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めくったページには事細かに街の情報という情報が詰め込まれたかのように連なっていた。街には召喚獣の被害が出ていること、冒険者や勇者が利用するギルドという何でも屋に近いものがあること、街はそこそこに栄えていること。ページを読み終われば本は勝手に飛び立ち自分で元あった場所に戻っていく。それを見届けた俺はまた新しい本を手にするのだ。
そうして、何時間ここにいたのだろう?いくつかの本を読み終え、勝手に戻っていく本を見つめて自分の手が次の本に伸びなくなった。終わったのだと思ったのは少し経った後だ。
「リアン、そっちも終わって…って」
リアンの方へ振り向いた時、何故かリアンは大量の本に埋もれていた。何やってんだ?と首を傾げ、「リアン」と呼びかけるとリアンの手がぴくぴくと動く。…なんていうか、こういう敵キャラがゾンビゲームによく出てきてたなぁ。
「ホッホッホッ、情報を欲張るからそうなるんですよ」
笑う婆さんに反応するかのようにリアンの手はぴくりと動くとバン!と手を地面につくとぐぐぐっと肘を曲げ、本を持ち上げながら体を持ち上げていく。本の隙間から見えた目の眼光が怖すぎてなにも言えない。びくりと体を震わせた俺に対し、婆さんは未だ面白いものを見たように笑っている。というか、これホラーゲームとかホラー映画で見たことあるわ、超絶怖い。
「この…蛇が…私の方にはロック掛けましたね…」
「おや、忘れてしまいましたのぉ…年のせいでしたかねぇ」
睨みつけるリアンに笑う婆さん。何度目かの光景になんだかもう慣れてしまって実はこの2人は仲がいいんじゃないかと思えてくる。が、そんな俺の想いなどお構いなしにぎゃんぎゃん騒ぎ始めるリアンは叫びながら婆さんに向かって叫んだ。
「おかしいと思いました!こんな…大量の情報を他人がほいほい見れたんじゃ隠すもなにもないです!一番の宝庫とも言えるのに入れたら最後、勝手に情報を見せてくれるなんてこんなに便利な場所はありません!貴方がロックを外さない限りここの文献や情報の書かれた本は見ることもできないんでしょうね…!」
「わかってて引っかかりましたか、本当に面白い奴ですなぁ」
ぴくぴくとこめかみを動かすリアンに婆さんはついに上品な笑い方からお腹を抱えた笑いに変わっていく。再度始まるピリピリとした空気に何度目かわからないため息をついた。
「いい加減に…せいっ!」
「ぎゃんっ!」
「あでしっ!」
ゴンゴン!と拳を振り下ろせば、珍妙なうめき声をあげた2人の頭のてっぺんに、たんこぶが出来た。仲良く頭を抱える2人はそのまましばらくうずくまるとやがてぶーぶーと文句を垂れ始める、が。
「リアンはいちいち文句を言うな。婆さんはリアンをいじめない、貴方いい年なんだから少しは落ち着いてください」
「ですが召喚士様…」
と、反論しようとするリアンにずいっと近寄るとにっこり笑顔のままぎゅっと拳を握りしめ圧力をかける。
「わ か っ た か ?」
「ひぃっ!」
情けない声を出したリアンは猛ダッシュで婆さんの後ろに隠れるとちらちらとこちらの様子を伺うように少しだけ顔を出しては隠れるを繰り返す。そんなことをしても何の意味もないんだが…まぁいいや。
「婆さん、情報はだいぶ助かります。備えがまた1つ増えました。この情報がある無しでは恐らく天と地ほどの差があるでしょう。
そして、もう1つ聞きたい。ここに書いてあることは全て真実ですか?」
村の情報の中に紛れた少しの歴史、それが何よりも目を引いた。目を引いた、というよりも信じがたいと言ったほうが正しい。それが、俺も知らないことだったからだ。1000年前、俺がいたはずの時代の歴史。
「さぁ、どうでしょう…。ここにあるのはあくまで史実。私達の一族が語り継いだものでございます。史実は、現実であるとは限らない。同時に、嘘であるとも限らない。取捨選択をせねばならないのです。それは、本人以外することのできないことは召喚士様もよくわかっているでしょうに」
にこりと笑う婆さんに、俺は何も言えなくなる。わかってはいた、わかっていて尚聞いたのだ。そこまで信じがたいものであったから。ここへ来てから、俺の望んだものも信じたものも裏切られた気がしてならない。
俺が開いたそのページに、召喚獣が襲ったという事件の概要も、内容も、全て書いてあった。その中でただ1つだけ1000年前に起こった事件が書いてあったのだ。
『1XXX年、【召喚獣による召喚士襲撃】
襲撃、というには襲った召喚士は1人であった。が、幾十もの低レベルな召喚獣が召喚士を襲った事実は本当である。奴らが召喚士の何に惹かれたのか、詳しくは不明。
我ら召喚獣があの召喚士によって人間の耳に噂を流され、人間の手により殺されるのかもしれない。』
どれだけ、こんなものはなかったと否定しても書いてあることは変わらない。これが本当にあったことなのか、実際はなかったことを不安のあまり書いたことなのか、これを書いた本人以外わかるはずもないことだったのだ。
「情報は情報、信じるも信じないも貴方の好きなようにすればよろしい。肯定も否定もすることができない私を、どうか許してくだされ」
婆さんが申しわけなさそうにするそれを見て、ようやく頭が冷えた思いだった。この出来事が、今起こっている召喚士の襲撃に関係していると決まったわけじゃない。どちらにせよ、それを見極めなければならないのだ。
「婆さん、俺達はすぐに街を出発します。否定も、肯定もしないでくれてありがとう。本当のことを言ってくれて感謝します。肯定されなければ、まだ希望はある」
ニッと笑った俺に婆さんはポカンと口を開いて呆けた顔をした後、いきなり吹き出すと
「あぁ、貴方は本当に頼もしい召喚士様よ」
そう言って、笑った。




