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「準備はよろしいですか?召喚士様」


「えぇ、ありがとうございます」


 出口だという魔法陣のすぐ近くまで見送りに来てくれた婆さんは、俺とリアンを見るとにっこり笑う。あれから、すぐにでも出発しようという俺の意見にリアンは首を傾げながらも賛成してくれた。急いだ方がいい、と何かが俺の中で急かすのだ。


 その前に、とポンッと取り出したファイルから紙を取り出して婆さんに渡す。リアンが持って行った調査書に混ぜたものと同じものだ。これが、俺の最大の力になる。紙に、『召喚士、召喚獣における契約書』と書かれたそれを。


「婆さん、俺の力になってくれる奴がいたら…これ、お願いします。俺は何の力もない、俺の身体は貴方たちからしたら脆くて矛にも盾にもなれやしない。けど、貴方たちの力を最大限に引き出せるのは俺だけだ。もし、戦おうという意思のある奴がいれば俺の力になってくれると嬉しい」


 差し出された紙を受け取った婆さんは、「ふむ」と呟くと俺に視線を合わせる。やがて、口を開くとニコリと笑って言った。


「召喚士様、貴方と共に戦うことで我らに何のメリットが?」


「…脅迫のように聞こえたらすみませんが、おそらく俺がやられたらあなた方は勇者達に対抗する力を失う。滅ぶのが10年か、100年か、それは分からない。けれど確実に召喚獣という大きな種族が滅ぶ。世話になった貴方達を見殺しにしたくはありません」


 心の底からの本心だった。考え込む婆さんの返答を待てば、返事はあんがい早く訪れた。やがて顔を上げた婆さんは後ろに控えさせていた青年に紙を手渡し、一言二言、言葉を交わすと青年はこくりと頷いてどこかへ走り去っていく。その様を近くで見ていたリアンと俺は顔を見合わせていれば、婆さんはふふっと小さく笑うと安心してくださいな、と言う。


「召喚士様、貴方の言うメリットはよくわかりました。我らの思うデメリットを超すメリットであるならば従わない道理はありませぬ。長としてどうにか私がしておきましょう。我々は、貴方の下につくことをお約束いたします」


 頭を下げた婆さんに「ありがとう、ございます」と俺も頭を下げる。これで、俺のここでの目的は全て達成した。リアンも召喚士様、お早く!と声をかけてくるのが聞こえてもう一度婆さんに礼を言うと魔法陣の上に立つ。


「召喚士様、頑張ってくだされ。我ら蛇族、応援しております」


「えぇ、ありがとうございます」


「私の村もどうかよろしく頼む」


 ヒラヒラと手を振る婆さんに俺とリアンも手を振る。消える瞬間、婆さんが何か言おうとしていた気がするのは気のせいだったのか、どうなのか俺にはわからない。ただ、街へ向かうという思いが俺の心を満たしていた。


───…


「ここは…?」


「昨日、私たちが使者に出会った場所ですね。あの地面の溶け方はそうだと思います」


 飛ばされた先は、昨日あの片言だった奴が力んで毒を出してしまったと言っていた場所だった。リアンに言われてそちらを見れば、確かに地面が溶けたような跡があり昨日の場所だろうと推測できる。婆さんの村の方角から真反対の場所に街はあるのでここまで戻してもらえれば順調に歩ければすぐに街につくだろう。元々の出口かここだったのか、すぐに街に戻れるようにと気を使ってくれたのか、それはわからないけどな。


 リアンは鼻を動かしながら周囲の状況を見ると、いろんな方向へ行ったり来たりを繰り返し少しそれを何度かやると笑顔で俺の方向へ走ってきた。


「召喚士様!このあたりに勇者の匂いはありません!行きましょう!」


 そういやこいつ忘れてたけど狼だったなぁ…。風使えるんだったらそれ使って敵探知とかすればいいのにとか思っていいんだろうか…多分言っちゃいけないんだろうな…。


 うきうきで歩みを進めるリアンに思ったことも言えず、俺は後ろから髪をくしゃりと撫でるとリアンは嬉しそうに笑った。


「ところで召喚士様、街に行ってまずは何をされるおつもりで?」


 森から道に抜け、ひたすら街へ向けて歩く最中。ふと、リアンの質問に俺はドバっと冷や汗が出た感覚がした。ちなみに、荷物は今はリアンが持ってくれている。俺が持とうとしたところをぶん取られたからだ。地味に昨日の約束を覚えているから何も言えなかった。と、そんなことはどうでもいい、街についたときの一番の行動の話だ。


 現在、昼を少し過ぎた頃、太陽がほぼ真上で照れつけている時間帯だ。街につくのは恐らく夕方から夜にかけてだろう。とりあえずは宿を取るとして、その後の行動を全くもって考えていなかった。とりあえず勇者に聞き込み…、いや危ないな。勇者はギルドに属しているんだからギルド関係者でもない限り勘のいいやつなら何かあると思われる。かといって周辺に聞き込みをしても噂話と混同して嘘か本当かわからなくなるし…。


 うんうん考えた俺は、ふと思いつく。そうか、ギルドの関係者でなければ怪しまれるなら…ギルドに入ればいいんじゃないだろうか。幸い金もそんなにない。ギルドの仕事を少しやりながら情報収集をし、お金も貯める。貯めることは大事だ。俺の人生の教訓だからな。


「リアン、とりあえずは着いたら宿を取るぞ。んで、明日金稼ぎと情報のためにギルドに行く。多分討伐関係のでかい仕事じゃなくたって小さい仕事はあるはずだ。そこで勇者全員から情報を引き出す」


「なるほど…」


 納得するように返事をしながら考え込むリアンはブツブツと何かを呟くと、「それは、良い案です!」と返す。心の中で少しほっとした俺はニッと笑うと街の方角を指さす。


「とりあえずは街を目指すぞ。宿取って、そこで考えよう」


 俺の提案にリアンは「はいっ!」と返すとまだ明るいその道を意気揚々と歩き出す。俺は、その後ろを和みながら歩いて行った。


「ところで召喚士様」


「なんだよ。今いいとこで…」


「街の方角はそちらではなく反対です。そちらですと全く違う方向に出てしまいますよ?」


「…え、まじかよ。もっと早く言えよ」


「召喚士様があまりに楽しそうなもので…」


 前言撤回。全く和めない。


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