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 茶を飲みほした婆さんは、ほっこりした顔で1つ息を吐くと、空いているカップに茶を入れて俺に差し出した。


「話は長くなります、どうぞ」


 なんとなく逆らえずに1口飲むと、婆さんはにっこり笑って「聞きたいことは?」と声をかけてくる。カチャン、と食器同士がぶつかる音がやけに耳に残った。いつの間にか鳴いていた鳥も、周りを飛んでいた蝶も消える。ただ、静かな空間だった。


「…俺の、姿は、顔は、貴方には見えてるのだろうか」


 声が震えた。正直、眼がいいと聞かされてから俺の望みはここと、僅かな望みの魔王しか心当たりがないのだ。魔王だって恐らく専門ではない。もう、ここで俺の目の前にいるこの人がわからなければ、この違和感はずっとこのままだ。


 婆さんは、笑ったまま「えぇ、見えていますとも」と答えると俺と目を合わせる。


「短い黒髪と目は召喚士様にとても似合っています。もう少しだけ食事は多くとらないと痩せてしまいますよ?小顔なんですねぇ、かわいらしいと思います。それから…」


 婆さんは、一つ一つ丁寧に俺の顔の特徴を言ってみせた。ふと、言葉を止めて少しだけ悩む素振りを見せてまるで憐れんでいるかのように笑うと、


「魂は30歳近い年齢に感じますが、とても若い。外見は10代のようですね?」


 言われた瞬間に、俺は笑ってしまった。自然と口角が上がっていって笑ってしまう。そのまま、目の前が潤んで持っていたティーカップに水がボロボロ落ちていく。もう自分でも訳が分からない。涙腺がぶっ壊れたみたいだ。なんで泣いてるのかわからない、わからないけど勝手に涙が落ちてきた。


「見てくれて、違和感がわかって、それでも笑ってくれたのは貴方が初めてです」


 鼻がツン、と痛くなって目頭が熱くなってくる。ボロボロと流れる涙は止まってくれやしない。俺が、10年間感じていた違和感と疑問はこれだった。何年経っても俺の見た目は変わらない、雰囲気が変わらないとか顔の作りが変わらないんじゃない、まるで高校時代の自分が今も尚ここにいるような違和感。いつしか、俺は気付くことになった。俺の肉体の時間がまるで止まってしまったようだと。




「ですが、申しわけありません。それ以上のことは、私にもわからない」


 残念そうに、俯き首を振る婆さんに俺は首を振る。充分だった。わかっただけでも充分な収穫と幸福感。どうしようもなく沸き起こる満足感に満ち足りていた。


 俺が、客観的に見てどう見えているのかは理解した。俺が一番知りたかったこともわかった。俺の身体と魂の相違について、確信をすることができた。ならば、次に進まねばなるまい。


 パンッ!と両手で自分の頬を挟むようにして叩く。じんじんと痛む自分の頬が流れていた涙を止めてくれる。問題はこれからだ、今この世界に起きていること、新しく来たというチート勇者のこと、問題はまだまだ山積みだ。


 覚悟はできた、自分のことも少しはわかった。けど、ここが始まりだ。これから何をすべきで、何をしていくべきなのか。それをしっかり考えていかねばなるまい。




 その先がどれだけ俺にとってつらいものだとしても。


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