23
ぎゃあぎゃあと騒ぐリアンをなだめて数分、図ったかのように現れた婆さんに俺がため息を吐いた理由はどうかわかってほしい。高笑いする婆さんに激怒するリアン、騒ぎを聞きつけた青年2人が必死になって止めてる図だ。10年前、俺は召喚士を断るべきだったのだろうか。
「まぁまぁ、そんなに落ちこむことはありません。ここから一番近い街の情報をあげましょう。ついていらっしゃい」
何故か俺の心を読んだかのように言う婆さんは笑いながら杖をつく。歩いていく婆さんにおとなしく付いていくが、リアンは未だ不機嫌のまま俺と婆さんをじろりと睨む。ぐいっと力強く引っ張られたかと思うとリアンは婆さんには聞こえない声でこっそり耳打ちをしてきた。
「召喚士様、私があの婆から受けとった紙にこっそり混ぜましたね?」
あ、ばれてーら。いやまぁ、ばれてくれなきゃ困るから結構すぐわかるように忍ばせといたんだけどさ。誤魔化すようににこっと笑う俺にリアンは頬を膨らませると「まぁ、いいです」とリアンは思いのほかあっさりと引く。なんでなのか突き詰められるとばかり思っていた俺は逆の対応を取られ、そのことに首を傾げれば、リアンは真剣な顔をして俺に言う。
「召喚士様が私の持っていた調査書に紙を混ぜたことは、確かに少しムッとしました。それは事実です。でも、逆を返せばそれは召喚士様がそれだけ真剣に、敵を侮ることもなく、自分の力を過信するわけでもましてや私だけで充分だという思いがないことになります。
貴方が、私たちを必要とし何かあったときのためと何重にも備えをさせておく。私個人の想いとしては頼りないと思われ寂しいですが、種族を治めるリーダーとしての想いで言えば、貴方について来ることができて嬉しいことこの上ありません」
ポンッ!と人の姿になったリアンは、ふふふっと笑う。
俺が、リアンに持たせた紙は今後重要になってくるものだ。俺が弱いこと、俺が召喚士というものに向いていないこと、俺が人に頼ることでしか能力を使えないことは誰よりもなによりも俺が一番よくわかっている。弱いことは罪ではない。が、弱さを理由に何もしようとしないのは罪だ。何事も使えるものの工夫次第ではどうにでもなるという考えが俺の考え方であり、俺の弱さを前向きに受け取るための思想だ。
『いいか、お前はどうやったって弱い。普通に弱い。お前より子供の召喚獣の方がはるかに強いくらいお前はゲボ程弱い。言い過ぎだろうが本当だ。だが、お前にはお前だけの術が幸いにもあるんだ。それを最大限に活かせ!』
あぁ、嫌なことを思い出した…。そんなことも言われたっけなぁ、と苦笑いしてしまう。これだけクソだ弱いだ雑魚だ言われても諦めなかった高校時代の俺は本当に馬鹿なのか諦めが悪いのかそれとも、負けず嫌いなのか。今じゃもうできない若気の至りってやつだろう。
「そうか」
それだけ返せば、リアンは「えぇ!」と言って笑う。ふと、何故か一言も話さない婆さんを不思議に思って前を見た瞬間、後悔した。婆さんがとんでもない顔でニヤニヤと笑ってこっちを見ていたからだ。あれは親とか親戚とかが異性と話す息子や子供を見た時にする顔だ、いい雰囲気じゃないですかと表情が物語っている。どうでもいいから前見て歩け。
「仲睦まじいですねぇ」
「その顔やめろ」
おっと…と口をつぐんだ婆さんはそのまま何事もなかったかのように前を向くと杖をつきながら歩いていく。クックックッとこらえきれないのか笑い声が聞こえてきてなにもやましいことはないはずなのに無性に恥ずかしくなってきた。少し熱くなった顔を隠すようにまっすぐ前を向いて歩けば、目的の場所にはすぐに着く。
無限に続いているんじゃないのかと思う廊下の最奥、大扉のある場所止まると婆さんは1つ、杖を地面に突く。その瞬間に扉は、ギギギ…と音を軋ませながらゆっくりと開いた。
「ここは、私の保有する資料館です。このあたりの情報ならここが一番情報を見れますでしょう。持ち出しは出来ませんが、見るだけなら好きなだけ見てくださって構いません。歴代続くので昔のものももちろんあります。気になるなら…どれを見てもいいですよ」
婆さんが開いたその先に広がるのは、1つの大きな机と、小さな椅子が5つほど、それに壁に沿うように無数に置かれた本棚と本の山だった。ところ狭しと並んだ本は場所ごとに分かれており1つ手に取れば勝手にバラバラバラ!と、とんでもない勢いでめくれるととある位置でピタリと止まる。驚いて固まる俺に婆さんは面白いものを見つけたように笑うと、すみませんなぁと言うとまた笑った。
「初めてここを利用する者は皆同じような反応をしますのでな。思わず笑ってしまいました。ここの本には全て魔力が込められております。貴方の望む情報は自然と手が伸び、本は貴方の望む情報のページを示す。膨大な量ではありますが、そうすることで調べる時間を短くすることができるのでございますよ」
見れば、リアンも別の本を手に取って見ている。なるほど、と納得すれば婆さんは近くの椅子に腰かける。
「調べることがなければ自然と終わりますでな、そう大して時間はかかりません」
「へぇ、便利なんですね」
「それはもう、私たちは戦闘が得意なわけでも魔法が得意なわけでもない。私たちの武器は情報と幻術だけですので」
感嘆する俺に婆さんはにっこり笑った。




