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 ただ白飯を握ったものかと思っていたら、そういうわけでもないらしく軽く塩を振ってあるのか軽く塩味が効いていた。中には梅干しが入っており、それも嬉しく思う。


 魚は、箸を入れれば白身がスッと離れてくれて食べやすくなっており、だからといってパサパサに見えるわけでもない。口に含めば、ほどよく油の乗ったふわふわの白身が口に広がる。


「…美味い」


 自然と言葉が出た。食感としてはホッケに近い。ホッケの少し油が乗った感じだ。リアンの方も多分すごい勢いで食べてるんだろうなとリアンの方を向いた時、リアンは俺の食べている魚を見ていた。


「…食べるか?」


 なんとなく、欲しがっているように見えて魚の乗っている皿をリアンに差し出すが、リアンはそれを食い入るようにしばらく見つめると、ブルブルッと首を左右に振った。なにやってんだ、と見ていればリアンは「い、いりません!」と両方の手のひらを顔の前に出す。


「ご、ご主人様のごはんです!私には私のがありますので」


「え、でもお前すごい見てなかった?」


 ほれ、と皿を出せばリアンの喉がごくりと鳴るのを見逃さない。あれだけ見ときながらしらばっくれるのか…こいつ絶対食べたいのに我慢してることは確信を持てる。

 素直に食っておけばいいのに、と思うがそこはリアンにも譲れないところはあるんだろう。それを俺が許すとは限らんが。


「リアン、これ美味いんだよ。食ってみろって」


 グッと、リアンの手が動きそうになるがその手が止まる。恨めしそうに俺を見るリアンが面白くて仕方がないが、ここはにっこり笑顔だ。満面の笑みで皿を出す俺にリアンは、とうとう負けたのか、魚を小さく1切れフォークで器用に取ると口に運んだ。


「………」


 黙るリアンに俺はもう笑いをこらえきれずに小さく笑ってしまう。笑いを噛んでそれを見ていれば、リアンはもぐもぐと無言で頬を動かして飲み込むと、俯いたままご飯を口に入れると、顔を勢いよく上げて満面の笑みを浮かべる。


「お、美味しいです…!」


「そうか、よかったな」


 笑う俺にリアンは少しムッとしたような顔を見せたがすぐに何かに気付いたように少し口を閉ざして考え込む。


「あ、あの、私のもよければ食べますか?」


 リアンは、そう言うと自分の皿に乗っている大きな肉の塊を少し切ると、フォークに刺して俺に差し出す。


 悪いと思ったのか、そうじゃないのかわからないがリアンはさっきの俺に対抗するがごとくフォークを俺に向ける。俺は俺で、ここで食ったらなんか、こう、怪しい関係に見られるんじゃないのかと気が気じゃない。誰かにこの空気をぶち壊してほしいくらいだ。


 悩んでいれば、リアンは強情にも未だ俺にフォークを突き付けてきてどうしようもなく、頭を悩ませて考える。長考はできない。短く、これだと思ったものをすぐに行動に移さないと俺の精神が色々危ない。


 パッとリアンからフォークを奪い取るとそのまま自分で肉を口に運ぶ。じゅわっと肉汁が出てきてほどよくバターの味も付いている。ごはんが進む味だ、と率直に思った。

 それを見たリアンはぽかんとして俺を見つめると、俺からフォークを受け取り「美味しいですか?」と恐る恐るといった具合で聞いてきた。


「ん、美味しい。肉もいいな」


 思ったよりはあっさりしている味に俺は思わず笑みが浮かんで、素直にそう言えばリアンは「そうですよね!」と子供のようにはしゃぐ。結構いい肉を使っているんじゃないのか、と少しだけ不安になったのは秘密だ。

 多分、食べた感じは赤身肉だとは思うが硬いわけでも筋が残っているわけでもなく歯がなくても食べられるんじゃないかという柔らかさだった。処理も、手間がかかっているんだろう。またこの店に戻ってこれる機会があれば来たい、と思えた。


「ごちそうさま」


「ご、ごちそう、さま?」


 すっかり、綺麗に食べきった皿を見て俺は両手を合わせて食事が終了した言葉を言う。リアンも習慣がないのか戸惑ってはいたが見様見真似で同じく両の手を合わせると同じ言葉を復唱する。


 一応、素直ではあるんだよなぁと笑った俺にリアンは意味がわからないようで首を傾げるのを見て「行くか」と立ち上がった。ミーアに声をかければ、ミーアはお会計ですねー!と駆け寄ってくる。言われた金額は、朝と同じく怪しいくらいに安い金額で、ミーアにごちそうさま、と伝えれば彼女も笑顔で頭を下げると顔を上げて手をヒラヒラと振る。


「またのお越しを!」


 扉を開ければ、もう一度カラン、と鐘の音がした。

 時間は、まだ夕方とも昼ともいえない微妙な時間だった。昼を過ぎたのでほとんどの人間は仕事に戻ったのか人通りは少なく、遠くで聞こえる子供の楽しそうな声に紛れて少し人の声やらレストランの中から声が聞こえてくるくらいだ。


 正直、もの探しに時間を取られると思っていたものだから予定よりだいぶ時間が早くなってしまった。先に宿を取るか、明日の仕事を終わらせてしまってから宿を取るか悩んでいれば、リアンがふらふらとどこかに行きそうになるのを見つける。


 …え?あいつどこ行く気?


「は?いや、おいっ!リアン!」


 思わず2度見したが、それでも光景は何も変わっていなくて慌てて追いかける俺はリアンの手を握ろうとするがそれはするりと抜けてしまう。そのことに、俺はここ最近で一番の焦りを覚えたのは言うまでもない。


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