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笑う婆さんは白髪で、髪を後ろで丸く結ってまとめてあり目はサングラスをかけているためよくその表情を見ることができない。そして、俺の姿をみるなり興味深そうにずいっと近づいてくる。そして、「ほぅ…召喚士様は面白いですなぁ」と呟くとにっこりと笑う。すぐさま離れた婆さんに思わず
「えっ?…ンベシッ!?」
声を出した瞬間、背中に落ちてきた衝撃に顔から地面に突っ込んだ。これで俺の鼻が潰れたら裁判で勝てるかな?いやこの世界に裁判っていう概念あるのか?いや、まぁいいんだけどさ…。痛い…。
「オババ、ショーカンシツレテキタ」
「知っておるよ。お前さんの下にいる」
ぴくぴくと手を伸ばした俺の手を見ながら和やかに会話を進められるお前らのスルースキル高すぎやしませんかね?
「いいから…はよ…退くか…助けろ…」
死ぬ…主に肺が潰されて死ぬ…。婆さんは、「お前さんら、元の姿に戻っていいよ」と言った瞬間、俺の上でポンッ!と軽い音と共に乗っていた何かが急激に軽くなっていくのを感じた。俺の身体に残されたのは、タオルケットのように掛けられた黒いコートだけだ。
「ショーカンシ、ダイジョウブカ?」
そして、俺が顔をあげたその先にいたのは、真っ赤な小さなその舌をチロチロと出し入れし、長い体をうねらせ、小さな目を光らせるそれはそれは小さな蛇だった。
「あぁ…お前ら蛇だったのか…。じゃあ最初に会った時の地面が溶け出したのは…」
「オツカイ、ハジメテダッタ。リキンデドクデタ。ゴメン」
力んでお前ら毒出るのかよ…やべぇ奴らだな。聞くところによると、こいつらは毒が出てしまう種、体が小さい種、大きい種など様々いるそうだ。この中で特に大変なのが毒が出てしまう種でこれに関しては感情の高ぶりなどで勝手に出てしまうらしい。人間にも特に敵視されており、見つけ次第殺されかけることは常だそうだ。蛇の中でもこいつらは腫物のように扱われることがあり、どうにも番いが見つからないことが多い。と…
「どうか許してやってくだされ、召喚士様。正直、儂の人選が悪かった」
「ほんとにな!」
ヒャッヒャッヒャ!と笑う婆さんを見ていればどっと疲れが出てくる。あとアロハシャツが無性に疲れに拍車をかけてくる。なんなんだよそれ、どっから手に入れたんだよ。
「さて、詳しいことは明日にでも致しましょう。そっちの、犬っころも明日の方が準備はできるだろうて」
未だ、丸くうずくまり自分の周りの空気をどんよりさせているリアンを見て婆さんはにこりと笑う。特に敵意は見られない。まぁ、リアンがこんな状態じゃ確かに動けねぇしなぁ。けど、俺としてはできるだけ話は早く聞いておきたいが…。
「召喚士様、急ぐのは分かりましょう。ですが、今は体をお休めになったほうがいい…儂にも準備がある」
「準備…?」
首を傾げながらも準備なら仕方ないかなと考えていれば、婆さんはどこから出したのか右手に小さな箱のようなものを取り出すと、
「いやぁ、これを今日見る予定だったでのぅ。ちぃと明日まで…」
と、その手に持つものをよくよく見てみればビデオテープだ。背面に『禁断のラブロマンス』なんてタイトルもつけてある。まじか、まじか婆さん…。何歳かわからないけどその年でそれ見るのか…元気だな。ちょっと元気分けてくれよ。と、思ったのも一瞬。すぐさまドドドドドドドドド!!!!と、遠くから走ってくる焦った顔をした男数人がとんでもない勢いで走ってくると婆さんを睨みつけ叫ぶ。
「大婆様!また抜け出して!!!!!!明日は召喚士様にご案内するんだから今日はいつも以上にお仕事をやってもらいますからね!」
正直他人の俺から見ても怖いその剣幕に婆さんは表情を固まらせる。少しだけ何か考えたようなそぶりを見せた後、ポンッ!と軽い音と共に俺の首に何かが巻き付く感覚がしてぞわっと鳥肌が立った。なんかもうね、この先予想が付くよねぇ…。
「匿ってくだされ召喚士様、バラしたら首に巻き付いて殺す」
「すまん、まさか脅しを受けるとは思わなかったわ」
もうちょいソフトな感じでばらしたら駄目だぞ♡みたいなお願いを想像していた俺からすれば予想外の脅しを受けびっくりしていれば、驚異的なスピードで走ってきた男たちに囲まれると「大婆様は!?」と必死の形相すぎてもはやホラーになっている顔で聞かれる。首根っこの巻き付いているそれをベリッっと剥がすと、「これ」と差し出した。
その日、俺たちが聞いた婆さんの最後の一言は
「裏切者おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ…」
だった。が、俺はなにも気にしないしそもそも仕事をしていない婆さんが何もかも悪いし俺相手に脅しとか使うのが悪い。なにより俺は脅しには了承していない。よって俺は裏切者でもなんでもない。俺悪くない。




