺りを見回すリアンは不安そうに言うと、川をジッと見つめる。俺も同じように川を見れば、水に紛れて赤い…何か液体が流れていた。最初はわからなかったが、すぐに理解できる、これ、血だ。
上流から流れてきているそれは俺たちの前を流れると溶けるように水に馴染んでいく。それを理解した瞬間に、サッと背中に冷や汗が流れた。
俺達が行くか?それだと、もしこの血に他の誰かが気付いて鉢合わせしたときに面倒だ。かといって、このまま誰も来なかったらと思うと後味が悪い。様子を見るだけ見るなら大丈夫だろうか…。
「リアン」
「…行きましょう。そう遠くはないはずです」
リアンの名を呼べば、それだけでリアンは分かったかのように頷く。先頭に立って迷いなく歩き出すリアンの後を付いていけば5分としないうちにその血の正体がわかった。
小さな、黄色の塊だったであろう何かが血でその体を真っ赤にしていたからだ。川まで行こうとしていたのか、川まできたところで力尽きたのか、それはわからない。だが、触ればまだ動いている。生きていることに少し安堵はしたものの、その動きは弱弱しく、時間がないことが一目でわかった。
「リアン!こっから進んで次の街に行くのと、一回戻ってタートの街に行くのとどっちが早い!?」
「…ここからなら、このまま進んだ方が早いかと。ですが、間に合うか…」
「荷物は諦めることだな…!」
「あ…」
気付いたらしいリアンは、声を上げると「この際、仕方ないですね」と苦笑いする。それを見た俺も笑えば、リアンはニッと笑うと俺の顔を覗き込むと、どこから取り出したのかタオルを赤い塊に巻いて軽く止血を施す。
「さぁ、行きますよ。先を行くので着いてきてください」
走り出すリアンの後を、タオルで包まれた今にも息絶えそうな何かを握らないように両手で慎重に運んでいく。程なくして、小さな村が見えたのは走り出してから5分後のことだった。




