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突然だが青春真っ盛りともいえる高校2年の頃、俺は奇妙な体験をした。
そこまででもないと言われれば納得してしまうかもしれないけれど、それでも俺にとってしてみたら一生の思い出とも言える体験だった。
まず、俺は『パチンコ・スロット』という1文字1文字が看板になっている『パ』と『ロ』に追い掛け回された。
この時点でわけがわからないと思うだろうけど俺だって当時は思った。そりゃあそうだろ?通学途中で看板に追い掛け回されるなんて誰が想像できる?そもそも『パ』と『ロ』の看板が落ちた後の残りの看板を考えてみれば「どこの風俗店かな?」なんて思われるに決まっているんだ。
そんなこんなで看板という人生で一番わけのわからないものに追い掛け回された俺は思ったわけだ、明日のニュースでは『パ』と『ロ』の看板に押しつぶされた自分のニュースが流れるんだろうと。覚悟を決めて目を瞑って、なかなかこない衝撃にうっすら目を開ければ、
俺は、どこかもわからない場所で見ず知らずの人間の目の前に突っ立っていた。
この時点でパニックを起こした。最初は天国なのかとも思ったけれどそうではないらしい。
俺が来たのは所謂『異世界』、そして世界を救うのは自分であると言われたわけだ。よくもまぁ何の才能もない俺を異世界なんかに呼びやがったなと胸倉掴みたかったが、もやし、ひょろ男、クラスで筋力は中の中な俺には鍛えた異世界人に文句を言うなど恐れ多いことであった。
真面目に意味がわからなかったが、俺を召還した人間からとにかく召喚士として育てられた。そこで地獄のような修行や色んな困難がありその時の魔王と向き合ったのだが…
魔王はわりといい奴であった。
話してみれば意外に意見は合うしノリもいい奴で、話し合いと意見交換、条件交渉で全てのことは解決した。あちらにもあちらなりの事情があったらしい。人間側は人間側で魔王を誤解し、魔王は魔王で人間を誤解する、一番厄介なパターンだった。
そして、役目を終えた俺は地獄の修行も誰かと戦うことも望まなかった。そもそも俺には俺の人生があり、その人生を生きるのはここではないと思ったのだ。その旨を異世界人に伝えれば無事、異世界の人間によって元の世界に送り戻され、いつの間にか大学へ進学。企業に入りやがて投資でどうにかやっていける日々を送っていた中、この10年間、俺が疑問に思いながらもなんとか気にしないようにしていたことにもうそろそろ自分で自分がごまかせなくなってきた。
疑問を払しょくするために実験は色々試した。1つ1つ徐々にわかっていく中で俺の疑問は一点に集中する。この疑問に感じるものをどこで俺が拾ってきてしまったのか、だ。恐らく今自分がいる世界では到底拾ってこれるはずのないそれに、思い浮かべるのは10年前に行った異世界だった。
「そうだ、異世界に行こう」
この時ばかりは、何故か自然とそう思えた。