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目的の建物は、すぐそこにあった。
ギルド、と呼ばれるなんでも仕事を請け負う登録所なんだが、それはこの街でこの上なく目立つ建物だった。ここへ来たのが昨日だが、昨日の時点で目にはついていたのだから今この朝に目につかないわけがない。この街の中心に立つクソでかい建物なんだから目立たないほうがおかしいんだがな。
曲がり角にある時計塔の役割も果たすその建物まで走り、扉をリアンが開いてガチャン!と扉を閉めれば、肩で息をする俺とは対照的にリアンはすっきりとした顔で中を見渡す。俺もそこを見渡せば、朝早いからかそこはガランとしていて人っこ1人見つからない。すぐ近くのカウンターにも誰もおらず、不用心だなと思っていれば、リアンはスンッと鼻を動かすと
「大丈夫そうです。人の匂いが近づいてくるのですぐに誰かが来ますよ」
そう言い、にっこり笑う。その言葉に沿うようにすぐにバタバタとした音が聞こえてきて、カウンターのその先、裏へと続いているであろう扉がギィギィと軋んだ音を立てて開いた。そこから、眼鏡をかけたポニーテールのワンピースを着た女性が出てくると、俺達を見るなり「あら」と声をあげて周りをきょろきょろと見渡す。周りに誰もいないとわかると、何故かホッとしたように息を吐いてにっこり笑った。
「どうも、ギルドの受付ですが…登録ですか?」
「あ、はい。ここって戦闘がなるべくない軽いものとかって扱ってますか?」
俺が言えば、彼女は「えぇ、ありますよ」と答えた後に片手を頬に置いて困ったように言う。
「うちのギルドは使いやすいと遠方の人も使っているんですがどうしても…ギルドって冒険者とか勇者さん達が使うんで手っ取り早くお金が稼げる討伐関係ばかりが請け負われて戦闘のない依頼が全然回らなくて困っているんです。貴方みたいな人が増えるといいんですけどね」
「へぇ、みんなどこに急いでるんですか?」
こちらに記入を、と出された紙にサラサラとペンを走らせながら聞いてみれば、彼女はそうですねぇと呟いた後に、あ、あとここお願いします。と指で差す。
「目指すところは人様々なんじゃないでしょうか。そもそも勇者、とは言ってもほとんどが特に目的もない人が多いですよ。しばらく生活するために稼いでどこかで修行がてらだらだら生活してお金が足りなくなったらまたここへ来る。って言っても、討伐の依頼を受けて帰ってこれなくなる人が多いですけどね。
目標がある人が目指すのなら、『魔王城』ですね。モンスターの統括している場所があそこだともっぱらの噂ですし」
「へぇ、あ、これって2人でチームで登録って可能ですか?」
「?あ、そちらの人もですね。大丈夫ですよ。ちょっと書く書類が多くなりますけど大丈夫ですか?」
リアンを見たその人は、納得がいったというようにポン、と手を叩くと後ろを向いて書類をがさがさと探し始める。だが、小さく「あちゃー」と言うと何も持たずにこちらに振り向いた。
あぁ、これは申しわけないことをした。まさか2人組で登録することが大丈夫だとは思わなかったから言うのが遅くなった。いい人っぽいから余計に申し訳ない。
「大丈夫です。言うのが遅くなってすみません」
「いえいえ、こちらも聞かずにすみません。ちょっと書類を切らしてるみたいなので書類を持ってきます。少しお待ちくださいね」
にっこり笑う彼女は一礼をするとそそくさと扉をくぐり足音を響かせながらその場を離れていく。それを笑顔でひらひらと手を振りながら見送ると、そのままリアンへ「どう思う?」と話しかければ、リアンはわかっていたかのように口を開く。
「『魔王城』が我々の拠点であるなど聞いたこともありません。勝手に人間側が言い始めたのか…それとも…」
「ギルド側の人間が、そう思い込んでいる?」
人間側からすれば、魔王もモンスターも同じ位置にいるのだろうか?にしては、俺から見れば魔王は何もしていないように見える。奴が未だ、王座に残っているのかも、もうとっくに死んでしまったのかも俺は知らない。
あれ、ちょっと待て、おかしくないか?
どうして、魔王は出てこない?
そもそも、魔王があの時のままで残っていたなら人間側に話をもちかけないのはおかしい。もし、変わっていたとしても何かしらの行動は残すはずだ。それが、例え良いものでも悪いものでも、だ。そうでなければ、魔王は魔王である意味がないからだ。
人は王政で人間社会を支える。が、召喚獣側はそうにもいかない。話してわかるが、暴れられたら人間にはどうしようもない。その力の部分を支えるということで魔王は俺と約束をしてくれた。
だからこそ、おかしい。
考え込む俺を見て、俺が何を思ったのかリアンは分かったらしい。少しだけ、気まずそうな顔をして「あの…」と俺の服の裾を掴むと目を逸らしながら口を開いた。
「確証は…持てません。我々も実際に魔王へ会いに行っているわけではないのでそこは…。ですが、風の噂で今現在、魔王は身動きが取れないと聞きます」
は?と思わず口に出てしまいそうになったところで、リアンがパッと服を放すとさっきまでと同じ姿勢と顔になる。問い詰めようとしたところで、俺の耳にも受付の女性が戻ってくる音が聞こえて、慌てて俺もリアンに習う。
「すみません、書類をお待たせしました。こちらに記入だけお願いします」
受付の女性は、リアンを見て申し訳なさそうに笑うが、リアンはそれをふいっと目線を合わさないように逸らすとペンでさっさと書いて受付の女性に渡す。ぽかんとする女性に俺は苦笑いと冷や汗が止まらない。
お前、あとで覚えてろよ…。




