28
夢を見た。
大きな草原で、俺はただ1人でそこに立っていて、周りを見回してもまぶしいくらいに照り付ける太陽と風に揺れる草木くらいしか目には入らない。何の目的もなく歩いても、誰も何もいなくて少し不安になるけれどその不安を打ち消すくらいにそこは暖かくて気持ちがよかった。
そこに、たった1つ、ポツンと立っている何かがいて俺はそちらへ進みだす。行かねばならないと本能的に思った。それは、何か4つ足の生き物であるのはわかったけれどモヤがかかったかのようにその姿を見ることができない。それを、俺は黙ったままただ見下ろしていた。
「………」
それも、黙ったままだった。話ができないのか、する気がないのか、俺に気付いていないのか、それはわからない。けれど、それはただ黙ったままだった。
「なぁ」
話しかければ、モヤが動いてぶっ壊れて映像が飛ぶビデオテープのような色になる。驚いた…と思っていいんだろうか?すぐ近くに片膝をついてよくよくそれを見ようとしても、何も見えない。ただ眼がチカチカしただけだ。目が悪くなりそうだし、あんまりよく見るのもよくないな。
「お前、喋れるのか?」
聞けば、モヤはチカチカと色を変えながら少し動く。それを2,3回繰り返せばモヤの動きが明らかに変わった。自分の周りをきょろきょろ見回すような動きをした後にまたチカチカと色を変える。それをしばらく首を傾げて見ていれば、ザ、ザーとノイズが聞こえた。
「なんだ、お前うまく話せねぇのか。俺の言葉わかる?」
一生懸命、なんとか話そうとするそのモヤにハハッと笑えば、モヤの上のほうが上下に動く。頷いてる…ってことでいいんだろうか?その動きすらも、可笑しくてもう一度俺は笑った。
「お前面白いなぁ、俺と契約しねぇか?」
ひとしきり笑った後、モヤに紙を出せばモヤは首を傾げるように少しだけ上の方を横に曲げると、紙にモヤを近づける。よしよし、こいつの動向というか動きがだんだんわかってきたぞ…。こいつは基本喋らない。けれどそのモヤの色が感情を、動きがジェスチャーの役割を果たしているのはよくわかった。これなら会話のようなものも可能だと踏んだのだ。
「これな、契約書。これ、お前を俺の仲間にするんだ。ずっと俺についてきてくれるならここに判を押して…って早!?」
言ってる最中だというのに、そのモヤは行動がとんでもなく速く、いつの間にか契約書に足を押し付けていた。これでいいのか?と言わんばかりに俺の顔のすぐ近くまで顔を寄せたモヤはぐりぐりと契約書を踏みつける。
「うわ、待った待った。あー、もう契約書がおじゃんになるところだったろうが。あんまり状態が悪いと無効にされちまうんだよ」
すぐに契約書を手元まで引き戻し、確認すれば足型は滲んではいるが最低限の契約としての型は保っている。これなら大丈夫なはずだ。ホッと肩を撫でおろしチラリとモヤを確認すれば、モヤは落ち込んだようにショボンとしているのが形だけでもわかった。だってモヤが明らかにさっきより小さいし、なんだあれ、どうやってんだ。
「ま、まぁ契約はできたし大丈夫だ。これからよろしくな!」
なんとなく、モヤの頭の位置らしき場所に手を置けばモヤはすりすりと頭をこすりつけてくる。また、ノイズが聞こえてくるが俺にそれを理解することができなくて…もう一度、口を開こうとした瞬間、視界は暗転した。
カーテンから漏れる光が目に当たって、そのまぶしさで目が覚めた。ベッドから起き上がりふと周りを見渡せばそこは昨日から宿泊している宿だった。何となく夢を見たような気もするけれど何の夢を見ていたのか思い出せない。しばらく考えてみたがどうにも思い出せなくて、まぁいいやと考え付いた。
リアンはまだ寝ているんだろうかと考えながら顔を洗い、備え付けのシャワーだけですっきりさせ、身支度を整えて朝はリアンと一緒にどこかへ食べにでも行こうかと考えていたその時、ベッドにある真っ赤な表紙の本に目がいった。そういえば昨日はしまいもせずに寝てしまったかもしれない。自分の防犯意識のなさに呆れてなんとなしにページをめくったその時に、契約した召喚獣の一番最後に目を奪われた。昨日なかったはずのページの最後、そこに何かが書かれていた。その何か、はモヤがかかっていて読み取ることも名前をみることもできない。はて、いつの間に?と思ったが気にしていても仕方のないことだと結論付けてその本を消した。
リアンを呼びに行かねばいけない。俺の荷物、とは言ってもほとんどの荷物はリアンが持って行ってしまっているので自分の忘れ物も有無だけ確認すると鍵をかけてリアンの部屋を目指した。
2度、コンコンとノックをするとリアンはドアからひょっこり顔を出して俺の姿を確認すると、途端に溢れんばかりの笑顔を見せて「おはようございます!」とあいさつをしてきた。
「おう、おはよう。よく寝れたか?」
「はい!準備はできているので行きましょう!朝ごはんは宿でもあるそうですが外で食べますか?」
大きなリュックを背負うリアンはそれはもうご機嫌で、俺はそれを少し不思議に思いながらも「そうだな」と返事を返す。外に食べに行けば、運がよければ情報あるかもしれないし。
「では、行きましょうか!私の部屋から美味しそうなお店が見えたんです!」
ぐいぐいと俺の手を引っ張るリアンに俺の足が付いていかずよろけるが、なんとか体勢を立て直すと宿の番台を去る間際、俺とリアンの部屋の鍵をジャラジャラ!と置いていく。おばちゃんはそれを少しだけ驚いたように見ていたが、すぐに笑顔を戻すとすぐに俺達に向けて手を振り、大きな声で送り出してくれた。
「いってらっしゃい!」




