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「行くか」


 呟く俺の前には懐かしい異世界へ行くための道具、バナナである。


 言わずとしれた栄養価の高い食材でデザートとしても優秀な上少し前にはバナナダイエットなるものすら流行ったこれをどうするかといえば、皮で滑ればOKである。


 異世界へ行くために必要な行程はただ1つ『衝撃』だ。だが、ただ衝撃だけだとただ痛いだけだし、そもそも行ける確率はプールに部品を全てバラバラにした時計を投げ込んで混ぜたものが偶然組み立てられるほど少ない。もし、衝撃で行ける奴がいたらそれは自慢していい、お前は恐らくこの世界で最大の運の持ち主だ。まぁ、それで運を全て使い切ったと考えたほうが自然だが。


 まぁ衝撃であればなんでもいいというわけではなく、このバナナは前に異世界から帰る際、俺を召喚した人間からもらったものだ。もはやバナナであるのかすら怪しいのだが、まぁ形状は完璧にバナナである。味もバナナで完璧だった。俺の動悸がすさまじいのはここ最近運動してないからだ、そうだそうに決まってる。俺がバナナ相手にびびるとかそんなことはあるはずがない。


 そんなことを思って臆しそうになりそうになりながらもバナナの皮をセット。準備はこれで良し、あとは自分の度胸である。さぁ勇気を出せ俺、バナナがなんだ俺が前に異世界に行って修行と言われてべっしんべっしん叩かれながら集中しろと言われた時のほうが理不尽だったし痛かったいけるいける大丈夫。


 目を瞑り、助走をつけながらそこに足を付けた時、世界は暗転した。








 目が覚めた時、そこは前に見た最後の世界ではなかった。いや、厳密にいえばそこは確かに見覚えがある場所だ。みんなと別れた思い出の草原、その中心を走る一本の舗装されていない道。

だがそこで俺は首をかしげる。前に来たとき、この世界の空気はここまで淀んでいただろうか?ここまで空は暗かっただろうか?ここまで血の匂い漂う場所だっただろうか?


 異世界があるのならまた別の違う異世界もあるだろう。間違ってきてしまったのだろうか?と悩み始めた直後、


「このモンスターめ!」

「まだ倒れねぇのか!」

「しつこい奴ね!」


 その思考を遮るかのように聞こえた不穏な会話にまたもや首を傾げることとなった。はて、俺が前にここを離れるときは平穏を誰もが約束してくれたはずだった。その平穏なはずの世界でこんな罵倒が聞こえるだろうか?


 そちらを見れば3人の黒いコートを着た茶髪のウルフカットの男と、紫のマントを身に纏い三角帽子をかぶった黒髪の女、それにまるで中世騎士のような恰好をした甲冑を着た黒髪短髪男が何かを囲んでいる。近づいて、ポンと肩に手を置き「ねぇ」と話しかければ彼らはこちらを見る。


「なんだ?旅人か?」


 黒髪の男に言われて、俺はそんなものだよ、と返す。すると彼らが少しばらけた。

どうやら向き合ってくれるようだ。と一安心して彼らが囲んでいたのを見たとき、自分の背中に悪寒が走るのは致し方ないことだった。




 彼らに囲まれ、暴力を受けていたのは、かつて俺が召喚士としてこの世界にいたときに共に戦い、戦友と呼んでもいい存在の



 召喚獣と呼ばれる種族だったからだ。


 悪寒が走ったと同時に瞬時に理解したのは彼らが召喚獣を叩きのめしたことに対して微塵も悪いと思っていないこと。彼らが極悪人であれば納得するけど…


「君らは?旅人?」


「いいや!俺は勇者!俺たちは勇者一行だ!」


 元気よく答えられて絶句した。勇者?なんだそれは?前に来た時にはそんな連中1人だっていたことはなかった。しかも召喚獣殺しかけてたやつらが?やばいついていけなくなる。ボロを出す前に離れたほうがいいけど、彼らに聞くよりかは…チラリとボロボロになった小さな召喚獣を見やればその体はびくりと小さく震える。


「ねぇ、もしかして君ら忙しいんじゃないか?」


 クソみたいにわざとらしい俺の言葉に勇者と名乗る男はは「でも…」と渋る。その視線は、また子供の召喚獣へ。

 まだこんな子供の召喚獣を殺せないようじゃお前この先が思いやられるなと心の中で毒づきながら


「この子は俺が処理しとくから!もちろん君らの手柄だって旅の道中で話しておこう。これでどうだ?」


 そういえば、女の子が「ねぇ、それなら問題ないんじゃない?」と勇者に耳打ちする。

「そうだぞ、俺らはもっと大物を討伐しないと」もう一人の顔のよく見えない男も勇者に耳打ちする。渋々、といった様子で頷く。


「危なくなったら絶対に逃げろよ!」


「はいはい」


 去り際、そう言う勇者に私はひらひらと手を振り、震える召喚獣へと向き直った。

 まだその召喚獣は震えていて、かわいそうなくらいに目に涙を浮かべている。その頭を掴んで俺はにっこり笑うのだ。


「君の、家に案内してくれ」


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