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「さて、召喚士様。話はここからになります」
先ほどのにこりと笑った顔とは打って変わり、婆さんの顔は真剣そのものの顔になる。その顔に思わず俺もぎゅっと口を結んだ。婆さんは、持っている杖をくるりと回すと地面に叩きつける。その瞬間、杖のついた地面から輪に景色が変わっていく。花畑は赤いカーペットに変わり、机は大きくシンプルな机に、椅子は皮張りの大きな椅子に変化する。
「雰囲気はとても大切なことでございます。人に話を聞かせる雰囲気を作ること、自分に有利な場所を相手に見せること、相手に嫌なものを見せること。逆に、相手から見せられた場合。視覚からの情報は、感じることのできる情報のほとんどを占めていると言ってもいいのです。それは無論、戦いの場でも。
貴方が相手にする奴らは、そういうこともしてきましょう。貴方を相手にすること自体は脅威ではないからです」
ぐっと、息がつまる。今、言われたことが俺の弱点だったからだ。俺自体が脅威ではないこと、俺自身はなにもできないこと、俺が弱いこと。工夫を練り上げていく上でどうしても俺の弱さだけは犠牲にしなきゃいけないことだった。俺が何故そこまでよわいのかと言えば、
「魔力の1日の生成量が絶望的に少ないのですからね」
クソのような俺の身体のせいだ。
ここで、この異世界における強さの秘訣について話そう。この世界は人間も、婆さんみたいな召喚獣も全員魔力と呼ばれるものを持っている。魔法を使う場合、何か特別な技を出す場合に必ずこれが必要となるのだ。リアンで言えば空気を吐き出す攻撃をする場合、婆さんで言えば今のように幻術を使う場合。これがどこで生成されるのか?と言えばそれは自分の体の中だ、人により魔力が多い者、少ない者、様々ではあるがこの魔力は一日に生成される量は生まれつき決まっている。多ければ多いだけそれだけ魔法を使えるし、威力の高い魔法を使用できる。少なければ少ないだけ使う魔法は限られ、威力の低い魔法しかつかうことができない。
俺の場合、その生成の絶対量が圧倒的に少なかった。
この世界の一般人の生成が100とすれば俺は1程度。かろうじて生成ができている、くらいの生成量だったのだ。よって、俺の魔力の量では一般人に勝つことすらできない、一般人に勝てないのだから勇者になどもってのほかだ。
その理由があるからして、俺は本来であればこの上なく召喚士に向いていない人間だった。本来であれば鍛えて、修行を積んだ後に魔法をほとんど使わない剣士やら格闘家になるのがこの世界の暗黙のルールではあったが、俺は特に何かを鍛えていたわけでも習っていたわけでも、なおかつ学生時代に入っていた部活は全く活動していなかった応援部だ。体は貧弱というよりもやしと言うのが正しかった。
まぁ、自分の身も守れない俺が召喚士になったのにはそれなりに理由があるのだが…。
「召喚士様、警戒を持ってくだされ。私が敵意を持っていたとしたらどうします?私が貴方を殺したがっていたらどうします?むざむざ殺されるおつもりですか?」
ぐぅの音も出ない正論だ。「以後、気を付けます」と頭を下げれば婆さんは満足そうににっこりと笑う。ふむ、とどこか遠いところを見ると杖を1つ、軽く地面に突く。
途端にまた景色がくるりと変わる。変われば、そこは元いたあの部屋に戻っていた。それを見計らったようにドアがバァン!とはじけ飛ぶ。そこにいたのは、息を切らせたリアンが何故か人の姿から狼に戻って婆さんを睨みつけていた。
「このクソ蛇婆!この家を迷路にしたな!」
「ホッホッホッ、なんのことやら」
「あんたしかこんな大規模な幻術掛けられないの知ってるんですよ!」
怒り狂うリアンに、婆さんはひたすら目を逸らして笑う。ついには婆さんに噛みつこうとするリアンに思わず止めに入るが、リアンは止まらない。
「ホッホッホッ、召喚士様、自信を持ちなされ。こやつはここまで貴方に尽くしているのですからな」
唐突に言う婆さんに、俺もリアンも一瞬動きが止まる。その隙を見計らったように婆さんはもう一度杖を地面に軽く突く。そうすれば、ばあさんの姿は瞬きをする間に消えていて、俺が呆然としていればリアンが大きく息を吸い込んで叫んだ。
「このクソ婆が!!!!!!!!!!!!!」




